第39話
東堂は暗い表情をしている。彼女は自分のせいで花見に秘密がばれてしまったと話している。
「中学校、高校って上がっていくとき、小百合のことを超能力者だって知っている人達とは学校が別になっていって、高校に入学したタイミングで小百合の超能力のことを知っているのは私だけだった」
東堂は浮かない顔をしながら話を続ける。
「当然、高校でも超能力の話は隠していたんだ。そんなとき、同じクラスになった花見がたまたま超能力者の動画見ているの見つけてさ、声かけたんだよね。彼女、性格が独特で他の人と関わりが少なかったから、どんな人なのかなって気になっててさ。そしたら超能力者の話になったんだけど、花見は生で超能力を見たことがなかったらしくて『一度生で見てみたいなあ』って言ってた」
超能力者であると自称してテレビや動画サイトに出ている者は、稀ではあるが存在している。ただし、結局のところ手品や何か仕掛けを用意して超能力の演出をしていることがほとんどだそうだ。超能力者自体の数が少なく、その中でさらに動画に出演して超能力を披露してくれる人となると更に少ないのだろう。そういった人間を探して出演交渉するより、やらせの方が手間がかからないのでそうすると聞いたことがある。超能力者がそういったものに出演しない理由はなんとなくわかる。超能力のほとんどがちっぽけなものなので、動画として公開されると世界中で笑いものにされる可能性がある。そんなことになるくらいなら出たくないと思うのは当然だろう。加えて、今は経験値稼ぎのことを知ってしまった。自分がターゲットにされることを考えると、動画など絶対に出たくない。逆に経験値稼ぎをしたことがある人間も、殺人の容疑で捕まる可能性があるので、きっと出演は拒否するだろう。
「そのとき、つい私は生で見たことあるよって言っちゃったんだよ。決して小百合のことを言及するつもりはなかったんだけどさ。そしたら花見から怒涛の追撃が来ちゃって……」
東堂はそのときのことを思い出し、苦笑いしながら話している。俺も身を持って実感しているので、大変さはよく伝わってくる。
「私が花見から追い回されるのを見ていた小百合が、助けるつもりで『私が超能力者で東堂さんに超能力を披露したことがあるんだよ』って花見に話しちゃったの。そしたら今度は花見のターゲットが小百合の方にいっちゃって……危険だからってことで、超能力自体がどんなものか話したり、目の前で見せたりはしなかったんだけど……花見が小百合について回ったせいで周囲に超能力者であることが広まっちゃって……」
先程までの苦笑いから一転して暗い表情に戻る東堂。初め、東堂は自分が花見に秘密を話してしまったと言っていた。しかし、経緯を聞く限り、彼女が秘密を花見に直接言ったわけではないようだ。それでも自分が秘密を話してしまったと言うあたり、責任感の強いタイプの人間なのだと感じる。
「それから少し経ってさ、小百合がおかしなこと言い始めたの。『もしかしたら碧ちゃんのお腹の傷跡を治せるかもしれない……私が必ず治してみせるから少しだけ待ってて』って」
「碧?」
「ああ、碧っていうのは私の名前よ。クラスメイトなのに知らなかったの?」
東堂がまた苦笑いをした後、すぐに真面目な表情に戻る。東堂は重要調査対象なので、名前は以前にしっかり確認した。しかし、東堂の調査は主に綾音に任せていたから頭から抜けていただけだ。そう心の中で言い訳するが、そんなこと言えないので黙ってこちらも苦笑いで誤魔化す。
「私は傷跡のことなんて気にしてないよって言ったんだけど、小百合は中々聞いてくれなくて。小百合が段々暗い表情をする日が増えていって、心配になって何か無理していることがあるならもう止めてって、そう言おうとした矢先に連絡が取れなくなっちゃって……」
「そうか……そういう経緯があったのか」
東堂はそのときのことを思い出し、瞳が再び潤み始めた。東堂の話を聞く限り、杉崎に異変が起こったタイミングで協力者が彼女に接触したに違いない。超能力者は、他の超能力者を殺して経験値を稼げば自分の超能力を強化できる。杉崎の超能力は『二択の質問に回答した者に幸運を与え、回答しなかった者に罰を与えるという超能力』だった。ただ、東堂の過去の話を聞いている限り、自分の超能力を強く発動できる小学校でさえ、幸運を与える方の力は弱かったように聞こえた。きっと杉崎は、経験値を稼げば幸運を与える方の力も強化され、東堂の傷跡を治せる可能性があると考えたのだろう。
「杉崎がおかしくなり始めた時、彼女は普段話さない人と急に仲良くなったりしてなかったか?」
「急にどうしたの? 小百合は私以外あまり仲良い子がいなかったから、他によく話す人が出来たらすぐにわかると思うんだけど……そういったことは特になかった気がする」
「杉崎と連絡が取れない原因を探るのを手伝えないかなって。杉崎が急におかしなこと言い始めたタイミングで、誰かに何か変なこと吹き込まれてた可能性があるのかなと思っだんだよ」
「うーん、そんな怪しい奴は見た記憶ないなあ」
杉崎がおかしくなったタイミングで怪しい人物が周囲に見えなかったということは、協力者はもともと杉崎と話していても怪しまれない人物なのだろうか。もしくは協力者は直接の接触を避け、何らかの別の方法でコンタクトを取っていたのかもしれない。何にせよ、残念だがまだ特定するには情報が足りない。
「そうか、変なこと聞いて悪かったな」
「大丈夫、力になろうとしてくれているのは嬉しいよ……悠真君の言ったとおり、人に話してみて少しだけ気が落ち着いたかもしれない。今日はありがとう」
「どういたしまして。少しは気が晴れたならよかった。俺はそろそろ帰ろうと思うけど、東堂は?」
「私は……もう少しだけ残っていようかな。ちょっとだけ一人でいたい気分なんだ」
「そうか。もう暗いし、気をつけてな」
それだけ言うと俺は東堂に背を向けて教室から出ていった。
「今日も誰かわからずじまいか。というか本当にそんな奴いるのか?」
すっかり暗くなった夜空を見上げながら愚痴をこぼす。そんな奴とはもちろん、杉崎に超能力者を斡旋していた協力者のことだ。東堂と話し終えて帰宅の途についてから十数分の時が過ぎた。今は丁度、家と高校の間くらいで、駅のホームで電車を待っているところだ。そんなときスマートフォンに着信が入ってきた。ポケットからスマートフォンを取り出し、画面を見つめる。
「花見からだ。急にどうしたんだろう?」




