第25話
廃校の探索。正直死にかけた場所に戻るなんてあまり気乗りしない。しかし、杉崎がずっと学校に来ないことに関して心配していると言ってしまった手前、断りづらい。ここは一旦了承して探索を手伝う事とする。
「わかった。一緒に行くよ。でも何か危険を感じたらすぐに逃げるぞ。それでいいな?」
「もちろん! よかったー、悠真君がオッケーしてくれて。今回の件は気になってたけど、流石に一人だと怖くて足踏みしてたんだよね」
花見にも怖いという感情があったのか。警察もものともしない花見の考えを聞いた後だと、彼女が怖いもの知らずのように思えていたので意外だった。流石に殺人が関わってくるような事件は怖いのだろう。
「それで? いつにする?」
「明日の放課後とかどうかな?」
「明日か。また急だな」
「ダメかな?」
「そうは言ってないよ。大丈夫、行ってみよう」
「よし、決まり。それじゃ今日はこれで解散! 私は明日の準備のためにもう帰るね。また明日!」
「ちょっ、花見」
生き生きとした表情で部屋から出ていく花見。明日のことで頭がいっぱいだったのか、止めようと声をかけたが間に合わなかった。
「会計……」
侘しく一人部屋の中で呟いた後、花見の分まで含めた会計を処理し、カラオケボックスを後にする。花見には振り回されてばかりだ。明日の探索にやや不安を覚える会合となった。
「ということで明日、花見と廃校に行くことになった」
帰宅後、トレーニングルーム内で綾音にいきさつを説明する。
「知ってるわよ。全部聞いてたから」
通話状態にしたスマートフォンをポケットに忍ばせておいたため、当然花見との会話は全て綾音にも伝わっている。ダンベルを両手に持った綾音は、腕を休めることなく動かしながら返事をする。
「花見の行動力には驚かされるよ。ところで、杉崎の事件に関して花見ってかなりのところまで知ってるみたいだが、止めなくていいのか? このまま調査続けられたら技研に辿りついちゃうんじゃないか?」
飛び抜けたところのある花見だが、技研の存在を知らない一般人だ。俺は技研の存在を知ってしまったがために大変な思いをしている。花見に特別思い入れがあるわけではないが、出来ることなら俺と同じ轍を踏ませたくはない。そんな思いから、本当に花見と共に廃校の調査をしに行って良いのか、という意図で綾音に質問した。
「心配しなくても彼女が技研まで辿り着くことはないわよ。杉崎の件に関しては、死体が技研に引き渡されてからそれに関する情報は一切破棄されてるわ。それだけでなく、関わった現場の職員は別地域にとばされて、この付近にはもういない。廃校に調査に行ったところで、そこから技研まで辿り着けるような手がかりも残ってないわよ」
それを聞いて一安心する。明日の花見との廃校探索は、『残念だったが何も見つからなかったな』で終わらせれば良いのか。
「ところで東堂の方はどうだ? 何かわかったか?」
「今日、あなたが超能力者であるかどうかを私に尋ねて来たわ。花見が派手に動いていたせいで彼女にも噂が伝わったんでしょうね。けど、知らないと言ったらそれ以上食い下がって来たりしなかった。超能力者に強い関心を示さないから、彼女が協力者である可能性は低いかもしれない」
「そうか。それじゃ東堂の調査はこれで終わりか」
「いえ、念のためまだ続けるわ。彼女、杉崎の事に関して聞いても何も話そうとしない。会話した時の雰囲気から、何か後ろめたい気持ちがあるように見えるのよね」
「何も話そうとしないのは、思い出すと気が沈んじゃうからじゃないのか? 仲の良かった奴が行方知れずなんて結構凹むだろうしな」
「そうならいいんだけどね」
綾音はどこか腑に落ちない表情でいた。そのままの表情で少し経った後、ふと思い出したようにこちらに顔を向けて注意をしてくる。
「明日、花見に何か悟られるようなへましないように気をつけなさいよ」
「ああ、それはもちろん」
綾音はそう言うと、使っていたダンベルを片付けてトレーニングルームから出て行った。俺の方も残りのトレーニングを手早く終わらせると、その日は明日に備えて早めに寝ることとした。
「昨日はごめん!」
朝、教室に入って席に着くと早々に花見から謝られる。
「今日のことで頭がいっぱいになっちゃってさ。はい、これ昨日の私の分の代金」
どうやら花見は会計を払い忘れた事に気づいてくれたらしい。やや諦め気味だったので、お金が返ってくるのは素直に嬉しい。
「いいよいいよ。しっかり今払ってくれたんだし、もう気にすんなって。それより今日の放課後で大丈夫なんだな?」
「準備はバッチリだから、予定通り今日行くよ」
花見の目の色が変わる。気になることを自分で直接調査出来るのが嬉しいのか、気分が高揚しているように見える。
「ああ、わかった。俺も覚悟を決めとくよ」
彼女が何をもって準備バッチリと言っているのかわからないが、とにかく予定通り今日行くことが決まった。念のため、その後の休み時間に綾音にも予定通り今日行くことは連絡しておいた。
午前の授業が終わり、お昼を知らせる鐘が鳴る。昼食は今日も花見と学食で食べる約束をしている。ただ、食べる前に用を足しておきたい気分だ。トイレに行ってからすぐに行くと彼女に伝え、花見には先に学食に向かってもらった。花見と別れて彼女の姿が見えなくなると、唐突に誰かに話しかけられた。
「最近、悠真君も大変ね。なんだか変なのにまとわり付かれてるんでしょう?」
声のする方向を向くと、そこには東堂がいた。




