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サイキックス  作者: Ken
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第2話

 何だ?一体何と答えるのが正解なんだ?目の前に殺人鬼がいる。見た目は自分より華奢な女の子だが、俺より体格の良い男を難なく蹴り飛ばせる力がある上に、躊躇なく人を刺し殺せるような奴だ。そんな奴が、俺が超能力者かどうか聞いてきている。

「ち、違う。超能力者なんかじゃない」

そうだ。これが正解なはず。女の子は超能力者のようだった。そして、さっき女の子に殺された男も超能力者だった。殺された男は、超能力者が超能力者を殺せば、持っている能力を強化出来ると言っていた。その話を信じると、ここで俺が超能力者と言ってしまうと、きっと女の子は俺のことも殺そうとしてくるに違いない。

「そう……残念ね。超能力者だったら使い道があったかもしれないのに」

女の子はそう言いながら俺の方にさらに近づいてくる。女の子の言葉を最後まで聞く前に、俺は立ち上がって全速力で逃げていた。女の子が話し始めたときの表情が、男と殺し合いしていたときのように冷酷なものに変化したからだ。

「くそっ!何なんだよ!訳わかんねえよ!」

質問に対する正解は、俺の回答とは逆だったようだ。なぜ一般人だと殺そうとするのか意味が分からないが、考えている時間がもったいない。今はとにかく逃げることが先決だ。心臓が破裂しそうなくらい全速力で走る。

「はあっ、はあっ、はあっ」

しかし、すぐに息切れして走れなくなってきた。今日ほど普段の運動不足を後悔した日はないだろう。どれくらい女の子との距離が開いただろうか。確認するために後ろを振り返る。

「観念して大人しくして。苦しまないように片付けてあげるから」

後ろには息一つ乱していない女の子がいた。先程の男との格闘で、明らかに普段から鍛え上げているのがわかる動きをしていた。運動不足の俺が撒けるような相手ではなかったのだ。

「まっ……」

待って、と言いたかったが、息も絶え絶えのためにうまく喋れない。立っていられなくなり、その場に倒れて地面に頭と手をつく。頭上で女の子が動いた気配がした。まずい、まずい、まずい。何かしないと殺される。

「ちょう、はあっ、のうりょくしゃ、はあっ、はあっ、ほんとうは、まって」

全速力で走った後なので焼けるように喉が痛い。しかし、殺されるかもしれない状況でそんなことは言っていられない。絞るようになんとか喉の奥から声を出す。

「苦し紛れの嘘なんてみっともないわよ」

もう駄目だ。これ以上喋れない。体も動かせない。

「嘘かどうかは、試しに彼に能力を見せてもらってから判断しても遅くはないんじゃないかな?」

何だ?女の子とは別に男の声が聞こえた。もちろん先程女の子が殺した男とは別のものだ。呼吸をするのに精一杯で頭をあげられず、風貌がわからない。どうやら女の子を制止してくれているようだ。

「顔を見られてる。万が一逃げられたらまずいでしょ。だから早く片を付けておきたいの」

「顔を見られたのは君が常に仮面を携帯してないのがいけないんじゃない。君のミスのせいで殺しちゃうのは可哀想でしょ」

「それはっ……」

呼吸が少し安定してきた。まだ頭をあげる余裕はないが、周囲の状況を感じ取れるようにはなってきた。女の子は、先程急に現れた男が指摘したことに対して何も言い返せずにいるようだ。

「それじゃ決まりだね。ここだと人目につく可能性もあるからまずは移動しよう」

移動する?どこへ?いや、これはチャンスかもしれない。移動中、隙を伺って逃げ出そう。

「暴れられても困るから取りあえず彼には眠ってもらおうか」

「えっ」

突然首のあたりを絞められる感覚に襲われる。その後は一瞬で何も考えられなくなり、意識が遠のいていった。


 目を覚ますと真っ白い天井が目に映った。気が付くと見知らぬベッドで寝ている。周りを見渡すと、そこには銀髪でスパイキーヘアの男と俺を殺そうとしていた女の子がいた。銀髪の男はモデルのように映える顔立ちで、シュッとした体型だ。服装は悪く言えば地味、良く言えばシンプルなものだった。女の子を制止してくれたのはこの男だろうか。二人が目の前にいることで学校帰りに起こった出来事は夢ではなかったと理解し、背筋が凍る。

「やあ、目が覚めたかい?」

銀髪の男が陽気に話しかけてくる。女の子の方は興味なさげに別の方を向いている。

「えっ、あの、えっと」

何を話せばいいのかわからず言い淀む。

「最初に言っておくけど、大声だしたり変なことしたりしたら本当に殺さなきゃいけなくなるから気を付けてね」

銀髪の男は最初と同じ声の調子で注意をしてくる。陽気な声とは裏腹に物騒なことを言っているが、それが冗談ではないことを俺は知っている。故にその注意に対して素直に頷く。

「よし、いい子だ。起き上がれるかな?」

ゆっくりとベッドから上半身を起こす。疑われるようなことをしないよう、気をつけながらゆっくりと周囲を見渡す。部屋は6畳程の広さがあり、ベッド、机と椅子以外何も無い簡素なものとなっていた。窓はカーテンが閉じられており、外の景色は見えない。

「あ、あの、こ、ここはどこですか?あれからどれくらい経っているんですか?」

「それは言えない。質問はこちらがする。君はそれに答えて」

男が真剣な表情で話し始める。俺はその言葉に黙って頷く。

「君の名前は?」

晴間はるま 悠真ゆうまです」

「君は超能力者か?」

「はい」

「その超能力は今披露できるか?」

「はっ、はい」

「オーケー。それじゃあ早速それを披露してくれ」

「あ、あの、でも本当に大したことない能力なんですけど……」

本当に自分のくだらない能力を披露して意味があるのか心配になり、口ごもる。

「どんな能力かは関係ないさ。さあ、見せて」

唾をゴクリと飲んで覚悟を決める。

「一回披露すると、ちょっと時間を空けないと使えなくなります。なのでしっかり見ておいてください。まず、この人差し指の爪の長さ、これをしっかり見ておいてください」

男は少し不思議そうにしながらも、しっかり俺の爪の長さを目に焼き付けていた。その後、爪だけでなく全身に注意を払っていた。何か怪しいところがないか観察しているのだろう。

「それじゃ、いきますよ」

超能力を使うのは何年ぶりだろう。久々なのでしっかり使うことはできるのだろうか。心配で手汗をかき始めた。しかし、今は出来る限りのことをするしかない。目を閉じて人差し指に集中する。

「ふぅ、出来ました」

どれくらい時間がたっただろう。それなりに時間はかかったがやり遂げた。成功したはずだ。

「ん?何か変化したのかな?」

「人差し指の爪を見てください。ほんの少し伸びてます。俺の能力は爪をほんの少しだけ伸ばせるんです」

「んー?」

男はもう一度俺の爪をまじまじと見つめ始めた。

「ぷっ、あはははっ!確かに伸びてるね。手品みたいにタネを隠してないか注意して見てたけど、そんなのなかったし、これは超能力だね」

笑われたことがショックでこの能力は秘密にしていたので、また笑われたのは少々凹んだ。しかし、本当に超能力者だと信じてもらえたなら良かった。

「……下らない」

女の子の方は笑うというより呆れているようだった。

「君が超能力者だとわかってよかったよ。これで僕たちが君を殺すことはなくなったから安心して」

ほっと安堵のため息を付く。

「それじゃあ、君が超能力者だとわかったところで、僕たちが何者か自己紹介しよう」

安心したのも束の間、目の前の男と女の子の正体がわかるということで、また緊張し始める。男はニコッと笑顔を見せてから話し始めた。

「僕の名前は財部ざいべ かなで、彼女は周防すおう 綾音あやね。僕たちは超能力者技術研究所、通称”技研”の職員さ」

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