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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-03『オペレーション・スノーブレード‐Operation Snow Blade‐』
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第三章:Nobody Does It Better/01

 第三章:Nobody Does It Better



「――――なーるほど、色々あったんスねぇ」

 それから、しばらく経った翌週のこと。

 一週間を丸ごと使った長いテスト期間も終わり、次の週が始まる月曜日のことだ。ちょうど三連休で学園も休みなこの日、戒斗は街の片隅にある修理工場に足を運んでいた。

 工場一階の事務所スペースで、ソファに座って話す相手。それはもちろん彼――(みなみ)一誠(いっせい)だ。

 例によって武器調達の相談に来ていたのだが、話す内容はもっぱら先週の出来事……サイファー絡みの依頼と、月詠菫が明かした真実についてだった。

「なんつーか、琴音ちゃんも色々大変ですねえ」

「こればっかは本人の問題だからな、時間が解決するのを待つっきゃねえよ。俺たちにしてやれることも、掛けてやれる言葉も無いのさ」

「そっとしておくのが一番、ってことッスね」

「そういうことだ」

 腕組みをして唸る一誠にそう言って、戒斗は目の前のテーブルに置かれていたティーカップを手に取る。

 中身はもちろん紅茶だ。戒斗が常連客というだけあって、一誠はコーヒー以外にちゃんと紅茶もお客様用として買い置きしているらしい。

「でも、今度は囚われの天才少女を救出しに行くんスか……この間のプリンセス・オブ・アズール号のときも言ったッスけど、ホントに戒斗さんって映画の主人公じみてるッスよね」

「大袈裟すぎる……って言いてえところだが、最近じゃあ俺も自覚が出てきちまった。次から次へとヤバい出来事が多すぎるんだよ、今は」

「まして、完全義体のサイボーグまで相手にする羽目になるんですよねえ? なんつーか……ヤバくないッスか?」

「ヤバいもヤバい、マジヤバって感じだ。正直どうしていいか分からんのが本音だな」

「で、そのサイボーグに真っ正面から対抗できる武器をお探しなんスよね……えっ、無理じゃないッスかそれ」

「サイボーグらしく超スピードで避けやがる上に、ボディの装甲も小口径ライフル弾ぐらいまでは耐えるらしいからな……50口径フィフティ・キャリバーなら粉砕できるかも知れねえが」

「それも当たれば、の話っスよねえ。実際そんな大口径ライフル担いで走り回るの、キツいなんてレベルじゃないッスから」

「いっそのこと戦車でも用意するか?」

「流石の俺でもそれは無理っスよ……」

 呆れた顔の一誠に「冗談だ、冗談」と肩を揺らしつつ、戒斗はまたティーカップに口をつける。

 ――――サイバーギアへの、対抗手段。

 それを相談するために、戒斗は今日この工場に足を運んでいたのだ。

 あれ以来、菫からの連絡はまだ来ていない。きっとまだ情報の精査が終わっていないのだろう。

 だがサイファーから提供されたデータの時点で、なんとなくサイバーギアの能力は戒斗たちも掴んでいた。

 ――――サイバーギアの主な脅威は、ふたつある。

 ひとつは、驚異的な反応速度だ。

 これに関しては、全身ほぼインプラントで構成された機械人間ということもあって想像しやすい。生身では考えられないほどの瞬発力を持つらしいから、恐らく銃弾ぐらいは平気で避けてしまうだろうことは容易に考えられる。

 そしてもうひとつは、サイバーギアの硬い装甲だ。

 サイファーが提供したデータによると、サイバーギアの装甲は5.56ミリ程度の小口径ライフル弾までは完全に無効化してしまうらしい。流石に7.62ミリクラスなら多少のダメージを、戒斗が言うように50口径――12.7ミリ弾であれば致命傷を与えられるだろうが……驚異的な瞬発力で避けまくるサイバーギアを相手に、果たして当てられるかどうか。

 それこそ一誠が言ったように、当たればの話なのだ。

 現実問題として50口径クラスの大型ライフルを担いで戦うのは――重量的にも大きさ的にも無理がある。他にはロケットランチャーという手段もあるが、こちらも似たようなものだ。

 正直に言って、戒斗の考えられる範囲で有効手段は何もない。

 そんな手詰まりに等しい状況だから、専門家たる一誠の意見を聞こうとやって来たのだが……この感じだと、どうやら彼でも打開策は思い当たらないらしかった。

「はてさて、どうしたもんッスかねえ……」

 腕組みをしながら一誠がうーんと唸る中、戒斗は持っていたカップをソーサーの上にコトンと置く。

 とした時に、工場の外から甲高い排気音が聞こえてきた。

 まるで楽器のような、それは甘美な音色。どこかで聞いたことがあるような、そんな音が聞こえてきて少し経つと、コンコンと事務所のドアがノックされる。

 それに一誠が「開いてるッスよー」と返すと、ガチャっとドアを開けて入ってきたのは――――。

「お邪魔するわよ、っと……居た居た、戒斗ってばホントにここに居たのね」

 それは他でもない彼女――西園寺香華だった。

 とすると、外から聞こえてきたあの音は彼女のフェラーリか。

 しかし、香華はどうして戒斗がここに居ると分かったのだろうか? この工場のことは彼女にまだ教えていないはずだが……。

「香華、どうして君がここに?」

 それを戒斗が首を傾げて問うと、香華は「マリアさんに聞いたのよ」と即答する。

「貴方を連れてきてって、マリアさんに頼まれちゃってね。どれだけ電話を掛けても繋がらないって言ってたわよ?」

「マジかよ? ……あ、充電切れてら」

 言われた戒斗が懐からスマートフォンを取り出してみると、しかし画面に映るのはバッテリー切れを知らせるアイコンのみ。どうやら充電が切れてしまっていたらしい。何度マリアが電話を掛けてくれたって、これじゃあ出られないわけだ。

「あーらら、戒斗さんってば珍しいッスね」

「お前と長話し過ぎたんだろうよ、きっとな」

「……言われてみれば、俺らどんだけここで駄弁ってるんでしょうね」

「全くだ、野郎とサシでお茶する趣味はねえんだがな」

 戒斗が肩を揺らして皮肉っぽく言えば、一誠も「俺だってそうッスよ……」と同じように肩を揺らしながら言う。

 と、すぐに一誠はドアの近くに立つ香華の方に視線を向けて。

「それで戒斗さん、こちらのとんでもない美人さんはどちら様で?」

 なんて、まあいつもの彼らしい質問を投げかけてきた。

「私? 私は西園寺香華よ、戒斗から色々と聞いてない?」

 それに戒斗が答えるよりも早く、香華が自らそう答える。

「あー! 例のお嬢様ッスか。いやすんごい美人なんでビックリしたッスよ……あ、俺は南一誠でございます。俺のことも戒斗さんから聞いてるッスよね?」

「ええ、色々と……ね?」

 妙に含みを持たせた感じに、香華は悪戯っぽく笑って言う。

「ちょっと戒斗さんどんなあらぬことを吹き込んだんスか今なら正直に答えたら許してあげるッスよ」

 すると、それを聞いた一誠がものすごい真顔で戒斗に詰め寄ってくる。

 戒斗はそれに「何も言ってねえって!」と超至近距離まで近づいてきた彼の顔面を押し退けつつ、

「香華も、適当なこと言うんじゃねえっ!」

 と、今度は香華に向かって参ったように言う。

 すると香華はクスッと小さく笑い、

「あら、私としたことが……記憶違いだったかしら、ごめんなさいね?」

 なんて、わざとらしく言ってのけた。

「ホントなんスね戒斗さんホントに何も言ってないんスね」

「だから言ってねえって言ってんだろうが! っていうか顔近いんだよ顔! いい加減離れろこの野郎……っ!」

 まだ近いままだった一誠の顔を力づくで押し退けて、戒斗はやれやれと肩を竦める。

 そんな中、香華は一誠の方に近づいて。

「というわけで、よろしくね?」

 そう言って、彼にスッと片手を差し出した。

「あ、どもッス」

 一誠もそれを握り返して、彼女と軽い握手を交わす。

「にしても、近くで見るとヤバいぐらいの美人さんッスねえ……しっかし戒斗さんの周りって、どうしてこう可愛い()ばっかり集まるんスかね?」

「俺に訊くな、そんなもん」

「それに引き換え俺なんて……考えたらちょっと腹立ってきたッスね。戒斗さん次から全品三割値上げしますからよろしくッス」

「なんでだよ!?」

「モテ税ッス」

「意味分かんねえんだよてめえっ!!」

 ものすごい真顔で言う一誠と、それに全力で突っ込む戒斗。

 そんな男二人の馬鹿丸出しなやり取りを傍目に見つつ、香華はクスッと愉快そうに笑い。

「とにかく、マリアさんが呼んでるわよ? これから皆で改めてブリーフィングするから、すぐに来て欲しいって」

 あまりに中身のない話に割って入ると、そう戒斗に言った。

「例の女の子を助けに行く話、本格的に始めるらしいから。だから私がわざわざ迎えに来てあげたの、感謝してよね?」

「迎えに……って、俺も車なんだが」

「あー、それなら良いッスよ別に。戒斗さんのカマロなら預かって軽くメンテしとくんで、そのまま連れてっちゃって大丈夫ッスよ」

「あらそう? ありがと一誠くん、助かるわ。……さ、そうと決まったら行くわよ戒斗っ!」

「お、おい引っ張るなっ!」

「車のキーだけ置いてってくださいッスよー」

 香華に引っ張られて、そのまま強引に事務所の外まで連れ出されていく戒斗。

 最後にカマロのキーだけ一誠に投げ渡すと、そのまま表に停めてあった黄色いフェラーリに放り込まれて……有無を言わさぬまま、戒斗は香華に連れて行かれてしまうのだった。

「……にしても、ホントに戒斗さんの周りって美人ばっかり集まるんスよねぇ。これが主人公補正って奴ッスか……」

 そして事務所に残された一誠は独りそう、カマロのキーを指でくるくると回しながら……遠い目をして、ひとりごちるのだった。

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