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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-03『オペレーション・スノーブレード‐Operation Snow Blade‐』
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第一章:Early Summer Days/06

「――――ってわけだ」

 そんな出来事のあった、翌日のこと。

 テスト期間の真っ只中なこの日の早朝、朝の登校ルートを三人横並びになって歩きながら、戒斗は今までのことを琴音と遥に話していた。

「そ、そっか……なんていうかこう、話のスケールすんごいことになってない……?」

「ですが、不思議ではありません。琴音さんがそう仰られるのも分かりますが、相手はミディエイターです。どれだけ突拍子もないことが飛び出してきても、おかしくない相手なのですから」

「んー、それはそうなんだけどねー」

 で、話を聞いた琴音と遥の反応といえばこんな感じだ。

 当然だが、プロジェクト・エインヘリアルなんて突飛な話を聞いて、どうしていいか困っている様子。

 まあ、仕方のないことだと戒斗も思う。かくいう彼だって、最初にマリアからこの話を聞いたときは似たような反応だったのだから。

「しかし、完全義体のサイボーグですか……果たして、本当に可能なのでしょうか」

「俺も昨日までは半信半疑だったんだがな。だがあの月詠菫って医者先生の反応を見る限り、多分それは本当のことなんだろうよ。現に計画に関わっていたこと自体は認めたからな」

 ま、かといって何も話しちゃくれなかったんだが――――。

 小さく肩を竦めて戒斗が遥に言うと、その横で琴音がうーん、と何かを思い悩む仕草を見せる。

 立てた人差し指を唇の下に軽く押し当てて、何やら思案している様子。

 そんな彼女に「どうした?」と戒斗が問うてみると、琴音は「えっとね――」と横目で彼に視線を投げかけながら、こう続けた。

「その月詠ってお医者さん、なーんか知ってるような気がしてて」

「いや、それはないだろ……どう見たってお前と接点がありそうにゃ見えなかったぜ?」

「まあそうなんだけどねー、でも名前はどこかで聞いたことがある気がするんだー」

「そりゃあ、そうじゃないのか? 相手は超有名なサイバネティクス技術の権威だ、ニュースとかで時たま見る名前なのは間違いないからな」

「んー、そうじゃなくってね。昔どこかで聞いたことがあるような、ないような……」

 と、琴音が更にうーんうーんと頭を捻らせることもう少し。

「――――あーっ!!」

 突然、何かを閃いたように間の抜けた大声を上げた。

「なんだよ急に!? 耳元で怒鳴るんじゃねえよっ!?」

「び、びっくりしました……あの、どうしたんですか琴音さん?」

 驚いた顔の二人に「思い出したんだよっ!」と琴音は興奮気味な顔で言って、

「私、その月詠先生と昔会ったことがあるのっ!」

 なんて、また突飛なことを言い出した。

「おいおい……流石に勘違いじゃないのか?」

「ううん、間違いないよっ! 思い出したんだ……月詠先生って人、確かに昔お父さんの友達だった人だよっ!」

「琴音さんのお父上、というと……確か折鶴恭介さん、でしたか」

「昔ね、私が子供の頃によく家に遊びに来てたんだっ! たくさん遊んでもらったからよく覚えてるよ、間違いないっ! ねえお兄ちゃん、その人の写真ってある?」

「あ、ああ。マリアに一応データは転送してもらってるが」

「見せて見せてっ!」

 どうにも興奮した顔の琴音にせっつかれるがまま、戒斗は取り出したスマートフォンの画面に彼女の――月詠菫の写真を表示させる。

 前にマリアの店で見たのと同じ、彼女の顔写真だ。

 それを横から覗き込んだ琴音は「うん、そうだよ間違いないっ!」とまた興奮気味な顔でぶんぶんと頷いて。

「この人だよ、昔よく遊んでもらった菫お姉ちゃんだよっ!」

「……お姉ちゃんって歳か?」

「私にとってはお姉ちゃんなのっ! わあ、でも懐かしいなあ……元気にしてたんだ」

「この顔色じゃあ、元気とは言いづらいけどな」

 何とも言えない顔でブツブツ言う戒斗に「んもー! お兄ちゃんってば一言余計だよー!」と琴音は頬を膨らませながら言う。

「でも、これ見て確信したよ。お兄ちゃんたちが会ったって先生は、私の知ってる菫お姉ちゃんだ」

「マジかよ」

「本当に、お知り合いでしたか」

 驚きを隠せない戒斗と遥に、琴音はうんと静かに頷き返す。

「菫お姉ちゃん、すっごい懐かしい……久しぶりに会いたいな」

「会いたいんだったら、会いに行けばいいんじゃないか? 幸い居場所は分かってるんだしな」

「んー、それはそうなんだけどー」

 と、琴音がまた思案するような仕草をして数秒。

「……そうだ、お兄ちゃんが連れて行ってよ!」

 また急にそんなことを彼女が言い出すものだから、戒斗は「……俺が?」と怪訝そうな顔をする。

 それに琴音はうん、と頷いて。

「どのみち、一人であんまり出歩くわけにもいかないしさー。それに……お兄ちゃんが駄目でも、私が訊けばもしかしたら話してくれるかなって」

「それは――――」

 限りなく薄いだろうな、と戒斗は思った。

 あの様子だと、菫の意思はかなり固い。なにより知り合いというなら、香華が話しても――彼女がミディエイターに狙われたと言っても尚、口を閉ざしたままだったのだ。いくら子供の頃に可愛がってもらっていたとしても、菫が話してくれる可能性は限りなく低い。

 ……が、会いたいという琴音の気持ちを無碍(むげ)にもできない。

 だから戒斗は言いかけていた言葉を半ばで止めると、

「……分かったよ、そういうことなら連れて行ってやる」

 そう、改めて言い直した。

 すると琴音は「やったぁ!」と子供みたいにはしゃいで喜ぶ。

「……よろしいんですか?」

 そんな無邪気な彼女をチラリと横目に見ながら、遥が小声で囁く。

 戒斗はそれに「ま、いいんじゃないか?」と小声で返し、

「アイツが会いたいって言うなら、その気持ちは尊重したいからな。サイバーギアの件は抜きにして、今度は単に付き添いだ」

「でしたら、私もご一緒して構いませんか?」

「ん? そりゃあ別に大歓迎だが……多分来たところで何もないぜ?」

「いいんです、単に私もその方に興味があるだけですから」

 ということで、何故だか遥も一緒に行くことに。

 いつ行くかなんて具体的なことは何も決めていないが、琴音のことだ。きっと今日のテストが終わったらすぐに行こうと言い出すに違いない。

 善は急げ、という言葉もある。

 とにもかくにも、琴音を連れてまた月詠菫の元を訪ねることに決めた戒斗だった。

「あっ、香華ちゃんおはよーっ!」

 なんて話をしている内に、いつしか学園の校門が近づいていた。

 見慣れた校門が見えてくると、ちょうどいいタイミングでいつものリムジンが停まるのが見える。そこから降りてきた香華の元に、琴音はいつもの元気いっぱいな声を上げて駆けていく。

「あら皆ごきげんよう、偶然ね?」

「……おはようございます、香華さん」

「おはようさん。今この二人に例の件を話したところだぜ」

「ああ、やっと話したの。二人ともごめんなさいね? なんだか隠していたみたいで悪いわ」

「ううん、気にしないでー」

「マリアさんに口止めされていたのなら、仕方ありませんから」

「ふふっ、ありがと二人とも。……さ、行きましょう? このままだと遅れちゃうわ」

 ニコリと微笑んだ香華と一緒に、戒斗たちも校門を潜っていく。

 緩やかな坂を下りて、遠くに見える学園の校舎へ。

 東から注ぐ、初夏の眩しい日差しに照らされながら……今日もこうして、新しい一日が始まろうとしていた。

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