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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-02『宿命の二人‐Double Executer‐』
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第六章:暗闇の向こう側から/01

 第六章:暗闇の向こう側から



「琴音、ブリッジはこっちだったな!?」

『おっけー、大丈夫! でもその先に敵が三人居るよ、気を付けてっ!』

「先に分かってりゃ幾らでもやりようはある! ――この先で接敵、備えろよ!」

「やってやるよ、この野郎っ!」

 琴音の支援を受けながら、戒斗は野上と一緒に船のブリッジを目指して駆けていく。

 場所は再びバックヤードの狭い廊下に移り、ちょうどブリッジの真下ぐらいまで来たところだ。後は階段を見つけて昇ればいい……そんなタイミングで、二人は今まさに敵と接触しようとしていた。

 曲がり角で一度立ち止まり、戒斗は顔だけ出して先の様子を窺う。

 ……居た、報告通りに敵の傭兵が三人。どこか警戒した感じで廊下を歩いている。

「俺が仕掛ける、あんたはカバーしてくれ」

 敵を確認した戒斗はそう野上に言うと、曲がり角から半身を乗り出してアサルトライフルを――MCXを静かに構えた。

 安全装置を外し、素早く冷静に狙いを定めて、トリガーに掛けた指を引き絞る。

 バスッ、とくぐもった音がした。

 それはサイレンサーで押さえつけられた銃声。MCXの銃口から撃ち放たれた大きな300ブラックアウトの弾丸は、音速の少し手前の速さで飛翔し……戒斗が狙った通りに、傭兵の眉間を正確に撃ち抜いた。

 これで、一人は仕留めた。

 だが戒斗は油断せず、タタタンと続けざまにMCXを撃つ。

 そうすれば、一人につき二発から三発を撃ち込むペースで、残る二人も無力化。敵には一発も撃たせず、銃声ひとつ立てさせずに戒斗は三人の敵をまとめて始末してみせた。

「……ケッ、口先だけじゃねえってのは確かなようだな」

「よせやい、褒めたって何も出ねえぜ」

 そんな戒斗の鮮やかな手際を見て呟いた野上に、戒斗はフッと小さく笑い返す。

「行こうぜ、迎えが来るまでそう時間は掛からねえんだ」

 その後で戒斗は言うと、野上を連れて再び移動を開始した。

 仕留めた三人の(むくろ)を踏み越えて、その先へ。ブリッジに続く階段を見つけると、二人は警戒しつつも素早くその階段を昇っていく。

『その先にも一人、次の階段の向こうにも二人居るよ! 気をつけてっ!』

「あいよ!」

 琴音のサポートを受けながら、階段を駆け昇っていく戒斗。

 その最中に一人、更に昇った先でもう二人をMCXで撃ち倒し、船のブリッジに近づいていく。

「……ここか」

「俺と琴音がポカをやらかしてなけりゃ、ここが目的地だぜ」

 そうして、長い階段を昇り切った先。ブリッジに続く締め切られた扉の前に戒斗たちはやって来ていた。

 ブリッジ――日本語で書けば『船橋(せんきょう)』。軍艦の場合だと艦橋(かんきょう)になるが、簡単に言えば船のコントロール全てを担う場所、運転席みたいなものだ。

 船そのものを動かすエンジンルームを心臓部とするなら、ここは行き先を決める頭脳のような場所。船の進路を決める舵がある、まさに中枢と呼ぶべき重要区画だ。

 そのブリッジに続く、固く閉じられた扉の前に……二人は立っていた。

「……で、おたくはどう攻めるつもりだ?」

「どうするも何も、正面突破しかねえだろうが。この状況で他に取れる選択肢なんざ、他にねえんだよ」

「ヘッ、違いねえや。じゃあ速攻で制圧する、それでいいかい?」

「それでいい、一番槍は俺がやってやるよ」

「オーライ、智里ご自慢の零課の腕前、とっくり見せて貰おうじゃねえか」

 短い会話で戦法を決めれば、戒斗たちはそれぞれドアの両脇に立って準備する。

 見たところ、このドア――分厚い水密扉は閉まってなさそうだ。重いは重いだろうが、ハンドルを握って力いっぱい引けば開いてくれるはず。

 恐らくここを制圧したと思しき敵も、まさか反撃に打って出られるとは思ってもみないのだろう。

 だが――――その油断が、命取りだ!

「じゃあいくぜ、犬っころっ!」

 ハンドルに手を掛けた戒斗が、グッと力を入れてドアを開ける。

 ギギギ……ッと軋む音を立てて、分厚い水密扉が開いていく。

 その隙間から――すぐに野上がブリッジ内部に飛び込んでいった。

「ッ――――!」

 ブリッジに居た人影は九人。その内の五人は船員で、残る四人が完全武装した敵の傭兵だ。

 それを瞬時に見分け、誰を撃つべきかを判断し……野上は狙いを定める。

 飛び込むと同時に構えたサブマシンガン――ベクターを傭兵たちに向けて撃つ。

 タタタン、とけたたましい銃声が木霊する。

 こちらはMCXと違いサイレンサーは着けていないからか、響く銃声はかなりド派手だ。

 ドアを開けるまで一切気配を悟られていない、完全な奇襲攻撃。それに面食らった敵の傭兵たちは振り向いて銃を構える暇もなく、野上の放った45口径の弾丸に貫かれていく。

 一人は眉間に二発、もう一人は背中に三発。

 眉間を撃たれた方は倒れて即死、背中を撃たれた方は前のめりに倒れこそしたが……防弾ベストが防いだせいで、致命傷には至っていない。

 サブマシンガンといっても、撃つのはただの拳銃弾だ。防弾ベストを貫くことは出来ない。

「ッ――敵だ!」

「まさか、下で騒ぎを起こした連中か……っ!」

「チッ、仕留めきれねえか……!」

 一人は倒し、もう一人はとりあえず地面に転がしてはある。

 だが残る健在の二人はバッと振り向くと、飛び込んできた野上に気付き――彼に向かってアサルトライフルを撃ち始めた。

 野上は舌を打ちつつ、身を低くしながらブリッジを走り……手近なコンソールの裏に身体を滑り込ませる。

「ひぃっ!?」

「頭を低く、伏せてろっ!」

 怯える船員たちに叫びつつ、野上は敵の射撃の合間を縫ってバッとコンソールから身を乗り出して反撃。タタタンとベクターを連射し、眉間を撃ち抜いて敵一人を始末する。

「何やってんだ野良犬、カバーぐらいしやがれっ!」

「へいへい、分かりましたよ――っと!」

 が、そこでベクターの弾が切れた。

 野上は入り口に向かって叫び、リロードの隙を戒斗にカバーさせる。

 入り口から半身を乗り出した戒斗がMCXを連射。敵を倒すことは出来ないまでも、牽制射撃で彼らの動きを封じる。

 その間に野上はベクターに新しいマガジンを突っ込み、リロードが完了。するとバッとコンソールの陰から飛び出し、残る敵に向かって走っていく。

 最後の一人は戒斗の牽制射撃に釘付けにされていて、隠れたコンソールの後ろから動けないでいる。

 それをチャンスと見た野上は、一気に距離を詰めると……バッと大きなコンソールを軽々と飛び越えて、敵の頭上から襲い掛かった。

「くたばりやがれ、この野郎……っ!!」

 コンソールを飛び越えながら、至近距離からベクターを連射。頭上からバラ撒いた45口径弾の雨に降られて、野上の真下に居た傭兵がバタリと倒れる。

(あと一人、これでラストだ……!)

 タンっと着地した野上は膝立ちになりながら、バッと振り返って最後の一人に銃口を向けるが。

 しかし、その時にはもう――いつの間にかブリッジに入っていた戒斗が、床に転がるソイツの頭をMCXで撃ち抜いていた。

 バシュンっと、くぐもったサイレンサー越しの銃声が小さく響く。

 戒斗が撃ったのは、最初に野上が倒した一人――防弾ベストで生き永らえていた奴だった。

「ラストワン賞、俺が頂きだ」

 悶えながら、今まさに起き上がろうとしていたソイツの息の根を止めた戒斗は――しかし大した感慨も抱いていない様子で、チラリと野上を見ながらそう冗談めかして言う。

 それを見た野上はチッと舌を打ち、

「ったく、美味しいトコだけ持っていきやがって」

 と、呆れ半分な反応を返すのだった。

「とりあえず、これでブリッジは制圧完了ってわけだ。意外と呆気なかったな、あんた一人でもどうにかなったんじゃねえのか?」

「……かも知れねえが、ソイツは単なる結果論だ。悔しいがてめえの実力は確かみてえだな……認めるよ、俺一人じゃもっと苦戦してたかも知れねえ」

「はてさて、どうだかねえ」

「てめえ……人がせっかく素直に褒めてやったってのに……」

 わざとらしく肩を揺らす戒斗を一瞥しつつ、野上は「立てるか?」と言って船員たちを起こしてやる。

 船員たちは「は、はい……」と戸惑った様子で二人を見ながら、

「貴方がたは、一体……?」

 と、至極尤もな疑問を口にした。

「俺は警察だ。つっても正確には公安なんだが……とにかく、敵じゃないことは確かだ」

「んで俺はそれに雇われてる野良犬一号だ、よろしくな?」

「こんな時にまで言ってる場合か、てめえっ!」

「へいへい、悪うござんしたね」

 またわざとらしい態度で言う戒斗に、野上はチッとまた小さく舌を打ちつつ。また船員たちに視線を戻すと、彼らにこう言った。

「で、船の現在位置は分かるか?」

「え、ええ。GPSがありますから。連中の指示で予定の航路より大幅に逸れてしまいましたが……大丈夫、戻せます」

「よし、そうしてくれ。あと通信機を貸してもらえるか? 仲間に連絡を取りたいんだ」

「了解しました。周波数は?」

「ちょっと待てよ、今思い出す――――」

 と言って、野上は思い出した周波数を船員に告げる。

 その周波数に無線機を合わせて、船員は「どうぞ」と言って手持ちマイクを彼に手渡した。

 野上は「すまんな」と言ってそれを受け取ると、

「こちらはゼロ、エコー2。聞こえていたら応答してくれ。コードレッド発生、対象の保護にはどうにか成功したが、状況は最悪だ。増援を至急送ってくれ、繰り返す――――」

 マイクに向かってそう、短い定型文みたいな言葉を繰り返す。

 恐らく零課であらかじめ決めていた符号なのだろう。意味はよく分からなかったが、今の状況を伝えているのは理解できる。

「繰り返す、聞こえていたら返事をしてくれ――」

 と、野上が何度かマイクに向かって繰り返した時だった。

 遠くからバタバタバタ……とけたたましい音が聞こえてきたかと思えば、ブリッジの窓の向こうに……何か、大きな影が見えたのは。

 一瞬、それが何かは分からなかった。

 しかし、戒斗はすぐにその音とシルエットの正体を理解する。

 それが何か分かった瞬間、ハッと戒斗は顔を青ざめさせて。

「――――皆、伏せろぉぉぉぉっ!!」

 と、力の限り叫んでいた。

 それに驚きながらも、野上も船員たちもバッと咄嗟に伏せた瞬間だった。

 バアアアッと冗談みたいな爆音が響いたかと思えば、窓の向こうから――――弾丸の雨が、ブリッジに降り注いだのは。

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