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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-02『宿命の二人‐Double Executer‐』
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第五章:暗き闇、疾る白刃/03

 結論から言うと、その後は何事もなく香華の部屋まで戻れていた。

 船の九階船尾側のロイヤルスウィートルーム。船に乗り込んで初めて訪れたその部屋に、戒斗たちは再び戻ることが出来ていたのだ。

「……それで戦部さん、この先はどうされるおつもりで?」

 豪華絢爛な部屋の壁際にもたれ掛かり、一息ついていた戒斗にそう佐藤が問うてくる。

 戒斗はふぅ、と息をついた後でそんな彼の方に視線を向けると、

「もうじき俺の仲間がヘリで迎えに来る手筈になってる。それまではどうにか耐え凌がなきゃならんな」

 と、短く答えてやった。

「確認ですが、敵は我々の位置を把握していないのでしょうか」

 多分な、と戒斗は答える。

「居場所がバレてるんなら、もうとっくに周りを囲まれているはずだ。……そうだな、琴音?」

『んだねー。色々見てるけれど、特にバレてるって感じはしないね。どっちかっていうと、お兄ちゃんたちを見失っててんやわんやしてる感じっぽい。船の中をあっちこっち探し回ってるもん』

「なら、とりあえずここで耐え忍ぶのが一番だな。戦いが避けられるならそれに越したことはねえ」

 と言いながら、戒斗は壁際にもたれ掛かる。

 しかし、野上――遠くで二人の会話を聞いていた彼は、そんな彼に向かって……突拍子もない、あまりに予想外のことを口にした。

「だったら野良犬、今から俺に付き合えよ」

「……話が見えねえな、藪から棒になんだってんだ?」

「万が一の時には海保のSSTが突入する手筈になっているのは、てめえも知ってんだろ? だがその前に、せめて船の制御だけでも取り戻しておきてえんだ」

「つまり、おたくは……ブリッジの制圧に俺たちも付き合えと、そう言いてえんだな?」

 怪訝な顔で言う戒斗に、野上コクリと頷いて肯定する。

「他の零課の仲間にも呼び掛けてはみたが、応答が無いか手いっぱいで動けないかのどっちかだった。……悔しいが、もう俺たち零課に戦う力はほとんど残っちゃいねえんだよ」

「事情は分かった。だがどうして俺らがおたくを手伝わなきゃならない? 言っちゃあ悪いが、俺らがここから動く必要は全くない。むしろ香華を守るって意味じゃマイナスにすらなる……迎えが来るまでここで耐え忍ぶのがベストなんだ。それが分からないあんたじゃないだろ?」

「てめえ、人の話は最後まで聞け。――――陽動にもなる、と言ったら?」

「陽動?」

 首を傾げた戒斗にああ、と野上は頷き返す。

「俺とてめえがブリッジで暴れれば、敵の目はそれだけこの部屋から逸れることになる。それはお嬢さんを守る上でも十分にプラスになるはずだ……違うか?」

「……一理あるな。だが全員じゃ動けない。もしものことも考えたら、どうしたって護衛役は必要だ」

「だったら、ここはセンパイに任せりゃいい。……構いませんね、センパイ?」

 チラリと野上が視線を向けて言えば、佐藤はやれやれと呆れたように肩を竦めて。

「仕方ありませんねぇ、君は言い出したら聞きませんから」

 と、了承の意を示した。

「ここで西園寺さんを守る程度なら、僕だけでもどうにかなるでしょう」

「……なら、こっちは遥を護衛につける。俺たちが持てる最大戦力だからな……香華とじいさんを守るだけなら十分だ。それで構わないか、遥?」

「私は一向に構いません。そちらの方の仰ることも尤もですし、私も賛成です」

「そういうことだ、話は纏まったな――だったら、陽動も兼ねて俺とコイツの二人でブリッジを制圧して、その後は適当に撒いてここに戻る。後はヘリが到着次第、この船からはおさらばだ。それで構わねえな?」

「ああ、それでいいぜ」

「ま、イザとなれば琴音のサポートもあるんだ。ブリッジの奪還はともかく、敵を撒くのには苦労しねえだろうよ」

「……礼は、言わねえからな」

 戒斗から視線を逸らしながら、野上が言う。

 相変わらずというか、なんというか。嫌われているのか、それとも意地っ張りなだけなのか……。

 何にしても、こういう跳ねっ返りの強いヤツは嫌いじゃない。だから戒斗はフッと小さく笑うと、

「要らねえよ、コイツはお互いギブアンドテイクって奴だ」

 なんて具合に、短く返してやった。

「さあて、そうと決まったら身支度を整えなきゃな」

 その後で戒斗は言うと「俺の荷物、確かこの部屋にあったよな?」と香華に問う。

「ええ、貴方がそうして欲しいって言ったから。そうよね高野?」

「はい。戦部様のお荷物はこちらのお部屋に」

「オーライ、ならさっさと準備するとしようか」

 言って、戒斗は高野が示した壁掛けハンガーに掛かっていた自分の荷物――持ち込んだガーメントバッグに手を掛ける。

 そんな彼を見つめながら、皆どういうことだろうと不思議そうな様子。

 ガーメントバッグというものは、本来はスーツをしまっておくための物だ。持ち運びだけじゃなく保管用の埃避けという意味もあるから、こうしてハンガーで吊るしておける物が多い。

 が、戒斗のそれから出てきたのはスーツなどではなく――――大量の銃火器だった。

「これは……また随分と凄い量ですねぇ」

「てめえ、どんだけ持ち込んでんだよ……人間武器庫でも始めようってのか……?」

「あら、てっきり予備のスーツかと思ってたわ」

「お運びした時に、妙に重いとは思っていましたが……いやはや」

 それを見た佐藤は感心した様子で、野上はドン引きしたような反応を示し。香華は意外そうな顔を、高野はどこか感心した風な表情を浮かべる。

 そんな皆に見られながら、戒斗は手早くバッグの中から武器を取り出していく。

 まずは自分の分だ。アサルトライフルのSIG(シグ)・MCX。高威力な300ブラックアウト弾を使うタイプのものだ。サイレンサー内蔵型の銃身で、上部には接近戦用のEXPS3ホロサイト照準器を、ハンドガード下にはバーティカルグリップを取り付けてある。

 他には愛用のピストル――いつものP226もちゃんと身に着けた。やっぱり派手に戦うならPPKよりもこっちの方が頼れる。

「遥、悪いが君のをコイツに渡しちまってもいいか?」

「ええ、構いません。こういう閉所であれば、銃よりも刀の方が上手く立ち回れますから」

 と、戒斗に答える彼女は――どういうわけだか、いつの間にか例の忍者装束に着替えていた。

 以前の時もそうだったが、一体どうやってこんな素早く衣装を変えられるのか。もしかしたら忍術の類なんじゃないかとも思うが……訊くだけ野暮というものだろう。

 何にしても、忍者装束に着替えたのなら彼女もフルスペックだ。

 手首の裏にはワイヤーショット、背中にはいつもの忍者刀――高周波ブレードの『十二式(じゅうにしき)隠密暗刀(おんみつあんとう)陽炎弐式(かげろう・にしき)』を背負っている。彼女が首に巻いたマフラーの白い色が、今日ほど頼もしく見えた日は他にない。

「じゃあ犬っころ、あんたはコイツを使いな」

 と、戒斗は大柄なサブマシンガンを野上に投げ渡した。

 クリス・ベクター。特殊な構造で驚くほどの低反動を実現した、どこかSFチックな見た目の45口径のサブマシンガンだ。

 本来は遥が使うためにと一誠に用意してもらったものだが、本人の了承が得られたのなら問題ない。

「誰が犬っころだ!」

「あんた以外に誰が居るんだよ。それから……旦那、あんたにはこれを渡しておく。予備の9ミリ弾だ」

「助かります、これで僕もマトモに戦えそうですね」

 ベクターを受け取った野上が吠える中、戒斗は9ミリパラベラム弾の紙箱をひょいっと佐藤に手渡す。

「後は……香華、君はこれを持っておけ」

 そうして身支度を終えた戒斗は、最後にそう言って――今まで使っていたワルサーPPKを、香華に手渡した。

「私に?」

「万が一ってこともある、そのための保険だ。使い方は分かるか?」

 戸惑いがちに受け取った香華はええ、と小さく頷き返す。

「護身用にって、前に一通りの使い方は習ったから」

「オーライ、なら説明の必要はねえな。まあ遥と……後は零課の旦那も一緒だ。まず使うことはないだろうが、一応な」

「……分かったわ」

 戒斗から受け取ったPPKを、香華は両手で胸の前にぎゅっと……大事そうに抱いて。そうしながら、すぐ目の前にある彼の顔をそっと見上げてみる。

「貴方のこと、信じてるし頼りにしてる。だから……必ず帰ってきて頂戴。貴方と話したいこと、まだ沢山あるから」

「任せな、犬の散歩ぐらい軽いもんだ」

「てめえっ、さっきから黙って聞いてれば――!」

「へいへい、ったく血統書付きはやかましくっていけねえや。……とにかく、ちゃちゃっと行って戻ってくる。それまでここで大人しくしてるんだ、いいな?」

「……分かったわ。007もびっくりの大活躍、期待してるから」

「オーライ、いい子だ」

 微笑む香華の肩にポンっと手を置いて、フッと小さく笑った後で……戒斗はくるりと踵を返し、部屋のドアの方に歩き出す。

「よし、じゃあ行くぜ。ヘマすんなよ?」

「……てめえこそ、口だけじゃねえのを見せてみやがれ」

 一緒にドアに向かって歩き出した野上が、横目に睨みながら言う。

 すると、それに戒斗はニヤリと小さく笑い返して。

「任せとけよ、特等席で見せてやる」

 そう言うと、隣を歩く野上の背中を軽く叩きながら……彼とともに、この部屋を出ていくのだった。





(第五章『暗き闇、疾る白刃』了)

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