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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-02『宿命の二人‐Double Executer‐』
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第五章:暗き闇、疾る白刃/02

「戦部さん、貴方がどうしてこんなところに?」

「そりゃあこっちの台詞だぜ、零課の旦那よ。しかしよく生き延びられたな、あの状況で……」

「運が良かったにすぎません、現に僕の部下は何人もやられています。――ところで、そろそろ銃を下ろして頂けないでしょうか? お互い銃口を向け合っていては、落ち着いて話も出来ませんからねぇ」

「あ、ああ……すまねえな」

 予想外の出会いに驚きながら、戒斗と佐藤は互いに銃を下ろす。

『お兄ちゃん、大丈夫なの?』

「大丈夫だ、こいつらは味方だ」

「ふむ……一体、誰とお話しされているのでしょうか」

 案じた様子の琴音にそう返してやると、佐藤が怪訝そうな顔で問うてくる。

 それに戒斗は「俺たちの頼れる守護天使様さ」と、左耳のインカムをトントンと指で叩きながら答えた後で、

「監視システムはこっちで掌握した、とりあえず敵に居場所がバレる心配はなくなったわけだ」

 と、続けてそう佐藤に説明した。

「なるほど、考えることは同じでしたか。僕たちも監視カメラを抑えに来たところです。尤も……そんな頼れるサポートはこちらにはありませんから、単に使えなくするだけのつもりでしたが」

「……ところで、おたくの連れはソイツ一人か?」

 佐藤の後ろに居たもう一人をチラリと見て、戒斗が言う。

「うるせえよ、野良犬が……」

 それは他でもない、あの野上遼一だった。

 戒斗を睨み付けながらそう言う野上も、どうやら運良く生き延びたらしい。あちこちに掠り傷はあるが、一応は無事のようだ。

「へいへい、野良犬で結構。しかし……随分とボロボロになっちまったな。俺たちはこれから香華の部屋に戻る、おたくらも一緒に来るか?」

「誰が、てめえの助けなんか――――」

 と言いかけた野上の言葉を遮って「では、お言葉に甘えて」と佐藤は二つ返事で了承する。

「センパイ……!」

「野上くん、今は冷静に考えてください。ここで戦部さんと出会えたことは僥倖(ぎょうこう)です。どうやら西園寺さんもご一緒のようですし……ここは彼らと行動を共にするのが、我々にとっても得策です」

「ッ……分かり、ましたよ……」

 流石に疲れ果てているのか、野上もさっきみたいに激しく噛み付いてはこない。

 無理もない、と戒斗は感じていた。

 彼はあんな中を切り抜けてきたのだ。どうやって脱出したのかは知らないが……周りで仲間が大勢倒れていくのを、野上だって間近で見ているはず。そういう精神的な面でのダメージが大きいに違いない。

 だから戒斗は野良犬呼ばわりに皮肉で返すこともなく、ただ適当に受け流すのみに留めていた。

「とりあえず、部屋に戻るのが先決だな……確かこの近くに搬入用のエレベーターがあったはずだ。そうだよな、琴音?」

『うん、確かにあるね。少し歩くことにはなるけれど……でも香華ちゃんのお部屋のフロアまで直通で行けるよ。敵も……少しは居るっぽいけれど、でもそう多くないよ。行くなら今がチャンスだね』

「オーライ、それで行こう。旦那がたもそれで良いな?」

「構いません。ですが僕も野上くんも、残りの弾が心許ない状況です……どこまでお役に立てるかは、分かりませんが」

「……ってことだ、遥。実を言うと俺もそう弾には余裕がねえんだ。すまんが先導を頼む」

「ええ、心得ました」

 頼んだぜ、と戒斗は遥に言うと、改めて皆の様子を見渡してみる。

 遥と香華に高野、佐藤と……それに、野上。。

 護衛対象の二人はともかく、零課の二人はとりあえずの迎撃ぐらいなら出来そうだ。佐藤も野上も……残弾が少ないとはいえ、一応は片手にP229をぶら下げている。もしも敵と遭遇する事態になっても、上手く切り抜けることは可能なはずだ。

「よし、行こうぜ」

 そんな四人を連れて、戒斗は警備室を後にした。

 目指す先は――香華のスウィートルーム。そこがひとまずの安息の地となってくれることを、今はただ祈るしかなかった。





「居たぞ、こっちだ!」

「チッ、やっぱ見つかっちまうよな……!」

 そうして警備室を出て、エレベーターまでもう少しといった所に差し掛かった時だった。

 バックヤードの狭い廊下に、敵の傭兵の叫び声が木霊する。

 次の瞬間、響くのは鋭いライフルの銃声だ。戒斗は毒づきながら香華や佐藤たちと一緒に曲がり角に身を隠すと、半身を乗り出しながらPPKを構える。

「遥、頼んだっ!!」

 牽制目的でPPKを適当に撃ちながら、戒斗が叫んだ。

「承知……!」

 すると――彼のすぐ傍を、遥がすり抜けていく。

 黒いパーティードレスの裾を翻しながら、クナイを片手に遥が駆ける。

「な、なんなんだ一体……!?」

「どうなってんだ、撃っても撃っても……当たらねぇっ!?」

 そんな急接近する彼女に向かって、敵の傭兵たちは三人がかりでアサルトライフルを撃ちまくる。

 ――――が、どれだけ撃っても遥には掠りもしない。

 地を跳ね、壁を蹴り縦横無尽に狭い廊下を駆け抜ける彼女が速すぎるあまり、彼らはロクに照準を定められないでいるのだ。

 動きにくいはずのドレスとハイヒールといった格好なのに、遥はそれを感じさせないほどに俊敏な動きで、瞬時に彼らとの間合いを詰めていく。

「はっ……!」

 そんなとんでもない速度で駆け抜けながら、遥の左手がひゅんっと閃いた。

 彼女が投げ放ったのは三本の棒手裏剣。細長い鉄の棒みたいなそれは、三本が三本とも正確に傭兵たちの右手に深く突き刺さる。

 そうすれば、三人の傭兵は手に走った激痛で思わずアサルトライフルを取り落としてしまう。

 敵の手は武器から離れ、間合いはもう一息といったところまで詰まっている。

 ならば――――彼女が負ける道理など、どこにもない!

「覚悟……!」

 タンっと地を蹴り、傭兵たちの懐に飛び込んだ遥。

 瞬間、彼女の右手が閃いたかと思えば――――三人の身体から、同時に血しぶきが舞った。

 彼女のクナイが、彼らの身体を斬り裂いたのだ。

 常人の目ではとても捉えきれないほどの早業で、遥は瞬時に三人の敵を斬り刻んでみせた。派手な血しぶきが舞う中、しかし彼女は一滴たりとて赤い血を浴びることはなく……タンっと遠くに着地した彼女の背後で、三つ分の(むくろ)が力なく膝を折って倒れる。

「これは……凄まじいですね、同じ人間とは思えません」

 そんな常軌を逸した光景を覗き見ていた佐藤が、思わずそんな独り言を漏らしていて。

「なんだよ、あれ……人間業じゃ、ねえ……おい野良犬、あのチビっ()……一体、何者だよ……?」

 野上もまた、絶句した顔でそう傍らの戒斗に問いかけていた。

「何者って、忍者だ」

 それに戒斗が平然と答えれば、野上は「何、言ってんだてめえ……?」と怪訝な表情を浮かべる。

「事実だからしょうがねえだろ? っと……来たぜ、今度は反対側からお客さんだ!」

『相手の数は二人だよ、気を付けてお兄ちゃんっ!』

 インカムから聞こえてくる琴音の声に「おうよ!」と返しつつ、戒斗は元来た方向にPPKを向ける。

 すると曲がり角の向こうからは、確かに琴音が言った通りに二人の傭兵が迫って来ていた。

 そんな傭兵たちに向かって、戒斗はPPKを連射。しかし撃ち放った32口径の弾丸は空を切るだけで……PPKもすぐに弾切れを起こしてしまう。

「ああくそ、こんな時に……!」

 戒斗は身を引っ込めると、すぐにリロード動作に入る。

 ――――そう、これがPPKの弱点だ。

 ワルサーPPKは小型ピストルとしては最高の部類に入る一挺だが、しかし元は20世紀前半のピストルだ。現代ほど技術が成熟していなかった時代の産物、ならば必然的にマガジンに込められる弾の数も少なくなる。

 PPKのマガジン容量はたったの七発。それだけしか弾が入らないのだ。

 だから、こうも激しい戦いだとすぐに弾切れを起こしてしまう。PPK愛好家を自覚する戒斗だったが、しかしこれは明確な弱点だとも認識していた。

 が、それでも彼ほどの腕前があれば、その程度の弱点は余裕でカバーできる。

 のだが……しかし、今回はその必要も無かった。

 ――――PPKとは別の、乾いた銃声が木霊する。

 タァンッと銃声が二つ重なって響いた瞬間、今まさにリロードを終えた戒斗がPPKを向けた相手が吹っ飛んでいく。

 それに驚いた戒斗が思わず後ろを――銃声が聞こえた方を振り向いてみると、その先では佐藤と野上がP229を構えていて……涼しい顔の佐藤と、ニヤリと不敵に笑む野上の向けた銃口からは、仄かに白煙が揺れていた。

「へえ……お二人さん、流石にやるじゃねえか」

「ったり前だ、てめえみたいな野良犬に遅れは取るかよ!」

「お褒めにあずかり光栄です、戦部さん」

「ま、この分なら安心だ……背中は預けて構わねえな?」

 残る一人に向かってPPKを撃ち、敵を片付けながら戒斗が言えば、佐藤は「お任せください」と返す。

「それより、先を急ぎましょう。手持ちの弾も少ない現状、長居は無用です」

「ま、そうだろうな。――オーライ、こっちも片付いた!」

「戒斗、早くこちらへ!」

「待ってろ遥、今そっちに行く!」

『周りに敵は居ないっぽい、行くなら今だよお兄ちゃんっ!』

 香華と高野を守りながら、戒斗たちは遥が呼び寄せた搬入用のエレベーターに乗り込む。

 向かう先は船の九階。後は着いたら船尾側に向かえば、香華のスウィートルームに辿り着けるはず。

 とはいえ、こちらの弾数もかなり心許なくなってきた。

 なにせこっちの得物は小型ピストル一挺だ。そんなものだけであんな完全武装の連中を大勢相手にするのは、あまりにも無理があるという話。もしも手持ちの弾を全部使い切ってしまえば、後は本当に遥に任せるしかなくなってしまう。

(これ以上の戦闘は、出来れば避けたいのが本音だな……)

 上昇を始めるエレベーターの中、PPKの残弾を確認しながら……戒斗は静かにそう思っていた。

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