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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-02『宿命の二人‐Double Executer‐』
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第四章:Princess of Azur/01

 第四章:Princess of Azur



 ――――そして、来たるパーティー当日。

 自宅マンションの前で待っていた戒斗の目の前に、いつかのように黒いリムジンがやって来ていた。

「おお……」

 静かに滑り込んできたのはリムジン仕様のロールスロイス・ファントム。こうして見るのは二回目だが、やっぱりその風格に圧倒されてしまう。

 そんなリムジンの運転席から、例によって誰か降りてくる。

 が、それは以前の運転手ではなく――――。

「お待たせして申し訳ありません、戦部様」

「あんたは……確かあの時、香華と一緒に居た執事さんか」

 戒斗の前に立ち、ペコリと(うやうや)しく(こうべ)を垂れる初老の男性。白髪交じりの髪とちょび髭で、ビシッとした皺のない燕尾服(えんびふく)を着た彼は――あの時、香華と一緒に居た執事だ。

「申し遅れました、わたくし高野(たかの)(すすむ)と申します。先日は誠にありがとうございました」

 思いもよらぬ彼の登場に驚く戒斗に、その執事――高野(たかの)(すすむ)と名乗った彼はペコリ、とまた深く頭を下げる。

「戦部様、そちらのお荷物をお預かりしましょうか?」

「あ、ああ……頼むよ、高野さん」

 戒斗が手に持っていた荷物を預けると、高野はそれをリムジンのトランクへ丁重に収める。

「では、お乗りください」

 その後で高野は言って、後部座席のドアを丁寧に開けた。

「ごきげんよう、今日はよろしくね」

「……おはようございます、戒斗」

 すると、開いたドアの向こうから香華と遥が出迎えてくれる。

「やっぱり俺が最後なんだな」

「ルートの都合上、どうしてもね。……さ、早く乗りなさいな」

 香華に手招きされるまま、戒斗はリムジンの中へ。

 例によって配置は戒斗と遥、その向かい合わせに香華が座るといった感じだ。

 戒斗がシートに座ると、高野がドアを静かに閉めて運転席へ。ちなみに今日は前方の仕切り板が下がっているから、運転席の様子はよく見えていた。

「高野、出してちょうだい」

「かしこまりました。では出発いたします」

 振り向いた香華が言うと、高野はリムジンを発進させた。

「……今日は正装、なんですね」

「タキシードってのも悪くねえな、ジェームズ・ボンドみたいでキマってるだろ?」

 そうして車が走り出した直後、遥がポツリと呟く。

 ――――というのも、今の戒斗の格好はタキシードなのだ。

 流石にいつものロングコート姿では、国内外のVIPが集まる船上パーティーの場にはあまりにも似つかわしくないということで、今日の戒斗は珍しくビシッとした正装なのだ。

 ちなみに、そう言う遥もパーティードレス姿だ。黒と白のゴシック調なドレスが綺麗な銀髪に映えて、よく似合っている。

 また対面に座る香華も似たようなもので、こちらは青いパーティードレスを見事に着こなしていた。

「ふふっ、そうね……まるでピアース・ブロスナンみたい」

 ニヤリと笑って言った戒斗の冗談に、微笑んでそう返すのは香華だ。

「なんだ、あんたも分かるクチかい?」

 それに戒斗が少し驚いた顔で訊き返せば、香華は「ええ」と肯定し。

「007なら、最新作まで全部観てるわよ?」

 ニッコリと笑いながら、続けてそう言った。

「へえ、意外だな……あんたみたいなお嬢様がボンドファンとはね」

「そうでもないわよ? 結構居るもの、私の周りには」

「ふぅん……?」

「貴方も知っての通り、私はこういう家柄だからね。子供の頃からしょっちゅう海外を飛び回ってたのよ。飛行機だから移動時間も長くってね……よく映画を見て暇を潰してたの」

「とことん趣味が合うみたいだな、俺とあんたとは」

「ええ、そうみたいね」

 ニヤリと笑って言う戒斗に、香華もふふっと微笑んで返す。

「ところで戒斗、貴方はどのボンドが一番好きかしら?」

「俺か? 俺は……やっぱりショーン・コネリーのボンドが一番だな」

「あー、分かるわ。でも私の一番はロジャー・ムーアかしら」

「いいねえ、俺もムーア時代のボンドは大好きだ。……そうだ、遥はどうなんだ?」

「……私、ですか?」

 二人で楽しそうに007談義に花を咲かせる最中、急に話を振ってきた戒斗にきょとんとする遥。

 遥は突然訊かれて少しうーんと思い悩んだ後、

「私はあまり知らなくて……以前、テレビで流れていたものを少し見た程度ですが」

「っていうと……多分『カジノ・ロワイヤル』かしら」

「あっ、そんな感じのタイトルでした」

「ダニエル・クレイグの初主演か。あれはあれでボンドって感じが凄くて、俺は好きだぜ」

「私もクレイグ時代のボンドはかなり気に入っているわ。……ねえ、開会式の演出って覚えてるかしら? あれは最高だったわね……」

「開会式ってえと、ロンドンオリンピックのか? 確かにありゃ心底痺れたぜ……」

 微笑む香華に共感し、うーんと唸る戒斗。

 そんな目の前の彼を眺めながら、香華はふと何かを思い立ち。

「……そうだ戒斗、今度ウチ来なさいよ」

 と、急にそう彼に言ってみた。

「来いって、前にも行っただろ?」

「仕事じゃなくて、プライベートでよ。趣味でボンドカーをコレクションしてるの、折角だし見に来ない?」

「マジかよ! DB5もあるのか!?」

「当然よ。アストンマーティンは当たり前、歴代のを全部ちゃあんと揃えてるわ。生憎と2000GTはオープンカーじゃないけれどね……」

「ありゃあ元から改造車だからな。……そういえば、撮影で使った本物の2000GTが博物館に保管されてるんだ。前に名古屋で見たことあるぜ」

「私は無いのよね、いつか見てみたいとは思っているけれど」

「常設じゃないからな、運が良ければ見られるんじゃないか?」

「ふふっ、見れたらいいわね。……とにかく、この仕事が落ち着いたら一度来てみなさいよ。なんなら運転してみる?」

「おいおいマジかよ……良いのか!?」

「ウチの庭の中でよければ、ね」

 共通の話題で盛り上がり、楽しそうに話に花を咲かせる香華と戒斗。

 そんな二人の様子を――特に、隣の戒斗をチラリと横目に見つめながら、独り話題に入れずにいる遥は……。

(二人とも、楽しそうでいいな……)

 と、楽しそうに香華と話す戒斗を見ながら――――遥はそう、思っていた。

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