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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-02『宿命の二人‐Double Executer‐』
57/125

第三章:SHADOW DISTANCE/03

 ――――で、放課後。

「こっちだよこっち、お兄ちゃんっ!」

「分かった、分かったから急かすな」

 桐原智里との会合を遥に任せて、戒斗は琴音に連れられる形で遊びに出ていた。

 行き先はいつもの繁華街。当然ながら今日は遥の姿はなく、珍しく琴音と二人っきりでの放課後だ。

 例によって先を行く琴音にぐいぐいと引っ張られながら、戒斗は急ぎ足の彼女についていく。

 そうして琴音がやって来た先は――――ゲームセンターだった。

「で、今日はここなのか?」

「んー、とりあえずはねー。ここ色んなゲーム機あるって評判のところだし、プリクラってのもいっぺんやってみたかったんだー」

「……おいちょっと待て、そのプリクラ体験にゃ俺も付き合わされるのか!?」

「当ったり前じゃーん♪ だからお兄ちゃんと来たかったんだし―? ホントは遥ちゃんも一緒が良かったんだけれど……ま、それは次の機会にってことで♪」

「ふっざけんな! 俺は御免だね、プリクラなんざ俺のガラじゃねえって!」

「まーまー、そう言わないでさっ! 日本に帰ってきたら、花の女子高生らしくプリクラを撮ってみたかったんだよー。私のちょっとした夢のひとつだからさ、ねー付き合ってよお兄ちゃーんっ!」

「ばっ、やめっ……おいおいマジで俺も巻き込む気かよっ!?」

「いーからいーからっ!」

 ……といった具合に戒斗は無理矢理ゲームセンターの中に引っ張り込まれ、そのままプリクラの筐体に直行。こういう勢い任せになった琴音から逃れる術など何もなく、まさにクモの巣に捕らわれた哀れな獲物の如く……戒斗はプリクラの中に引きずり込まれていく。

 で、引きずり込まれた戒斗はなんとも言えない顔のまま、はしゃぐ琴音と一緒に何枚もパシャリと写真を撮られる羽目に。

「んーと、お絵かきなんかも出来るみたいだね?」

「そうなのか…………」

「あれ、お兄ちゃんってば知らなかった?」

「知るわけねえだろ……こういうのに縁があるように見えるか?」

「あー……うん、なんかごめんね?」

「謝られると余計に虚しくなってくるな……」

 そうして強引に引っ張り込まれたプリクラで何枚も撮って、お絵かきペンでちょっとした落書きなんかもしてみて。そうして少し待てば写真がプリントされる。

 筐体の脇にある取り出し口からコトン、と写真がプリントされたシートが落ちてきて、それを手に取ってみた琴音が一言。

「…………うわっ」

 と、戸惑ったような声を上げる。

「うわっ、ってなんだよ……」

「い、いやあ……お兄ちゃんの写真写りが思ったよりひどくって……」

「悪かったな!? だから言ったろ、俺のガラじゃねえって!」

「ま、まさかここまでとは思わなくってさあ……」

「そこまで言うなら見せてみろっ!」

「あっ、ちょっ!?」

「………………うわ、マジでひでえな」

「だから言ったのに……」

 最初こそ反論しようとした戒斗だったが、しかし琴音の手からひったくった写真を見れば全て納得。自分のことながらあまりに酷い写真写りに、喉元まで出かけていた文句も全部引っ込んでしまった。

「ま、まあ……でも嬉しいな、お兄ちゃんと一緒にプリクラ撮れて」

 がっくりと肩を落とす戒斗に苦笑いしつつ、彼から返してもらった写真のシートをぎゅっと胸に抱き締めながら、ポツリと琴音は呟いて。

「ありがとね、私のわがままに付き合ってくれて。大切な思い出になっちゃったね、このプリクラ」

 えへへ、なんて照れくさそうに笑いながら、そう彼に言う。

 それに戒斗は仕方ないな、といった風に肩を揺らしつつ。

「俺が犠牲になった甲斐があったなら、それで何よりだ」

 と、隣に立つ彼女の頭にポンっと手を乗せてやる。

 急に頭に手を乗せられて、最初こそびっくりした琴音は「きゃっ!?」と驚いたが、しかし一秒も経たない内に「えへへ……」と頬をほんの少しだけ朱色に染めて、嬉しそうに、でもちょっぴり恥ずかしそうな笑顔を浮かべていた。

「で、次はどうするんだ?」

「んーとね、あっち行ってみよっ」

「へいへい……好きにしな」

 そのまま琴音に引っ張られた戒斗は、ゲームセンターの更に奥へ。

 賑やかな喧騒の中、店に所狭しと並べられた大小さまざまなアーケードゲームの筐体。それを片っ端から遊び尽くすぐらいの勢いで、琴音と……彼女に連れられた戒斗は店の中を回っていく。

 例えば、レトロな格闘ゲームで対戦してみた時は。

「えいえいっ! 喰らえーっ!!」

「おまっ、待ちは反則だろぉっ!?」

「んふふー、勝てばよかろうなのだーっ! 喰らえサマーソルトだっ!!」

「ひでえーっ!?」

 なんて風に、定番ながら容赦のない戦法を取った琴音に戒斗がボロ負けしたり。

 他にも、例えば定番の横スクロールアクションで遊んでみたら。

「よっ、ほっ、そりゃっ!」

「うおっすげえ……やたら上手いなお前」

「ふふーん、もっと褒めてもいいよー?」

「一発も喰らってねえじゃねえか……っと、やべっ」

「あーあ、残機減っちゃったねー。お兄ちゃんそれ取っていいよ」

「ヘビーマシンガンか? 俺はショットガンの方が好きなんだが……いっけねえまた死んじまった!」

「あははっ、ほらほらボス戦だよー?」

「ちょっ……うおおおまた落ちたぁっ! コンティニューだコンティニュー!」

「って言ってる間に、もう終わっちゃったよー?」

「うおっ早っ……琴音お前、さてはこのゲームやり込んでるな!?」

「んふふー、ノーコメントで♪」

 あまりプレイ経験のない戒斗が四苦八苦する中、琴音が一人であっさりとボスを攻略してしまっていた。

 ……で、次にやってみたのはガンシューティング。中でもゾンビを相手に撃ちまくる定番のヤツだ。

「あらよっと!」

「うへー! お兄ちゃんさっすがー!!」

「これでも本職だからな! この程度……軽いもんだぜっ!」

「んー、私も負けてらんないなっ!!」

「おっと、やるじゃねえか琴音!」

「でしょでしょ!? 筋は良い方だと思うんだよねーっ!」

「……でも、まだ詰めが甘いぜっ!」

「あっ!? ……あーあ、やられちゃった」

「弾数はちゃんと数えておく、基本中の基本だろ?」

「うへー……精進しまーす」

 流石にここでは戒斗が本職スイーパーの面目躍如、現役の拳銃稼業らしく恐ろしい速さと精度で次から次へと画面内のゾンビを撃ち抜いていく。

 その隣で協力プレイをする琴音も中々に上手かったが……しかし残弾管理を怠ったせいで、肝心なところで弾切れを起こしてしまい。見事にその隙を突かれる形でダメージを喰らい、残機をひとつ減らしてしまっていた。

 とまあ、こんな風にゲームセンターを全力で楽しんだ後、次に琴音に連れて行かれたのはカラオケボックスだ。

 ゲームセンターの三つ隣ぐらいの至近距離にあるカラオケ店で、つい先日も遥を含めた三人で一緒に訪れた店だ。

 時間はとりあえず二時間コース。気分次第で延長しよっかという、まあ琴音らしい無軌道っぷりというか無計画な感じで、今日は二人でルームに入室。店内のドリンクバーで飲み物を調達してきてから、一曲交代のノンストップでしこたま歌い倒す。

「へえ、やっぱ琴音は歌上手いな」

「えへへー、もーっと褒めて褒めてっ!」

 琴音は主に近頃の流行歌だとかをメインに、まあなんとも女子高生っぽくキャピキャピした身振り手振りを交えながら歌っていく。

 ちなみに彼女の歌唱力、これで中々のものだ。なんというか、聴いていて楽しい感じの……どこまでも琴音らしい、元気いっぱいな歌声を披露してくれた。

「うへえー、やっぱお兄ちゃん上手だね……」

「悪いな、アメリカ暮らしが長かったからどうしても流行りの歌ってのは分からなくてな……」

「ううん、ぜーんぜん。私もずっとイギリスに居たし、むしろ安心感っていう感じ?」

 で、戒斗の方はというと、こちらは主に洋楽メインの曲選びだ。

 まさに彼が自分で言ったように、アメリカで暮らしていた時期が長かったから、どうしても近頃の流行歌には疎いのだ。知らない歌を適当に歌うよりは、ちゃんと知っているのを歌った方がいいと思い、どうしても英語歌詞の洋楽が増えていく。

 が、これで意外に琴音にはウケていた。

 今日は居ないが、遥にもだ。琴音はイギリス暮らしが長かったこともあり、こういう洋楽にも親しみがあって……遥に関しては単純に聴くのが好きだからって感じで、楽しんで聴いてくれていた。

「あーお兄ちゃん、この曲って歌えるかな?」

「ん? ……新曲か、これならある程度は抑えてる。後半はうろ覚えだがな」

「だいじょーぶ、その辺りは上手く合わせるからっ。ほら一緒に歌おうよっ」

「ったく……分かったから、マイク貸しな」

 で、時にはこんな風に二人一緒に歌うことも。

 曲は最近流行りの超売れっ子アイドル、ルキナ・スティングレイの曲だ。英語圏出身のアイドルらしく歌詞には英語が多く、自然と胸を打つような美しいメロディラインの曲は、それだけに歌う難易度も高い。

 が、そこは流石に歌唱力のある琴音だ。上手いこと歌う彼女に合わせる形で、戒斗もそれに付き合ってやる。

 流石にルキナ本人の――天使の歌声、とすら呼ばれている人知を超えた歌声には及ばないものの、それでも隣で歌いながら聴き惚れるほどに、琴音は綺麗な声で歌っていた。

 ……と、そんな風にカラオケでしこたま歌い倒した後。

「うわー、すっかり夜になっちゃってる……」

「なんだかんだ一時間は延長入れたからな」

 二人が店を出た頃には、もうすっかり空は夜闇に染まっていた。

 予定の二時間に延長の一時間、計三時間も歌い通しだったのだ。陽が落ちているのも至極当たり前のことだった。

「んー、そろそろ遅くなってきたし、流石に帰ろっか」

 そんな真っ暗な空模様と、左手首に着けた細い腕時計とを交互に見た琴音は、どこか名残惜しそうにしつつも……そう言って、戒斗と一緒に家路に就くことに。

 大勢の人が行き交う繁華街の歩道を、駅に向かって二人並んで歩いていく。

「ねぇ、お兄ちゃん?」

 そうして歩いている最中、ふと隣の琴音が話しかけてきた。

 今までのはしゃいでいた様子とは打って変わって、どこか静かな声。ほんのちょっぴりだけ真剣さを含んだ、そんな声だ。

 それに戒斗が「ん?」と反応すると、隣を歩きながら琴音は問いかける。

「――――遥ちゃんのことって、どう思ってるの?」

 と、つい最近もどこかで聞いたようなことを。

 ほんの数日前、一誠にも似たようなことを聞かれた。尤も彼の場合、質問というよりもほぼ一方的に断定して話を進めていたが……。

 とにかく、妙なデジャヴを感じる話題だ。

 だから戒斗はほんの少しだけ苦笑いを浮かべると、隣を歩く彼女をチラリと横目に見ながら一言。

「そうだな……不思議な()だとは、思うよ」

 と、率直な答えを述べてやった。

「ふーん……?」

 戒斗の答えに、琴音はどこか興味深げな様子。これ以上の言葉は紡がなかったが、でも隣を歩きながら顔を見上げてくる彼女の視線が、もっと聞かせてと暗に訴えかけてきている。

 それに応じる形で、戒斗は続く言葉を紡いでいった。

「どうしてかは分からないんだが、遥の前だと……不思議と本音が出てくるような気がするんだ。それに話してると、なんだろうな……安らぎみたいなものを感じることもある」

「へえ、そうなんだ……」

「理由は俺にもよく分からん。だが……なんだろうな、姉ちゃんを思い出す感じなんだ」

「お姉さんっていうと、雪乃さんのこと?」

 ああ、と戒斗は頷き。

「……そういえば、一誠の奴も姉ちゃんと遥が似てるって言ってたな」

 と、数日前に彼に言われたことを思い出しながら、今更ながら合点がいったという風に呟いた。

「あれ、一誠さんって雪乃さんのこと知ってるの?」

「まあな。俺と姉ちゃんがマリアに拾われて育てられたことは知ってるだろ? 一誠はマリアの馴染みでもあったからな、その縁で俺も姉ちゃんも昔から付き合いがあるんだ」

「へえーえ……」

「でも、遥と姉ちゃんが似てるか……あの時はそんなわけないって思ったけど、確かに考えてみると似てなくもない気がする……なあ琴音、お前はどう思う?」

「えぇっ? 私に訊かれてもなあ」

 急に訊かれた琴音はうーん、と唇の下に人差し指を当てて思い悩む。

「雪乃さんと会ったのも、ずうっと昔のことだしなー。遥ちゃんと比べてどうかって訊かれても、難しいかも」

「ま、だろうな……」

「ただ、雪乃さんがいっつもお兄ちゃんにべったりだった、ってことはよく覚えてるよー。なんていうか……すっごい過保護? な感じだったなーって」

「おいおい……」

 なんて感じの話をしながら歩いている内に、気付けば目的地の駅はもう目の前で。そうなれば話は中断、二人は人混みを掻き分けるようにして改札を潜っていく。

 ピッとICカードを通して自動改札を潜り、戒斗の傍に合流しながら……彼の隣を歩きながら、何気なく琴音が思うこと。

(そっか、お兄ちゃんは遥ちゃんのこと、そんな風に――――)

 それは他でもない、途中で止めてしまった話のことで。

(でも、私は……だとしても、どうしたらいいの? どうすれば私は、お兄ちゃんの隣に居られるのかな――――?)

 しかし、その答えは導き出せないまま。たださっきの話の最中……遥のことを話している時の戒斗が浮かべていた、楽しそうな横顔を……きっと本人も無自覚な、そんな表情のことを思い出すだけで。答えは得られないまま、琴音は彼と一緒にホームに上がっていく。

 エスカレーターで昇ったとき、ちょうどホームに電車がやってくる。

 滑り込んできた電車が起こした風に、ふわりと前髪を揺らしながら……しかし琴音は答えを得られないまま、彼と一緒にホームに立つ。

 ピンポーン、という音とともに、電車のドアが開く。

(……ゆっくり、考えればいいや。今はお兄ちゃんと一緒に居られる、それだけで……今は、十分なのかな)

 彼と一緒に乗り込んで、彼と一緒に電車に揺られて。

 そうして戒斗の隣に立ちながら、琴音はそう思っていた。先のことはひとまず横に置いておいて、今はただ……彼と一緒に居られる、この楽しさを味わっていればいいと、そう思いながら。

(でも、いつかはきっと……お兄ちゃんの理想のヒロインに、なってみたいな――――)

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