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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-02『宿命の二人‐Double Executer‐』
51/125

第二章:深窓の令嬢/03

 ――――そして、翌日。

 午前九時を少し過ぎた頃、戒斗の住むマンションの目の前に一台の車が停まった。

 静かに滑り込んできたのは、大きな黒いリムジン。世界最高の超高級車……ロールスロイス・ファントムのリムジンだ。

「おお……」

 戒斗もスイーパーなんて仕事をして長いが、しかし流石にリムジンなんて乗るのは初めてだ。

 だからか戒斗は、目の前にやってきた横長のシルエットに思わず感嘆の声を漏らす。

 と、そうしている内に運転手が降りてきて。ペコリと戒斗に向かって(うやうや)しく頭を下げた後、後部座席のドアを開けてくれる。

「お兄ちゃん、やっはろー」

 パカッと開いたドアの向こうから聞こえてくるのは、呑気に間延びした琴音の声だ。

 見ると、車内には他にもマリアや遥の姿もある。

「なんだ、もう全員お揃いか」

「君が最後だよ、カイト。早く乗るといい」

 マリアに言われながら、戒斗はそのリムジンの中に入っていく。

 後部座席は高級感のあるシートがふたつずつ、合計四つが広いスペースで互いに向かい合う形に配置されている。前方にある仕切り板はせり上がった状態で、ここからだと運転席の様子は全く見えなかった。

 そんな後部座席のスペースは、思ったよりは広くない。

 まあリムジン自体がそこまで大きなものじゃない――それこそリムジン、と言われて想像しがちな、マイクロバスぐらいに長いものじゃないから当たり前の話だ。

 見た目的には、普通より横長の高級セダンといった感じ。

 とはいえ、その高級感あふれる車内には圧倒されるばかりだった。

「すげえな……」

 戒斗はそんな広い後部座席の後ろ側、前向きにセットされたシートに腰掛ける。

 位置的には、ちょうど遥が隣に座っているポジションだ。

「ふふっ、確かにリムジンなんて乗る機会、そう滅多にあるものじゃないからね」

 目を丸くしながら車内を見渡す戒斗に、マリアが楽しげに笑いかける。

 と、そうしている最中にもドアが外側からバタンと閉じられて、運転手が乗り込めばリムジンは走り出す。

「うへえー……私こんなの初めて乗ったよー。遥ちゃんは?」

「私も、流石にこういったものの経験は無くて……」

「だよねー」

 なんて風に琴音と遥が話すのを聞きながら、戒斗はチラリと窓の外に視線を向ける。

 黒色の濃いスモークガラスの向こうを、見慣れた街並みが流れていく。

 普段から通る道で、よく知っている景色のはずなのに……こんなドデカいリムジンの車窓から見ていると、なんだか別世界に来たように思えてしまう。

「流石は天下にその名の轟く、西園寺財閥ってことか……」

 窓枠に肘を掛けて景色を眺めながら、戒斗はポツリとひとりごちた。

 ――――と、そうして車に揺られること一時間弱。

 四人を乗せたリムジンが辿り着いた先は、郊外にある大豪邸だった。

 馬鹿みたいに高い塀に囲まれた、これまた冗談みたいに広い敷地。そこには綺麗な庭園がキッチリ整備されていて、更に敷地の中央には……これまたドデカい屋敷のある、そんな大財閥のお宅らしい大豪邸に、戒斗たちは連れて来られていた。

「おいおいおい……」

「うわー、漫画で見たお金持ちそのまんまだあ……」

「これが……西園寺財閥の力、ということでしょうか」

 ギギッと重たい音を立てて開いた巨大な鉄の門を潜って、敷地の中を走るリムジン。

 その車窓から大豪邸の敷地を眺めながら……戒斗に琴音と遥の三人は、ただただ圧倒されている。

「懐かしいな、ここに来るのは何年振りだったっけ」

 と、そんな三人のベタすぎる反応の傍らで、マリアはこんな感じ。

 まあ分かり切っていたことだが、彼女だけは何度もこの西園寺邸を訪れたことがあるのだろう。当主と旧知の間柄なのだから、わざわざ訊かなくても分かっていたことだ。

 そんな大豪邸の景色に圧倒されながら、走ること少し。敷地のド真ん中にある大きな屋敷の玄関前でリムジンは停まった。

 キキッ……と僅かにブレーキの軋む音を鳴らして、ロールスロイスの黒いリムジンが静かに停まる。

「お待たせ致しました、どうぞこちらへ……」

 そうすれば、玄関前に待機していた使用人がパカッとドアを開き、四人に邸宅の中へ入るように(うなが)してくる。

 玄関に横付けしたリムジンから降りて、マリアを先頭に四人は邸宅の中へ。

 するとまず最初に目に飛び込んできたのは、大きなシャンデリアの飾られたエントランスホール。流石に靴はちゃんと脱ぐ日本式だったが……見た目は本当にヨーロッパにありそうな、貴族のお屋敷といった感じだ。

 そのエントランスの突き当たり、二股に別れた中央階段を昇って二階へ。

 そのまま使用人の案内に従い、ふわふわの赤絨毯が敷かれた廊下を奥へ奥へと歩いていくと……大きな観音開きのドアに突き当たった。

「こちらで、ご当主様がお待ちです」

 言って、使用人はコンコンとドアをノックする。

 声を掛ければ、向こう側から入ってくれという声が聞こえてきて。それに従い使用人がガチャっと開けたドアから、四人は部屋の中に入っていく。

 ドアの向こう側は、有り体に言えば執務室だった。

 大きな執務机と革張りの椅子、その前には応接用らしきソファと背の低いテーブルがある部屋。ここの床にも絨毯が敷かれていて、パッと目に付いた調度品類も……この屋敷に相応しい、高級感のある代物ばかりだ。

 そんな執務室の窓際に、ある一人の男性が立っていた。

 茶色の髪を、ぴっちりとオールバックに整えた男性。背丈は戒斗と同じぐらいで、身に着けたビジネススーツは明らかに仕立てが良く……最高級のオーダーメイド品だと一目で分かる。

「――――成宮マリア、よく来てくれたね」

 その男性はくるりと振り向くと、渋い声と柔な笑顔で四人を出迎えた。

「やあ、久しぶりだね君隆くん」

 そんな彼に、マリアも小さな笑みとともに返す。

「君と直接会うのは……何年振りだったかな?」

「最後に会った時は、まだ娘が5歳ぐらいだったはずだから……そうか、もう16年にもなるのか」

「へえ、じゃあ香華ちゃんはもう成人してるんだ。時間が経つのは早いね、あんなに小さくて可愛らしい女の子だったのに、そうかもう成人しちゃってるのか……」

 感慨深そうに、遠い目をしてひとりごちるマリア。

 そんな彼女の肩をトントン、と戒斗は後ろから軽く叩いて。

「おいマリア、この人が例のクライアントか?」

 ボソッと小声で問いかけると、マリアはああと頷き返して肯定する。

「西園寺財閥の現当主・西園寺(さいおんじ)君隆(きみたか)くんだ。僕の親友で、君たちの依頼人でもある。……君隆くん、彼が前に話した僕の息子だよ」

「だから、息子言うな」

 一言余計なマリアに戒斗が文句を言っていれば、窓際に立つ彼――今回の依頼人、西園寺(さいおんじ)君隆(きみたか)はニッコリと笑い。

「そうか、君が噂に聞く黒の(Black)執行者(Executer)か……」

 と、戒斗の顔をまじまじと見ながら呟く。

「……うん、昔のマリアによく似ているよ」

「そうかい?」

「特にこの鋭い目付きなんか、私が出会った時の君にそっくりだ。血縁じゃないのが驚きなぐらいだよ」

「ふふっ、だってさカイト」

「喜んでいいのか、こりゃあ……?」

 嬉しそうに笑うマリアに戒斗が困った顔を浮かべていると、君隆はふっと小さく表情を綻ばせて。

「さあ、とりあえず掛けてくれ。積もる話もあるからね、ゆっくり腰を落ち着かせて話したいんだ」

 と言って、四人を手招きするのだった。

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