表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-02『宿命の二人‐Double Executer‐』
48/124

第一章:少女たちは何を思う/05

 一誠の修理工場を出た後、戒斗たちはマリアの運転するシェベルに揺られていた。

 助手席に戒斗、後部座席に琴音と遥。そして運転席にはハンドルを握るマリア。

 日没も間近な頃合い、ゆっくりと茜色から夜空のダークブルーに変わりつつある景色を眺めながら……戒斗たちは、車に揺られていた。

「…………」

 カーステレオから流れるのは、70年代の古いハードロック――マリアの趣味だ。

 他に聞こえるのは何度もすれ違う車のロードノイズと、シェベルが奏でるバラバラとした乾いたエンジン音。それだけが響く車内で、四人は特にこれといって言葉も交わさないまま、ただ黙って揺られ続けている。

 別に、さっきの話が原因とかじゃない。

 あの話はもう終わったことだ。会話がないのは、単にこれといった話題がないだけ。だから別に嫌な沈黙というわけじゃなく、ただ単に誰も話していない……ただ、それだけのことだった。

 でも、会話が一切ないというのもなんだか寂しい。

「――――なあ、琴音よ」

 そう思ったからか、戒斗は何気なく後ろの彼女に話しかけていた。

「んー? どしたのお兄ちゃん」

 呼ばれて、窓の外を眺めていた琴音が反応する。

「そういや、この間のことなんだが……大事な話がある、とか言ってなかったか?」

 ――――そう、そのことを急に思い出したのだ。

 大事な話があると、琴音はかつてないほど真剣な顔で戒斗に言った。放課後に遊びに行った後、少しでいいから時間が欲しい。お兄ちゃんに大事な話があるから、二人っきりで静かな場所で話したい、と――――。

 それを、何故だか今になって急に戒斗は思い出したのだ。

 あの時は――直後にマティアス・ベンディクス率いるミディエイターの刺客たちが襲ってきたから、もうそれどころではなくなって有耶無耶になっていたが。そういえば結局何だったのだろうか……と、ふと疑問に思って戒斗は訊いてみた。

「あー……」

 が、琴音は何故だか微妙な反応で。

「……その話なら、もういいんだっ」

 目を逸らしながら、わざとらしく首を横に振る。

 その反応が戒斗には不思議だったが、でもこれ以上は訊くな、と――彼女の言葉の端から、そんな雰囲気を感じ取って。

「ま、なら別にいいんだがな」

 だから戒斗はそれ以上を掘り下げようとはせず、それだけを言って話を打ち切ることにした。

「…………」

 そんな彼の横顔を、後部座席からじっと見つめる琴音。

(……言えないよ、色々知っちゃった今はもう、言えないよ)

 少しだけ悲しそうに目を細めながら、彼女が思うのは――あの日、彼に伝えようとしたこと。

 でも、今となってはもう言えなくなってしまった。

 だって、彼のことを知ってしまったから。

 だって、自分が狙われていることを知ってしまったから。

 だって――――彼の過去に、ほんの少しだけでも触れてしまったから。

(それでも、いつかはきっと……)

 この想いを伝えること、それ自体を諦めたわけじゃない。

 ただ、今はまだ――――何もかもが、早すぎる。

 そう思ったからこそ、琴音は何もなかったことにした。今はまだ、早すぎると思ったから。

(お兄ちゃんのことをもっと知って、全部が解決して……それからでも、きっと遅くないよね)

 自分に言い聞かせるように、胸の内でそっと呟く琴音。

 そんな彼女の横顔を、何気なく隣で見つめながら――――遥は、ふと思う。

(琴音さん、貴女は……ひょっとして)

 確信はない。けれど遥は彼女の想いを……戒斗に募らせた想いを察していた。自分と似たような、彼女の抱くその想いを。

 でも、何を言って良いのか分からない。

 分からないまま……ただ彼女の横顔から、何となくその気持ちを察するだけで。遥は何も言わないまま、琴音を見ていた横目の視線をスッと窓の外に移す。

 車窓の向こうに流れるのは、夕暮れ時の街の景色。

 もうしばらくもしない内に、街には夜が訪れる。眠らない街、不夜の街にも……夜は訪れるのだ。

 そんな街中の景色をぼうっと眺めながら、琴音は、遥は――――少女たちはただ、車に揺られ続けていた。

 その小さな胸の内に――――今はまだ、誰にも秘密な想いを隠しながら。





(第一章『少女たちは何を思う』了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ