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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-02『宿命の二人‐Double Executer‐』
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第一章:少女たちは何を思う/04

 広い修理工場の奥まった場所、床の一部にある隠しハッチを開くと、地下に続く隠し階段が現れる。

 それを下っていくと、行き着く先は武器庫のようなスペースだ。

 地下の広い部屋、壁やショーケースに所狭しと並べられている大量の銃器。

 ここが南一誠のもうひとつの顔、ガンスミスとしての彼の応接間ともいえるスペースだった。

「うわあー……すっごいなあ」

 そんな地下の部屋にやって来たとき、その物々しい景色に琴音が圧倒される。

「琴音ちゃん、驚いたッスか?」

「驚いたなんてもんじゃないよー。まるで映画のセットみたい」

「ハリウッド以上さ、何せこれ全部が本物なんだからね」

 マリアは呆然と部屋を見つめる琴音にふふっと笑いかけてから、

「で、見せてくれるかい?」

 そう、続けて一誠に目配せをする。

 すると一誠は「はいッスー」と言って一度奥のバックヤードに引っ込み……すぐに小振りなガンケースを持って帰ってきた。

「一応、指示通りにオーバーホールはしてみたッス。部品ひとつひとつをメンテして、交換が必要なものは取り換えて……ある程度の精度出しもやってありますから、昔と同じように使えると思うッスよ」

「君が言うなら間違いないね、一誠くんの腕は信用しているから」

「褒めても何も出ないッスよー。んじゃあマリアさん、確認してくださいッス」

 一誠に言われて、マリアは「ん」と頷きながら……目の前のショーケースに置かれた、小振りなガンケースを開く。

 開けてみると、収められていたのは銀色のピストルだった。

「ああ、懐かしいな……」

 マリアはそれを手に取って、軽く動かしながら動作確認をする。

 ――――S&W・M945。

 それが、この妖しく銀色に光るステンレスのピストルの名だ。

 古いモデルの品で、メーカーの高級カスタムガンと呼べる代物。弾はドングリみたいに大きな45口径弾が……たった八発しかマガジンに入らない、なんとも古くさい仕様だが……しかし一発の威力はかなりのものだ。

「なあマリア、それって確かあんたが現役時代に使ってたヤツだよな?」

 記憶が確かなら、このピストルは――彼女が現役だった頃の愛銃だったはず。

 今では使うこともなく、思い出として保管していた代物のはずだ。

 でも、そのピストルは今ここにある。

 それが意外で、戒斗は驚いた顔で訊いてみた。

 するとマリアは「そうだよ?」と彼の方に振り向いて、

「琴音ちゃんとミディエイターのこともあるからね、僕も相応に準備しておく必要があると感じたんだ。それに……どうせ使うなら、この子が良いと思ってね。だから一誠くんに調整をお願いしてたんだ」

 昔馴染みの愛銃を手に、ふふっと小さく笑ってみせる。

「いやー大変だったッスよー。ちゃあんとケースにしまってあったみたいで、錆とかは少なかったんスけど……とにかくダメージが凄くって。一体どんだけ過酷な使い方したらこうなるんスか? 戒斗さんのSIG(シグ)も大概ひどいッスけど……流石にここまでのは見たことないッスよ」

「色々あったのさ、特に現役の頃は色々とね」

 昔を懐かしむように、スッと目を細めるマリア。

 そんな彼女を戒斗が眺めていると、横でふと何かに気付いた琴音が一言。

「あれ、同じのが二つあるんですね?」

 と、ガンケースを見ながらきょとんとして言う。

 ――――そう、二挺あるのだ。

 マリアのM945は今手に持っている一挺だけじゃない、ガンケースの中にもう一挺……全く同じものが入っていた。

 普通なら一挺あれば十分のはず。素人でも分かること、琴音の疑問は尤もだ。

 すると、そんな彼女の言葉を聞いた戒斗は「ああ、それはな――」と琴音に視線を流し。

「マリアは二挺拳銃がお得意のスタンスなんだ」

「っていうと、両手に持ってばんばんばーん、って撃つあれのこと?」

「そうそう、それだよ。マリアの奴、ジョン・ウー映画も真っ青な二挺拳銃で大立ち回りするタイプでな。俺も昔はしつこいぐらいに教えられたよ」

「へーえ……なんか凄そうだね」

「私は実際に見たことはありませんが、それは凄かったそうです」

 と、最後の台詞は今まで黙っていた遥のものだ。

「ふふっ、そんなに褒めても何も出ないよ」

 そんな三人の話を聞きながら、マリアはM945を二挺ともサッと確認する。

 彼女がひとしきり動作確認を終えたのを見て、一誠が「折角なら、奥のレンジで試射していきます?」と提案するが。

「うーん、別にいいよ。君の腕前は信用してるからね」

 しかしマリアは首を横に振ると、ピストルを収めたガンケースをパタンと閉じてしまった。

「うへー、俺って割と信用が厚いんスねえ」

 褒められた一誠は嬉しそうにニヤニヤとしつつ、改めて戒斗たちの方に向き直り。

「それで、他に何かご入用ッスか?」

 と、改めて問うてくる。

「僕は頼んでおいた予備のマガジンと弾を五箱ほど。JHP弾なら在庫たんまりあるよね?」

「俺は特にねえな、弾の在庫はまだまだある」

「私は……弾の追加と、後は予備のマガジンを追加で頂ければ」

「おっけーッス。遥ちゃんはXDM用ッスよね? こんなこともあろうかと、ちゃーんと仕入れてあるッスよ」

 戒斗と遥がそれぞれ注文をすると、一誠はまたバックヤードに引っ込み……マリアと遥が注文した弾箱と予備マガジンを持ってきて、ドンっとショーケースの上にまとめて置いた。

「んー……やっぱり私もこういうの、護身用に持っておいた方がいいのかなあ……」

 とすれば、琴音がボソリとひとりごちる。

 彼女にしてみれば、何気なく呟いた一言だったのかも知れない。

「駄目だ」

 しかし、それを聞いた戒斗は――少しだけ強い語気で、すぐにそれを否定した。

「けど、お兄ちゃんたちにばっかり……」

「駄目だ、お前は銃には触るんじゃない」

「でも……」

「琴音は撃つな、撃ったら駄目なんだ。それじゃあ……俺たちがやってきたことの、意味が無くなっちまう」

 ――――琴音にだけは、撃たせたくない。

 それは戒斗だけじゃない、遥やマリアも共通する思いだった。

 昨日のように後方でのサポート役が、三人にできる最大限の譲歩だ。彼女の気持ちは尊重してやりたいが、でも……そこまでが、許容できる限界。例え護身用といえど、琴音に銃を持たせることは……それだけは、許容できない。

 だから戒斗が言った台詞と、マリアも遥も内心では同じ気持ちだった。

「……そっか」

 すると、それを聞いた琴音はうんうんと小さく頷き。

「分かった、もう言わない。ごめんね……お兄ちゃん?」

 と、小さな声で彼に詫びる。

 それに戒斗は「いや……」と視線を逸らしつつ。

「俺の方こそ、強く言いすぎたかもしれん……でも、分かってくれ。それだけは駄目なんだ」

「うん、分かってる。そのためにお兄ちゃんたちが守ってくれてるんだもんね」

「……すまない」

「謝らないで、悪いのは変なこと言っちゃった私の方だから」

 目を逸らす戒斗と、(うつむ)き気味な琴音。

 そうして場の空気が重くなってきた頃、一誠はぱんぱんっと手を叩きながら。

「――――そいじゃあ、これで全部ッスね?」

 と、雰囲気を変えるためか、敢えて普段通りの軽い口調でそう確認する。

 それにマリアは「うん、大丈夫だ」と頷き返し。

「遥ちゃんの分も込みで……お代、これで足りるかな?」

 と言って、白衣の懐から取り出した札束を彼に手渡した。

「んーちょっと待ってくださいね……おっけー、大丈夫ッス。戒斗さんもそうッスけれど、いつもドル建てで助かるッスよー」

「あの、すみませんマリアさん……私の分まで」

「良いって良いって、必要経費みたいなものだから。仮にも僕はフィクサーだからね、こういうアフターケアもちゃんとするように心掛けているのさ」

 恐縮する遥にニヤリとしてマリアは言うと、片手にガンケースをぶら下げて。

「じゃあ一誠くん、また何かあったら頼むよ」

 そう言って、戒斗たちを連れて店を後にしていくのだった。

「毎度ありーッス! また何でも言ってくださいッスよー!!」

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