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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-01『舞い戻る執行者、交錯する運命‐Guardian Angel‐』
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第九章:FULL THROTTLE/02

「戒斗っ!」

「ああくそ、分かってるよ!」

 頭上から降ってくる対戦車ミサイルの気配を背中に感じながら、戒斗は半ば本能的に動いていた。

 サイドブレーキを引き、ギャアアッと車を真横に滑らせる。

 左手はハンドルを動かして車を巧みにコントロールしながら、右手は窓から突き出してMPXを構える。

 銃口を向ける先は、上空――――迫りくるミサイルだ!

「うおおおおおっ!!」

 瞬時に狙い定めて、戒斗は雄叫びをあげながら撃ちまくる。

 上空に向かって放たれた9ミリ弾は、そのほとんどが虚空を切り裂いただけだったが……しかしその内の一発が、迫るミサイルと真っ正面からぶつかった。

 弾丸に撃ち貫かれた衝撃で、ミサイルは――空中で大爆発。激しい爆炎をまき散らしながら、しかし戒斗たちのセダンに命中する前に撃ち落とされたのだった。

「お、お見事です……」

「自分でも信じらんねえよ……人間やればできるもんだな」

「そ、そうですね……」

 車の向きを戻しながら、遥も戒斗も驚いていた。

 ――――まさか、空中でミサイルを撃ち落とせてしまうとは。

 遥が驚くのは当然として、やった本人の戒斗もかなり動揺している。

 今のはあくまで、破れかぶれの行動だったのだ。本当にできるとは一切思っていなかった。

 だからこそ、遥と一緒に戒斗もかなり驚いていた。

 それと同時に思うのは――――もう二度とやりたくない、という素直な感想だった。

「っ、次が来ます……!」

「だろうな!」

 驚いていたのは撃った当人が一番らしく、ハンヴィーから乗り出していたミサイルの射手はぽかーんと呆気にとられていた。

 が、すぐに正気に戻ると身体を引っ込め、二発目のジャベリン・ミサイルを引っ張り上げてくる。

 それを見て遥が叫んだとき、戒斗はすぐに踏み込んでいた。

 アクセル――――ではなくブレーキペダルを、力いっぱい。

 ギャアアッと音を立てて型落ちのセダンが急減速。そうすれば追ってくるハンヴィーの横に滑り込み……並走状態に入った。

「この距離ならミサイルも撃てねえだろうよ! 後は頼んだぜ、遥!」

 そう、戒斗の意図はそれだ。

 ミサイルが脅威なら、撃たせなければいい。これだけ至近距離なら撃つに撃てなくなる。それを狙って、彼は敢えて急ブレーキを踏んだのだ。

「任されました……!」

 瞬時に戒斗の意図を汲んだ遥は、セダンとハンヴィーが並走し始めた頃にはもう、既に屋根の上に飛び乗っていた。

 サンルーフから飛び出して、セダンの屋根の上へ。しゃがみ込んだ遥はバッと左手を伸ばし、ジャベリンを構えていた男の首をワイヤーで締め上げる。

「はっ!」

 そのままダンっと屋根を蹴った遥は、ハンヴィーの上に飛び移った。

 首を左手のワイヤーで締め上げたまま、右手で忍者刀――十二式隠密暗刀・陽炎弐式を抜刀。逆手に握ったその切っ先を突き立てて、男の背中を刺し貫く。

「まだっ!」

 そのまま遥はワイヤーを解くと、背中を刺した男を蹴って車内に押し戻しつつ……ハンヴィーの屋根に背中を着けて寝転がる。

 寝転がりながら、左手でXDM‐40を抜いて連射。開いたままの上部ハッチの隙間から、運転席と助手席に居た二人をダダダンっと撃ち抜いた。

 そうすれば、運転手を失ったハンヴィーが途端に蛇行を始める。

 遥は危うく振り落とされそうになりながらも、しかし屋根に忍者刀を突き立ててしがみつく。

「受け取れっ!」

 そうした時、並走する戒斗が運転席から何かを投げ渡してきた。

 XDMをしまい、左手で受け取ってみると……それは手榴弾だった。

「ダッシュボードにあったんでな! ソイツでローストにしてやれ!!」

「……御意(ぎょい)!」

 ニヤリとした戒斗に頷き返し、遥は手榴弾の安全ピンを抜く。

 そのまま上部ハッチから車内に放り込み、すぐに忍者刀を抜いた遥は……バシュンっと射出したワイヤーを使ってセダンの上に飛び移る。

 その後方で、蛇行するハンヴィーはそのまま減速し……そして安全ピンを抜いてからきっかり五秒後。ハンヴィーはドンっという音とともに爆発した。

 一度大きく跳ねた後、ハンヴィーが大きな爆炎に包まれる。

 これで……今度こそ追っ手は全て片付けたはずだ。

「お疲れだ、大活躍だったな」

 サンルーフを潜って助手席に戻った遥を、戒斗がねぎらう。

「琴音さんは?」

「まだもうちょい先だ、っと……動きが止まったな」

『――なんだかヤバそうだったけれど、何かあったのかい?』

「チョイとトラブルがな。ま、大したことじゃない」

『そうかい? まあいいけど……琴音ちゃんの動きが止まった。場所は放棄された廃工場……その峠を道なりに行った先だ。気を付けてよ二人とも、恐らく奴は待ち構えているはずだ……君らをね』

「皆まで言うな、決着をつけてやるさ」

「……元より、そのつもりですから」

 インカム越しに聞こえるマリアの声に二人で頷きながら、戒斗はボロボロのセダンを走らせる。

 この道の先で、琴音が待っている。そして奴も……マティアス・ベンディクスも。

 はやる気持ちを抑えながら、戒斗は遥と一緒に峠道を駆け抜けていった。間違いなく決戦の場所になるであろう、山奥の廃工場を目指して――――。





(第九章『FULL THROTTLE』了)

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