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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-04『過去からの刺客‐Blue Rain‐』
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第一章:真夏のイリュージョン/03

「へー、お兄ちゃんのお友達ってFBI捜査官なんだー」

「ロス支局の、な。向こうに居た頃にちょくちょく仕事を持って来てたんだよ、エミリアの奴は」

「なんだか、映画みたいな話だよねー」

 ――――そして、次の日の昼休み。

 例によって屋上……ではなく教室で、戒斗は琴音たちと机を囲みながらそんな話をしていた。

 戒斗に遥と琴音、それに香華といういつもの面子だ。ちなみに話題は言わずもがな、昨日やって来たあの彼女――エミリア・マクガイヤーについてだった。

「つっても、リアルな話だからな。急にこっちに来るって聞いた時は面食らったもんだが……ミディエイター絡みって聞いて、俺も納得したよ」

「……しかし、意外でした。FBIも彼らのことを掴んでいたとは」

 と、興味深げに呟いたのは遥だ。

 戒斗はそれに「まあな」と同意しつつ、

「かといって、俺たちほど深くは掴んじゃいなさそうな雰囲気だったぜ」

 菓子パンをかじりながら、そう続けて答えてやる。

「だからこそ、彼らとしても確たる情報を掴みたいのでしょうね。千載一遇のチャンス、まさに(わら)をもつかむ思いってところかしら」

 とすれば、そんなことを言うのは香華だった。

 それに戒斗は「だろうな」と返して、

「……ま、今回の件はあくまで俺個人として請ける仕事だ。情報共有はしとくが、皆には――特に琴音には、関わりのない話になるだろうよ」

「単なるサポートってだけだもんねー、分かったよお兄ちゃんっ」

「……ですが、助力が必要なときはいつでも仰ってください。私と貴方とは既に一蓮托生、何であろうと力になりますから」

「私も、出来る範囲なら助けてあげるから。その時はいつでも遠慮せず言いなさいな」

「そうはならねえだろうよ、気持ちはありがたく受け取っておくがな」

 遥と香華に言って、その後で戒斗は「……だが」と、少しだけシリアスな顔を浮かべると。

「マリアのあの言い方が、どうにも引っ掛かるな……」

 思案するように唸りながら、そんな独り言を呟いていた。

「マリアさんが、何か仰っていたのですか?」

 気になった遥が訊いてみると、戒斗は「ん? ああ」と彼女の方に顔を上げる。

「俺たちのこと、エミリアには詳しくは話さない方が良いんじゃないかって、マリアの奴がな」

「……と、いうと?」

「いや、俺にも意図は分からん。アイツは根拠のない、ただの勘だとは言ってたが」

 言われた遥も「ふむ……」と小さく唸り、

「私はそのエミリアという方にお会いしたことがないので、深くは言えませんが……その方を巻き込みたくない、という気持ちもあるのではないでしょうか」

 ポツリと、いつもの抑揚の少ない声でそう言った。

 それを聞いた戒斗も「なるほどな……」と納得したように唸る。

「とはいえ、これは私の勝手な憶測です。勘というものに根拠を求めるものでもないですし、マリアさんがそういう気持ちで仰ったのかも分かりませんから」

「いや……参考になったよ。確かにそうかもな、巻き込んじゃ悪い」

 付け加えて言った遥に、戒斗は小さく肩を揺らしながら返す。

 その後で菓子パンの最後の一口を頬張って、空になった包みをレジ袋に突っ込む。ちょっと貧相な気もするが、今日の昼食はこれでおしまいだ。

「……ん?」

 とした頃に、ポケットの中のスマートフォンが震え出す。

 バイブレーションのみで着信音は無し、マナーモードでの着信だ。相手は……なんとなく察しがついていたが、マリアだった。

「すまん、マリアからだ」

 皆に一言断ってから、戒斗は電話に出る。

『――――僕だよ、カイト』

「このタイミングだ、エミリアから連絡があったんだろ?」

 戒斗は先読みして言ってやったつもりだったが、しかしマリアの答えは『残念、外れだよ』と違うものだった。

「なんだよ、アイツじゃねえのか?」

『連絡してきたのは同じ警察でも、相手は公安の特命零課だ。智里からちょっと頼まれごとがあってね』

「零課が……? アズール号の件ならとっくに片付いたんだろ?」

 警視庁公安部・特命零課。前に香華の件で協力した公安の秘密部署で、豪華客船『プリンセス・オブ・アズール』での戦いの時には共闘もした仲の……あの、特命零課だ。

 だが戒斗の言うように、あの事件についてはとっくに事後処理が終わっているはずだ。今このタイミングで戒斗たちにコンタクトを取る理由は、特に無いように思えるが……。

『いや、あれとはまた別件で君に協力して欲しいことがあるって、智里がね』

「俺に……?」

『正確に言えば、彼女の部下の……ほら、覚えてるかい? 船で一緒だった佐藤って刑事が、君をご指名らしいんだ』

「……ああ、覚えてるぜ。あの犬っころも一緒にな」

 船で一緒だった佐藤――零課の佐藤(さとう)一輝(かずき)のことだ。マリアにその名を言われてすぐ、あの知的な顔が戒斗の頭によぎっていた。

 ついでに、くっついていた部下の野上(のがみ)遼一(りょういち)もだ。何かにつけては野良犬呼ばわりされていたから、戒斗もよく覚えている。佐藤も野上も、どちらも優秀で腕の立つ公安刑事だった。

「で、あの旦那が俺に何の用だって?」

『簡単に言えば、捜査に協力して欲しいそうだ』

「おいおい……昼に再放送してる刑事ドラマじゃねえんだぜ?」

『ま、そう言わないでよカイト。どうもその事件ってのはスイーパー絡みらしくってね、しかもミディエイターが関与している疑いがあるんだ』

「奴らが……」

 なるほど、確かにこれは彼が指名したのも頷ける。

 スイーパー絡みというのなら、戒斗にとっては同業者。しかもミディエイターの関与が疑われているとあっては……お呼びが掛かって当然と言えよう。

 なにせ戒斗たちは、今や対ミディエイターのスペシャリストのような立場だ。恐らく零課が頼れる外部の人間で、最も彼らとの関わりが深く、また実戦経験も豊富なのが戒斗たち。ともすれば協力を依頼して当然だろう。

「そういうことなら話は別だ、協力もやぶさかじゃない」

『オーライ、じゃあ今から出られるかい?』

「今から……って、また急だな」

『ま、そう言わないでよカイト。それで? 行けそうなのかい?』

「……分かったよ、今から出る。ただし一旦戻って着替えてからになるから、少しは時間掛かるぜ。流石に制服のままでってのもアレだろ?」

『言えてるね、君はホントに制服似合ってないから』

「一言余計なんだよ、あんたは!」

『……とにかく、智里には僕から伝えておくよ。行き先は追って連絡する、それでいいかい?』

「了解だ、じゃあ上手く段取りは付けておいてくれ」

 最後にそう言って、戒斗はマリアとの通話を終えた。

 とすれば、近くに居た琴音が「お兄ちゃん、どこか行くの?」と訊いてくる。

 それに戒斗はああ、と頷いて。

「チョイと野暮用でな、午後はフケることになっちまった」

「えー、またサボるのー?」

「そう言うなよ琴音、半分は仕事みてえなもんだ。……ってことだ、後のことは遥に任せてもいいか?」

「……ええ、お任せください。琴音さんは私が責任を持って送り届けますから」

「よく分かんないけど、琴音なら帰りは私の車で送っていってあげるわ。それなら戒斗も安心じゃない?」

 コクリと頷き承知してくれた遥に続いて、香華までもがそう言ってくれた。

 戒斗はそれに「すまん、助かる」と礼を言い、手早く荷物をまとめたスクールバッグを肩に担いで席を立つ。

「ってことで二人とも、悪いが琴音のことは頼んだぜ」

 言って、戒斗はそのまま教室を足早に出て行った。

 そうすれば、この場に残るのは遥たち三人だけ。出ていく戒斗の背中を見送りながら、香華はポツリと一言。

「……案外、あれでいて忙しいのね」

 なんて、どこか呑気なことを口にする。

 琴音もそれに「かもねー」と、いつもの間延びした声で同意して。

「最近は特に忙しそうだよね、お兄ちゃんって」

 と、にははーと笑いながら香華と同じく呑気に言う。

 そんな二人の傍らで、遥は戒斗の出ていったドアの方を見つめながら……ただ、一言。

「……お気をつけて」

 二人にも聞こえないぐらいの細い声で、静かにそう呟いていた。

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