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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-04『過去からの刺客‐Blue Rain‐』
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第一章:真夏のイリュージョン/02

「へえ、貴方こっちでもこんな車乗ってるのね」

「まあな、とりあえず乗れよ」

「それじゃあ、お邪魔しようかしら」

 場所は変わって、ターミナル最寄りの立体駐車場。そこに停めておいた戒斗のシボレー・カマロSSに三人で乗り込んだ。

 差し込んだキーを捻り、エンジン始動。いつも通りの快調な一発始動だ。まだエンジンも暖まったままだし、暖機運転の時間を待つ必要もないだろう。

 ちなみに位置関係としては前席に戒斗とマリア、後部座席にエミリアといった感じだ。2ドア車だから後ろに入るときは窮屈だが、座ってしまえば意外に居心地は悪くなかったりする。

「確か……昔も似たようなの乗ってたわよね、ロサンゼルスに居た頃も」

「黒のC5コルベットだ、98年式の」

「ああ、そうだったわね。何度か乗せてもらったから覚えてるわ。日本には持ってこなかったの?」

「持ち込むのも手間だったからな。ロスを離れるときに知り合いに譲ったんだ。……それでエミリア、どこに行けばいい?」

「とりあえず警視庁までお願い。挨拶や手続きやらが色々あるのよ」

 了解した、と戒斗は頷いて車を走らせ始めた。

 バラバラバラ……と乾いた音を立てるカマロを動かして、ひとまず立体駐車場を出る。後はそのまま首都高速に乗って東京方面へとひた走るだけだ。

 オレンジと黒のツートンカラーが眩しい、年代物のアメ車が風を切って走り抜ける。

「……で、肝心なことを聞かせてもらおうか」

 そんなカマロを走らせながら、戒斗はチラリとバックミラーを見つつ話の口火を切った。

 すると、エミリアは――バックミラー越しに目を合わせる彼女は「そうね」と頷き。

「私がここに来たのは、ミディエイターっていう組織を追うためなの」

 と、単刀直入に答えた。

「っ……!?」

「……おやおや、君からその名を聞くとはね」

 すると戒斗は目を見開いて驚き、隣のマリアも静かに目を細める。

「どうやらその様子だと、二人とも心当たりがあるみたいね」

 そんな二人の反応を見て、エミリアも何かを察した様子。

「私はその組織を追うために、FBIからこっちに派遣されたの。貴方たちにはそのサポートを頼むつもりだったけれど……知っているのなら、話が早いわ」

「まあ、俺たちも連中とは色んな縁が出来ちまったからな」

「で、君は僕らに一体なにを頼もうっていうんだい?」

 頷く戒斗と、訊き返すマリア。

 それにエミリアは「そう難しいことじゃないわ」と前置きをしてから、

「ミディエイターについて調べて欲しいの。私たちみたいな法執行機関では掴みにくい情報でも、裏の人間なら融通は効きやすいでしょう?」

「ふーん、なるほどね……いいよ、他ならぬエミリアの頼みだ。引き受けようじゃないか。……カイトもそれでいいよね?」

「アンタが決めたことなら、俺も異存はない。エミリアには向こうでの借りもあるしな」

「交渉成立、ね。といっても私はこっちに着いたばかり、詳しいことはあんまり分かっていないのが現状なの。だから具体的にどうして欲しいかを伝えられるのは、警視庁での手続きが終わってから……そうね、明日以降になるかしら」

 分かった、と戒斗はエミリアに頷きつつ、ハンドルを緩く曲げて高速の分岐点を曲がっていく。

 行き先は霞が関方面、警視庁のある官公庁街の方だ。

「……しかし、疑問がひとつある」

 そうして戒斗がカマロを走らせる横で、マリアがふむと思案するように唸る。

「ミディエイターを追ってきたのはいいとして、どうして日本に? 奴らは正体不明で神出鬼没の、言い方はアレだけど謎の秘密結社だからね……捜査範囲をここに絞り込めたのには、何か根拠があるのかな」

 マリアが呟いたのは、至極もっともな疑問だった。

 それにエミリアは「そうね、あるといえばあるわ」と頷き肯定の意を示す。

「確かに貴女の言うとおり、ミディエイターは謎のベールに包まれた組織よ。私たちFBIにだって全貌は掴めていない。ただ……ここ最近になって、連中の活動痕跡が特に多く見られた地域があるのよ。それは極東方面、つまり――――」

「……僕らの居る、この日本ってわけか」

 呟くマリアにそうね、とエミリアも頷き返す。

 そんな二人の話を聞きながら、戒斗もだろうなと内心で納得していた。

 ――――ここ最近、ミディエイターが特に日本で多くの痕跡を残している。

 その理由は……まあ、言わずもがな。琴音の件や香華を狙った豪華客船での一件、とにかく戒斗の周辺で起こった出来事のことだろう。

 口に出さずして、そんなことは戒斗もマリアも察していた。

「……ま、やれるだけはやってみようか」

 だからマリアは戒斗と一度アイ・コンタクトを交わし、無言のまま静かに頷き合った後で――そう短く、後ろのエミリアに向かって呟く。

「お願いね。ここは私にとってアウェーの土地よ、だから頼りになるのは貴女たちだけ……期待しているわ」





 そうこうしている内に、戒斗の運転するカマロは霞が関に着いていた。

 高速のランプから下道に降りて、幅広く整然とした大通りを走ること少し。すぐに目的の警視庁が見えてきた。

 角地にある三角形に近いような形の建物。刑事ドラマなんかでしょっちゅう見るあのビルが警視庁だ。

 正確には警察総合庁舎といって、警察庁と同居している建物だったりする。まあとにかく、ここがエミリアの目的地だった。

「悪いわね、送り迎えまでやってもらっちゃって」

 庁舎近くの路肩に停めたカマロから降りたエミリアが、開いた窓越しに手を振る。

 それに戒斗は「構わねえさ、これぐらい」と窓枠に肘を掛けながら返し、

「ま、具体的なあれこれが決まったら連絡してくれ。俺でもマリアでも、どっちでも好きな方にな」

 歩道に立つエミリアの顔を見上げながら、ニッと小さく笑みを浮かべて言った。

 エミリアは「分かったわ」と静かに頷けば、

「じゃあ、詳しいことはまた追って話すわ。ありがとう戒斗、また会いましょう?」

 最後にそう言うと、くるりと踵を返して――庁舎の方に向かって歩き去っていった。

 遠ざかっていくエミリアの背中は、通りを行き交う人混みの中に紛れて……そのまま、見えなくなっていく。

「……ねえ、カイト」

 そんな彼女の背中をぼーっと見送っていた戒斗に、隣のマリアが話しかける。

「ん、どうした?」

「エミリアには僕らのこと、あまり詳しくは話さない方がいいかもね」

「っていうと……琴音の件とかか?」

 首を傾げる戒斗に、うんと頷き返すマリア。

「なんとなく、そう思うんだ。根拠はないんだけれど……強いて言うなら、僕の勘がそう囁くのさ」

「……よく分かんねえが、あんたがそう思うのなら。昔から妙に当たるからな、マリアの勘は」

「第六感っていうのは案外と馬鹿に出来ないものさ、君だってよく知っているはずだけれど?」

「まあな、ソイツは言えてらあ。……何にしたって、向こうから話してこなけりゃどうしようもねえんだ。今は待ちってことだ、俺もあんたもな」

「ふふっ、そうだね。……じゃあ行こうか、とりあえず僕の店でいいかい?」

「オーライ、言われなくったってそのつもりだ」

 炊いていたハザードランプを消し、サイドブレーキを解除しつつギアを入れて……戒斗はカマロを再発進。大通りを行き交う車の群れの中を再び走り始めた。

 今度の目的地は秋葉原、いつもお馴染みなマリアのメイド喫茶だ。

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