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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-04『過去からの刺客‐Blue Rain‐』
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第一章:真夏のイリュージョン/01

 第一章:真夏のイリュージョン



「――――戒斗のお知り合い、ですか」

 夏休みも日に日に近づいてきたある日の昼休み、私立神代(かみしろ)学園の二年E組の教室で――長月(ながつき)(はるか)がそう、興味深そうに呟いていた。

 ちなみに、そんな彼女の片手にはメロンパンの包みが。いつもなら昼休みには校舎の屋上で集まるのだが、日増しに過酷な暑さになってきたこの季節、流石に屋上では生命(いのち)に関わるということで、最近では冷房の効いた教室で昼休みを過ごすことが多かった。

「うん、そうらしいよー」

 と、間延びした声で遥に返すのは折鶴(おりづる)琴音(ことね)だ。

「なんか、お兄ちゃんがアメリカに居たころのお友達だって。名前はえっと確か……そうだ、エミリア・マクガイヤーって人だったかな」

「聞いたことのない名前ですね……」

 ふむ、と聞き覚えのない名前に唸る遥。

「名前の響きからして、女には間違いなさそうね。相変わらずモテるみたいね、戒斗って?」

 そんな彼女に、横から口を挟んでくるのは――金髪の少女、西園寺(さいおんじ)香華(きょうか)だった。

 フフッと楽しげに笑いながら言う香華に「モテる、ですか……」と戸惑いがちに返す遥。

「だって、考えてもごらんなさい? 遥ちゃんに琴音と、私に……それと最近じゃ瑠梨(るり)って()も引っ掛けたらしいじゃない? そこに来て今度はアメリカ時代の女友達ときた。どう考えたって戒斗はモテてるわよ、違う?」

「あー……うん、確かにお兄ちゃんって、昔から男の子よりも女の子にばっか囲まれてるイメージだったかも」

「そ、そうなんですか……?」

「私の記憶だから、多分間違いないと思うよー?」

 にははー、と間延びした声で琴音は遥に笑いかける。

「ああ、確か琴音ってフォトグラフィック・メモリー持ちだったわね」

「そうそう、完全記憶能力って奴だよー。だから信用してくれていいのだっ、えっへん!」

 今更ながらに思い出した香華に向かって、大げさなジェスチャーで胸を張る琴音。

 その横で、遥はまだ何か思案しているようで。

「しかし……一体、どんなお知り合いなのでしょうか」

 うーんとひとしきり唸った後、そんなことを呟いていた。

「確かに、気になるところよね。あの戒斗の知り合いで、わざわざアメリカから来るぐらいだから……普通の人間じゃない、ってのは間違いなさそうだけれど」

「まー、そうだよねー。だってお兄ちゃんだもんね」

「ひょっとして、戒斗の元カノだったりして?」

「いやー、いやいやそれはない、ないって香華ちゃん」

「意外とあり得るんじゃない? だって戒斗だもの、ねぇ?」

「あははー、私はお兄ちゃんに限ってそれは無いと思うけどなー」

 それに香華と琴音も、興味深そうな反応を示す。

 とはいえ、この場で考えたところで答えなんて出るはずもなく。肝心の戒斗はといえば、その知人とやらを空港まで迎えにいくからと、今日は学園を休んでいた。

「確か、もうそろそろ飛行機が着くころだって聞いてるけど……お兄ちゃん、ちゃんとエミリアさんに会えたのかな?」

「ふふっ、それはどうかしらね? あの戒斗のことだから、ひょっとして空港の中で迷ってるかも?」

「あははっ、言えてるかもー!」

「そ、それは流石に……無い、とは言い切れませんね……」

「でしょう? だって戒斗だもの」

「ねー、お兄ちゃんだもんねー」

「本当に、そんなことになっていなければいいのですが……」

 この場に居ない彼のことを話のタネに、楽しそうに笑い合う女子三人。

 とまあ、こんな風に今日の昼休みもまた、平和に楽しく過ぎていくのだった。





 結論から言うと、香華の予想はピタリと的中していた。

「どこだよ……到着ロビーってどこだよ……」

「待ちなよカイト、ここに来るのもう三回目だよ? 絶対こっちじゃないって」

 お昼の羽田空港、そのターミナルの中で――香華が思っていた通りに、戒斗は道に迷っていた。

 一緒についてきた成宮(なるみや)マリアが呆れ返っているように、この場所を通るのはもう三回目。目指している国際線の到着ロビーに辿り着けないまま、二人であっちこっち歩き回っていたのだった。

「仕方ねえだろ、なんでこう空港ってのはバカ広い上にややっこしい造りなんだ……!?」

「広くてややこしい、ってのは僕も同意するけどね。でも普通に案内の通りに行けば良いだけなんじゃあないかな……?」

 ブツブツ呟きながら迷い続ける戒斗と、やれやれと肩を竦めるマリア。

 ……まあ、実際のところ戒斗の言い分にも一理ある。

 こういう空港、特に羽田みたいに大きな国際空港だと、ターミナルは恐ろしく広い上に造りがどうにもややこしい傾向にある。こうして道に迷ってしまうのも、仕方ないといえば仕方ないのだ。

 ……が、にしたって迷いすぎだ。

「君は昔から空港でだけは妙に方向音痴だったからね……仕方ない、時間もないし僕が連れていくよ」

「いや、きっとこっちに行けば……」

「いいから黙って一緒に来なよ。迷った挙句に滑走路にでも出たら一大事だ」

「俺でもそこまでは迷わねえって!?」

「君のことだ、可能性はゼロじゃない。ええと……そもそもこっちは乗り継ぎロビーみたいだから、ひとつ下の階だね」

 まだ諦めようとしない戒斗に有無を言わさず、マリアは彼を引きずって目的地に向かっていく。

 ――――羽田空港、正式には東京国際空港というらしい。

 ここは東京湾に面した場所にある国際空港で、その規模は日本最大級。成田空港と並んでまさに東京の玄関口と呼ぶにふさわしい空港だ。

 ちなみに関東圏に住んでいないと混乱しやすいが、東京湾に面していて都心に近いほうが羽田、千葉にあって少し遠い方が成田と覚えると分かりやすい。

 ――――閑話休題。

 そんな羽田のターミナル内を、しびれを切らしたマリアに連れられて戒斗が向かった先は――国際線の到着ロビー。予定ならもう飛行機は到着していて、そろそろ出口から出てくる頃なのだが……。

「到着、予定より遅れてるのか?」

「もう来てるには来てるみたいだよ……っと、噂をすればなんとやらだ」

 出口近くで待っていると、誰かを見つけたマリアが視線で示す。

 戒斗もそちらの方を見てみると――――ああ、確かに見覚えのある顔が出てきていた。

 人混みの中でも一目で分かるほどの、目立つ長身の美女だ。

 ミッドナイトブルーの長い髪を揺らし、キャリーケース片手に歩いてくる彼女。目元に掛けたフレームレスの眼鏡と、178センチの長身を包むビジネススーツがどこか知的な色気を纏わせる彼女こそが……間違いなく、戒斗たちの待ち人だった。

「――――待たせたわね、戒斗」

 そんな彼女は――エミリア・マクガイヤーは出口から出てくると、少しきょろきょろと周囲を見渡して……見つけた戒斗たちの方に近づきながら、ニコッと笑顔で挨拶をした。

「急に呼びつけられるもんだから、驚いちまったぜ。……何年振りだったっけか、こうして会うのは」

「さあね、細かいことは忘れちゃったわ。でも変わらないのね、貴方もマリアも」

「俺はともかく、マリアは化け物レベルで老けねえからな。変わらないのも当然だろ?」

「カイト、僕を化け物扱いはちょっと酷くない? ……まあでも、久しぶりだねエミリア。最後に会ったのは確か……ロスに居た頃だったね」

「ええ、久しぶりに会えて嬉しいわ」

 戒斗との挨拶もそこそこに、ニコリと笑顔でマリアと握手を交わすエミリア。

 二人ともが彼女とは旧知の仲、アメリカに居た頃に知り合った間柄だ。もちろん二人の稼業――スイーパーとフィクサーのことは承知している。

「で、FBIの特別捜査官なお前がわざわざ日本に、しかもこんな急に来たんだ。何か事情があるんだろ?」

「そして、その事情に僕らを巻き込もうとしている。……違うかい、エミリア?」

 握手が済んだ後、二人して単刀直入に訊けば、エミリアはふふっと思わせぶりに微笑んで。

「当たりよ。でも立ち話というのもなんだから、まずは貴方の車に案内してくれるかしら? 詳しい話は道すがら……ね?」

 と、小さく戒斗にウィンクなんかしてみせるのだった。

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