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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-03『オペレーション・スノーブレード‐Operation Snow Blade‐』
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第十章:硝煙と吹雪を越えて/03

『降りてすぐ、目の前にめちゃくちゃ居る! 気をつけてねお兄ちゃん、とんでもない数だよっ!』

「大丈夫だ、心配しなさんな琴音。俺たちにゃ力強い味方が付いてる……だろ、瑠梨?」

「ええ、やれるだけやってみるわ。でもアマテラスだって完璧じゃない、援護はしてくれないと困るわよ」

「任せな、それぐらいは軽いもんだ」

 チーンとベルの音が鳴って、搬入用の大型エレベーターが止まる。

 到着したのは(イースト)ウィングの一階。そこに搬入用エレベーターが……車一台ぐらいなら入りそうなほど広いエレベーターが停まると、ガラガラと音を立てて隔壁のような分厚いドアが開く。

 すると、その先に見えたのは広い廊下と――そこを血相を変えて走り回る、大勢のミディエイター兵士たち。

 ドアが開いたことに気付いた彼らは立ち止まり、こっちを見た瞬間にぎょっと驚いたが……しかし、そこに乗る戒斗たちが例の侵入者だとすぐに気づくと、途端にライフルの銃口を向けてきた。

 いくつもの銃口が、逃げ場のないエレベーターに乗る戒斗たちを睨み付ける。

 だが、それよりも早く――アマテラスが雄叫びを上げた。

「セーフティ解除、攻撃開始するわ!」

 瑠梨がタブレットを操作すれば、アマテラスの重火器が火を噴き始める。

 回転する武装ターレット、掃射を始めるM240機関銃。

 それは、文字通りの弾丸の雨あられだ。そんなものに生身の人間が至近距離で晒されれば、当然タダでは済まない。

 アマテラスの機銃掃射を浴びた敵の兵士たちが、次から次にバタバタと倒れていく。中には撃たれる前に反撃を試みた奴も何人か居たが、しかし彼らの放った弾丸は……全てアマテラスの装甲が弾いてしまい、その後ろに居る戒斗たちに届くことはない。

 ――――あまりにも、一方的。

 傍で見ていた戒斗たちが思わず戦慄するぐらいに、それは一方的すぎる掃討だった。

「おいおい……スゲえなこりゃあ」

「あははっ、ご機嫌でいいじゃないっ! もっとやっちゃってよ、瑠梨っ!」

 半分引いた顔で呟く戒斗の傍ら、愉快そうに笑う紅音。

 そんな彼女に言われた瑠梨は「そう焦らせないで」と言いつつ、タブレットを操作。アマテラスを前進させてエレベーターから出す。

「道はこの子で切り拓くから、貴方たちはバックアップをお願い」

「了解だ、俺と紅音で後方警戒に当たる。遥は瑠梨に付いてやっててくれ」

「任せてよ、背中はちゃーんと守ってあげる」

「……承知しました。博士のことはお任せください」

「だから、瑠梨でいいわ。堅苦しいのは苦手なの」

「それでは……瑠梨さん、私から離れないでくださいね」

「お願いね、かわいいニンジャのお嬢さん」

 火力担当と壁役を兼ねたアマテラスを先行させる形で、搬入用エレベーターから出た戒斗たちは進み始めた。

『ルートはその先を真っ直ぐ! でも気を付けて、まだまだ沢山来るよっ!!』

「お出迎えだそうだ、瑠梨!」

「任せて、一網打尽にする……!」

 車両デポに向かって廊下を突き進んでいけば、琴音の警告通りにまた接敵。今度は曲がり角の向こう、横倒しにしたロッカーやらで即席の防御陣地が築かれている。

 が、そんなものはこの歩行戦車の敵ではない。

 先行したアマテラスが曲がり角を曲がった途端、とんでもなく分厚い銃火に晒される。

 待ち構えていた敵はライフルだけじゃない、軽機関銃も持ち出してきたようだ。

 しかし、どれだけ撃ち込んでもアマテラスには傷ひとつ付かなかった。

 注がれる凄まじい銃火を意にも介さず、アマテラスの武装ターレットが回転。また瞬時に狙いを定めると、今度はグレネードマシンガンを撃ち始めた。

 40ミリグレネード弾が、何発も続けざまに放たれる。

 緩い放物線を描いて飛んでいったそれは……敵が築いた防御陣地に命中し爆発。その裏側に隠れていた兵士たちも巻き込んで、派手に吹き飛ばしてしまった。

 五発ばかし撃ち込んでやれば、もう跡形もない。普通に生身で戦えば厄介だったであろう即席の防御陣地は、それを築いた連中ごと一瞬で吹き飛んでしまっていた。

「……気の毒だけど、こんなところで死にたくないのよ」

 グレネード弾に吹っ飛ばされ、爆死した連中をアマテラスのカメラ越しに一瞥した瑠梨は……小さくそう呟いた後、また歩行戦車を進ませる。

 それに続き、戒斗たちも前進。この分で行けば車両デポまではスムーズに行けるはずだ。

『……ちょっと待って、後ろからも敵が来るよっ!』

「数はどんぐらいだ!?」

『えーと……十人ちょっと!』

「チッ、意外に大所帯だな……!」

「いいじゃない戒斗、ロボット頼りで暇してたところなんだからさっ!」

「あのなあ紅音よ、お前は嬉しいかもしれねえがな……! ああくそ、もういい! 後ろは俺たちで引き受ける! 瑠梨はとにかく前だけ見て突っ切ってくれ!」

「……分かった!」

 インカムから聞こえてくる琴音の警告から程なく、今度は後ろから敵の一団が迫ってきた。

 その数、およそ十人。正確には十二人ぐらいか。

 前方の敵は瑠梨とアマテラスに任せて、後ろを向いた戒斗と紅音はその連中を迎え撃つ。

「息を合わせろ! 遅れんなよ!」

「はいはい、任されたよ!」

 紅音がG36Cを撃ちまくり、まず敵の進行を阻害。奴らがこれ以上こっちに近づいてこないよう釘付けにする。

 そうして紅音が弾幕を張って敵を怯ませている間に、SR‐25を構えた戒斗が狙撃。スコープ越しに素早く、しかし正確に狙いを定めて……一人ずつ、確実に一撃で撃ち抜いていく。

「戒斗、今ので何人目なの!?」

「これで五人目だ!」

「やるじゃん、私は三人やったよ!」

「ってことは……あともうちょいか!」

 当然、撃ち続ければいつか弾は切れる。

 弾を切らした紅音がリロードに入った隙を戒斗が狙撃で補い、逆に戒斗のSR‐25が弾切れを起こせば、その合間を紅音が弾幕を張ってカバーする。

 言葉を交わさずして、この見事なコンビネーションだ。二人ともマリアの秘蔵っ子同士だけあって、何だかんだ言いつつも根っこのところでは気が合うらしい。

「よし、次でラストだ!」

「私が釘付けにするから、やっちゃってよ戒斗!」

「オーライ、任せな! 一撃で決めてやる……!」

 そうして十一人をコンスタントに排除し、残る最後の一人。紅音が弾幕を張って動きを封じている間に、戒斗が狙い定めた一撃を叩き込む。

 ドシュンっとサイレンサー越しの銃声が響いて、SR‐25から撃ち放たれた7.62ミリの弾丸は……彼が思い描いた通りに、見事に眉間に命中。ガクンっと仰け反ったその兵士は、眉間に真っ赤な血の華を咲かせながらバタンと仰向けに倒れた。

「ヘッドショット! やるじゃん戒斗、やっぱり良い腕してるね!」

「こんな至近距離だ、狙撃の内にゃ入らねえよ。……それより合流だ、急ぐぜ紅音!」

「はいはい、分かってるって!」

 これで、見える範囲の敵は全滅だ。

 後方迎撃に費やした時間はわずか数分だが、その間に瑠梨とアマテラスはどんどん進んで行っている。戒斗たちは一刻も早く彼女たちと合流すべく、倒した敵の死骸に一瞥もくれないまま、すぐに踵を返して走り出した。

 そうして、急ぎ瑠梨たちに合流すると――その頃にはもう、目的の車両デポがすぐ目の前まで迫っていた。

「すまん、遅くなった!」

「無事……みたいだねどう見ても」

 戒斗と紅音が合流すると、瑠梨はタブレットに視線を落としたまま「ええ」と頷き返す。

「この子、聞いていた通りの殲滅力だわ。プロトタイプといっても侮れないわね……」

「……大丈夫ですよ、戒斗。全てあの歩行戦車が薙ぎ倒してしまっていますから、私も手持ち無沙汰ではありました」

 タブレットを操作しながら呟く瑠梨と、その傍らで戒斗たちにそう言う遥。

 そんな二人のすぐ目の前では、今もアマテラスが機銃掃射の真っ最中だった。

 武装ターレットが小刻みに忙しなく動き、搭載したM240機関銃とグレネードマシンガンで次から次へと敵を葬り去っていく。これだけ派手に制圧していれば弾が切れそうなものだが、そこは流石に戦闘機械だけあるらしく、派手に見えても撃つ弾数は最小限に留めていた。

「この先が車両デポだ、俺たちが乗る車までブッ飛ばすなよ!」

「分かってるわよ、分かってるから安心して任せて」

 ガションガションと機械の足音を立てながら、アマテラスが何度目かという曲がり角を曲がる。

 すると――――その先に広がるのが、目的地の車両デポだ。

 広い空間にかなり大量の車が並べられていて、中にはリフトに上げられて修理中のも見受けられる。車両デポというだけあって、ここは車の保管庫というか、整備工場のような場所のようだ。

 車両デポの面積としては、ここに潜入するときに経由したヘリコプター格納庫とそう大差ない。構造も似たようなもので、階段で登れるキャットウォークが壁際にあり、奥の方には外に通じるハッチがあって――今は脱出のために開け放たれた状態になっていた。

 その広い車両デポに、とんでもない数のミディエイター兵士が詰めかけている。

 ほぼパニック状態だ。自爆するエルロンダイクから急いで脱出しなきゃならない上に、後ろからは敵が――つまり戒斗たちが迫っている。一目散に逃げ出す者、こちらの迎撃態勢を整えようとする者。とにかく車両デポは大混乱だった。

 そんな中に、明らかに敵対しているアマテラスが現れれば、もうパニックは最高潮。怒号と絶え間ない銃声が響き始めたそこは、もう地獄絵図と言う他になかった。

 だが瑠梨はあくまで冷静に、アマテラスを使って掃討を開始する。

 開けた場所やキャットウォークの上から撃ってくる敵にはグレネードマシンガンを使い、使えそうな車や見るからに危険な燃料タンクの傍に居る奴に対しては、M240機関銃を使って狙い撃つ。

『――間もなく当基地は自爆します。残り十分――――』

 そんな最中、絶え間ない警報音と一緒に聞こえてくるのはタイムリミットまでの残り時間を告げるアナウンス音声。

 どうやら、もう本当に時間がないらしい。急いでここから抜け出さないと……エルロンダイクの自爆に、巻き込まれる!

「あと十分だ! それまでにここを突破して離脱する!」

「言わなくたって分かってる! でも……思ったより数が多いわ、流石に弾が足りるか分かんなくなってきたわよ!?」

「この数だ、そうだろうよ! ……紅音、遥、俺たちも援護した方が良さそうだ!」

「……心得ました!」

「ここまで来たら、やってやろうじゃない!」

 そんなアマテラスを盾にしながら、戒斗たちも援護射撃を開始する。

 戒斗はSR‐25で狙撃し、紅音はG36Cを撃ちまくり。遥は忍者刀を背中の鞘に納め、自前のピストルで――スプリングフィールド・XDM‐40で狙い撃つ。

「細かいのは俺たちで仕留める! 瑠梨は固まってる奴らを優先的に叩いてくれ!」

「って、簡単に言ってくれるわね……!」

 武装ターレットの機関銃とグレネードマシンガンを撃ちまくりながら、アマテラスは少しずつ前進。そうして進んでいく歩行戦車が撃ち漏らした敵を、戒斗たちが仕留めていく。

 と、なんだかんだと順調に突破口を開き始めた……そんな、矢先のことだった。

 残り五分とアナウンスが響く中、インカムから琴音の焦った声が聞こえてきたのは。

『っ……! お兄ちゃん、さっき確かにサイバーギアってのは倒したんだよね!?』

「ったく、なんだよ藪から棒に!」

『来てるんだよ、それっぽいのが……すごい勢いで、お兄ちゃんたちの後ろからっ!!』

「なっ……んだと……っ!?」

 ――――そんな、馬鹿な。

 琴音の声を聞いた瞬間、戒斗の脳裏によぎったのはそんな感情。戒斗も、通信を聞いていた遥と紅音も絶句し、思わず敵を撃つ手を止めてしまう。

 サイバーギアが、まだ生きている――――!?

「本当なのか、間違いないのか琴音っ!?」

『流石に私だって間違えないよ! これ……さっきお兄ちゃんたちが戦ってた奴だよっ!!』

「っ、なんてこった……!」

 忌々しげに、大きく舌を打つ戒斗。

 それを見た瑠梨が「どうしたの!?」と呼びかけてくるから、戒斗は彼女の方に振り返って言った。

「あの野郎が……サイバーギアが、まだ生きてやがった……!!」

「……ちょっと、それ本当なの?」

「監視カメラで援護してくれてる俺の仲間が見たんだ、確実な情報だ。どうやら後ろから追っかけて来てるみたいぜ、あの野郎……!」

 苦い顔で言う戒斗の言葉に、瑠梨は顔を青ざめさせた後……ほんの数秒だけ、思案するように瞼を閉じる。

 そしてすぐに閉じていた瞼を開くと、戒斗に向かってこう問うた。

「……この先、アマテラス無しで突破できそう?」

「あ、ああ。元はそのつもりだったしな……それに大半は始末できた。後は俺たちだけでも十分だが……どうする気だ?」

「ここにアマテラスを自動迎撃モードで待機させる。少しは時間稼ぎになるはずよ」

「……一応訊いておくが、勝算は?」

 もしかしたら、この歩行戦車ならサイバーギアに勝てるかもしれない。

 そんな淡い期待を込めて戒斗は問うてみたが、しかし瑠梨は「無理ね」と即答する。

「戦闘テストの前にシミュレーションをしたんだけれど、9:1の割合でサイバーギアの圧勝って結果が出たわ。この程度のUGV……まして頭の悪い自動迎撃モードで、とても勝てるとは思えない」

「じゃあ、本当に出来て時間稼ぎか……まあいい、それでも十分だ。やってくれ瑠梨、後は俺たちで引き受ける」

 瑠梨が了解、と頷く傍ら、戒斗は紅音を連れて前進。一気に車両デポの中に突入して道を切り拓く。

「……よし、待機位置は固定。後は自動迎撃モードを起動、迎撃範囲は前方180度に指定して、っと……頼んだわよ、アマテラス」

 その間に瑠梨はタブレットを操作して、後ろを向かせたアマテラスを車両デポの入り口前に立たせる。

 そして自動迎撃モードを起動。後はアマテラス自身が判断して、サイバーギアを迎え撃ってくれるはずだ。

『――――オーライ、どうにか片付いたよ!』

『遥、瑠梨を連れて来てくれ!』

 インカムから聞こえる二人の声に了解、と返しつつ、遥は瑠梨の羽織った白衣の裾を引いて呼びかける。

「……瑠梨さん、私たちも行きましょう」

「え、ええ。分かったわ……!」

 タブレット端末を投げ捨てた瑠梨は、遥に手を引かれるまま走り出す。

 と、その直後――――背後からとんでもない勢いで迫ってくる気配がひとつ。

 それは素人の瑠梨にも分かるほど、異様な気配で。それに気付いた彼女が思わず振り返ってみると、するとそこにあったのは――――。

「っ! サイバー、ギア……!!」

 全身ズタボロになりながらも、それでも彼女らを仕留めんと追撃してきたサイボーグの――暴走状態にあるサイバーギアの、鈍色に光るその姿だった。

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