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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-03『オペレーション・スノーブレード‐Operation Snow Blade‐』
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第八章:Shadow Encounter/05

 ――――その頃、戒斗たちは。

「ああもうっ、何なのあの動きっ!? 撃っても撃っても当たらないっ!!」

「知るかよ、俺に訊くんじゃねえっ!!」

「一応は貴方の弟でしょう!? どうなってるのよアイツっ!!」

「知らねえよ!? 弟っつってもガキの頃に生き別れたっきりだ! 俺が知るわきゃねえだろうがっ!!」

 二人で怒鳴り合いながら、戒斗はピストルを、紅音はアサルトライフルを撃ちまくる。

 だが……馬鹿みたいに撃ちまくっても、弾丸は一発たりとて暁斗に掠りもしなかった。

「あははっ、良いねっ!! 兄さんとは一度こうして戦ってみたかったんだ!」

 心底楽しそうに笑いながらステップを踏み、ヒラリヒラリと踊るように弾丸の雨を避け続ける暁斗。

 時にくるっと身体を回して、時にタンっと地面を蹴って宙返り。顔に浮かべるその笑顔も相まって、彼は戦っているというよりも……まるで、舞台の上で踊るダンサーのようだ。

 ――――前に、紅音の戦い方を踊るようだと思ったことがある。

 だが、暁斗のそれは彼女以上だ。ダンスを舞うように飛び回るのも、顔に愉快な笑顔を浮かべているのも一緒だが……でも、その動きは紅音よりも遙かに素早く、それでいて無駄が一切ない。

「夢がひとつ叶った気分だよ、兄さんっ!」

 そうして舞い踊りながら、暁斗は時たま右手のピストルを撃ってくる。

 タンっと銃声がして、彼の右手のP30Lが火を噴く。

 銃口がこっちを向いた瞬間、マズいと思った戒斗がサッと顔をひっこめると……その直後、盾にしたデスクに9ミリの弾丸が突き刺さって火花を散らした。

 あんなふざけた戦い方だというのに、狙いは驚くほど正確だ。

 油断していたら、いつやられるか分からない――――。

 戒斗にそう強い警戒感を抱かせるほどに、暁斗は……舞い踊るように戦う彼は強かった。

「ごめん戒斗、リロード入るねっ!!」

 そうした最中に、すぐ傍で紅音がサッと物陰に身をひっこめる。

 弾切れのようだ。戒斗は「あいよ!」と頷き返し、彼女の隙をカバーするようにピストルを撃ちまくる。

「っていうか、折角あるんだからライフル使ったら!?」

 G36Cのマガジンを交換しながら、紅音はピストルを――P226を撃ち続ける戒斗に向かって叫ぶ。

 戒斗はそれに「無茶言うんじゃねえ!」と怒鳴り返し、

「アイツを相手にこんなデカブツじゃ追っつかねえよ! ……リロードだ、カバー頼む!」

 と言いながら、自分もまた身をひっこめた。

 今度は彼がリロードの番だ。紅音は「はいはい、分かったよ!」と頷きながら身を乗り出し、リロードを終えたばかりのG36Cを暁斗に向かって撃つ。

「かといって、このまんまじゃ埒が明かないでしょうっ!? 私が前に出るから、貴方はそこから狙撃で援護してっ!!」

「……大丈夫なのか!?」

 驚いた顔で見上げる戒斗に「やるっきゃないよ!」と琴音は大声で答えて。

「時間を稼ぐにしたって、ここでモジモジしてたら逆に私たちの方がやられちゃうっ! だったら……イチかバチか、賭けてみる価値はあるんじゃないっ!?」

「それは……そうだが!」

「――――ああもう、また弾切れっ!」

「あいよ、カバーする!」

 また紅音のG36Cが弾切れを起こし、その隙を補うために戒斗がまたP226を撃ち始める。

 身をひっこめた紅音は空のマガジンを捨てて、新しいものを取ろうとポーチに手を伸ばす。

 ……が、掴もうとした手は空を切る。

 もう予備のマガジンはひとつもないらしい。紅音はチッと舌を打つとG36Cから手を離し、自分のピストルを――ベレッタ・M92Gを両手でサッと抜いた。

 二挺のピストルを両手で持つ、マリア譲りの二挺拳銃スタイルだ。

「とにかく、私があの色男の気を引くから、貴方が仕留めなさいっ!!」

「お、おい紅音っ!!」

 戒斗の制止も聞かぬまま、紅音は両手にベレッタを持って飛び出した。

 隠れていたデスクを飛び越えて、それを踏み台にバッと飛び上がる。

「どれだけ動いたって、至近距離なら!」

 空中を高く舞いながら、紅音は真下に居る暁斗に向かって両手のベレッタを撃ちまくる。

 急に飛び出してきた紅音が放つ、上空からの9ミリ弾の雨あられ。

 しかしそれを前にしても、暁斗は楽しげな笑顔を絶やさないまま――――。

「さて、どうだろうね?」

 降り注ぐその全てを――――ごく当たり前のように、避けてしまった。

 タタンっとリズムを踏むみたいに足を動かし、くるくると舞う暁斗。まるで全て見えていると言わんばかりに、飛んできたボールを避けるような容易さで……涼しい顔のまま、暁斗は全ての弾丸を避けてみせたのだ。

「ちょっ、嘘でしょ……っ!?」

 これには、流石の紅音も驚きの顔を隠せない。

 が、驚愕の表情を浮かべつつも紅音は次の一手を打つ。

 タンっと着地し、そのまま身を低くして突撃。一気に暁斗の懐まで滑り込むと、両手のベレッタで至近距離からの銃撃を放つ。

「ふふっ……そう来るか」

 当然、それに反応できない暁斗じゃない。

 笑いながら、紅音の放つ全弾を避け続けて……時たま隙を見ては右手のP30Lを向けて、紅音に反撃する。

「っ!!」

 それに対し紅音は、咄嗟にピストルを持つ暁斗の右手を払い除けることで回避。そのままもう片方の手でベレッタを突き付けるが、これも逆に暁斗の手で払い除けられてしまい、上手く当てることが出来ない。

 格闘戦――――。

 互いにピストルを持って撃ち合っているというのに、傍から見た二人の攻防はまるで素手の格闘戦のようだった。

 しかも、互いに互角の勝負。いや……紅音の方がわずかに押されている。暁斗はピストル一挺だけにもかかわらず、だ。

「この、化け物め……っ!!」

 そんな状況の中、激しい攻防を続ける紅音は思わずそう呟く。

 すると暁斗はフフッとまた小さく笑い、

「君も中々やるみたいだね。兄さん並みの腕前っぽいな……これはまた、楽しみがひとつ増えたかな?」

 と、余裕綽々の笑顔を浮かべながらそう言う。

「貴方に褒められたって、嬉しくもなんともない……!」

 紅音はそれに苦い顔で返しつつ、一瞬チラリと戒斗の方に横目の視線を流す。

 何やってるの、早く撃って――――!

 急かすような視線がそう訴えかけてきているのは、言葉を介さずとも分かる。

 だから戒斗はP226をホルスターに収め、SR‐25スナイパーライフルを構えたのだが。

「っ、狙いが定まらねえ……っ!」

 しかし、撃てなかった。

 照準が上手く定まらないのだ。暁斗が上手く紅音を盾にするような位置取りをしているせいで、思うように狙いが定まらない。

 下手に撃てば、間違って紅音を撃ってしまいかねない――――。

 そんな状況下でイチかバチかの賭けに出られるほど、戒斗は薄情じゃなかった。

「っ……このぉっ!!」

 が、そこは紅音が上手く立ち回ってみせた。

 彼女も戒斗が撃つに撃てない状況なのは分かっていたようで、ちょうど両手のベレッタの弾が切れた頃……暁斗に向かって、鋭い蹴りを放ったのだ。

 それを、暁斗は両腕をクロスして受け止める。

 紅音は蹴りが当たった反発力を使ってタンっと飛び退いたが……その刹那、ほんの一瞬だけ暁斗に隙が生まれた。

 両手をクロスし防御姿勢を取った暁斗は、すぐには動けない。紅音は離脱しているから、巻き込む心配もない。

 それでも、生まれた隙はほんの一瞬。コンマ何秒もすれば、暁斗はまた撃たれない位置に動くだろう。

 だが――――その刹那のチャンスを見逃す彼じゃない。

「今だよ、戒斗っ!!」

 バック宙で飛び退きながら、紅音が叫ぶ。

「オーライ、上手くやってくれたな……!」

 それに戒斗はニヤリと小さな笑みで返しながら、トリガーに指を掛けて。

「あばよ!」

 一瞬のためらいもなく、そのトリガーを引き絞った。

 ドシュンっとサイレンサー越しのくぐもった銃声が木霊し、SR‐25から大口径ライフル弾が撃ち放たれる。

 この至近距離だ、スコープじゃなく斜め右に傾けて装着した接近戦用ドットサイトを使っての照準だったが……しかし、狙いは正確だ。

 戒斗の放った7.62ミリ弾は、そのまま無防備な暁斗に向かって飛翔する。

 そして、そのまま彼の身体を撃ち貫いた――――はず、だった。

「ふふっ……♪」

 暁斗は笑いながら、その弾丸を――弾き飛ばしたのだ。

 サッと向けたP30Lで9ミリ弾を撃ち、飛んできた戒斗の7.62ミリ弾を……空中で、撃ち落としてしまったのだ。

 空中で激しい火花がパッと散り、チュインっと甲高い音が響く。

 ついさっき見せたように、暁斗はまた――空中で、弾丸同士をぶつけて相殺してみせたのだ。

「嘘だろ……っ!?」

 それを目の当たりにした戒斗は、思わず絶句の呟きを漏らす。

 だが、呆然としている余裕はない。必殺の一撃が防がれた今、危ないのは紅音だ。このままだと弾切れの彼女が、暁斗から一方的な攻撃を受けてしまう――――!

「チッ……!」

 そう考えれば、戒斗の動きは早かった。

 再びSR‐25から手を離し、P226を抜き直す。隠れていたデスクを飛び越えて、そのまま紅音を庇うように……彼女と暁斗の間に割って入るように、一気に距離を詰めていく。

「暁斗ぉぉぉぉっ!!」

 叫びながら、注意をこちらに向けるようにP226を連射しつつ突進する戒斗。

 そんな彼を前に、暁斗は今までよりずっと嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「やっと来てくれたね、兄さん……!」

「サイバーギア……こんなものまで造って、お前たちは一体何のつもりだっ!!」

「知ってるくせに! 世界平和だよ、僕たちの目的はね!」

「ふざけたことを!」

「ふざけてなんかいないさ!」

「その過程でどれだけ巻き添えを食うか、考えもしないお前がっ!」

「必要な犠牲だよ、人々が真に望む世界を、平和な世の中を創るためのね!」

「ッ! 何よりお前たちは――何も知らない琴音を狙い、巻き込んだ! 答えろよ暁斗! お前たちはいったい何のためにアイツを狙う!?」

「ははっ、それを言っちゃあ面白くないよ! ただ……必要なんだ、僕らの計画には彼女が!」

「……ああ、そうかい!」

「そうさ! 何より僕は悟志に拾われ、あの人の元で生きてきた! 悟志と一緒に、僕はずっと生きてきたんだ!」

「お前の事情は気の毒に思う! だが……お前はミディエイターだ! 奴らの所業を知ってもまだ、奴らの側に付いている! だったら……例えお前が、俺にとって実の弟であろうと! お前は……俺の、敵だっ!!」

「そう、そうだよ兄さん! さあ僕と一緒に戦おう! 楽しみだったんだ……こうして兄さんと戦うことに、僕はずっと憧れていたっ!!」

「知るかよ! だが……お前を撃つことに、俺は躊躇(ちゅうちょ)も戸惑いもないっ!!」

「さあ愉しもうよ、兄さんっ!!」

「暁斗ぉぉぉぉっ!!」

 兄弟二人が、激突する。

 戦部戒斗と戦部暁斗、生き別れた二人の兄弟がごく至近距離まで間合いを詰めて、互いにピストル一挺で衝突した。

 だが――――その勢いは、さっき紅音が戦っていた時の比ではない。

 互いにピストルを向けては払い除け、拳や蹴りといった格闘戦を織り交ぜても、互いにその全てを受け流す。もう互いの息遣いすら聞こえるほどの超至近距離でタンタンっと何度もピストルが火を噴くのに、しかし放つ弾丸はどちらの身体を切り裂くこともない。

 それは、まさに暴風――――。

 吹き荒れる嵐の中心にわざわざ飛び込みたい人間が居ないように、それを目の当たりにした紅音も……一瞬は援護射撃をしようかと思ったが、しかしすぐに思い直した。

 下手にあの二人の戦いに手を出せば、逆にこちらが思わぬ手傷を負わされるかもしれない。

 本能的にそう紅音に思わせるほど、この二人の戦いは熾烈そのものだった。

「ッ……ねえ瑠梨、まだなのっ!?」

 さっき隠れていたデスクの陰まで戻ってきた紅音は、ベレッタ二挺のマガジンを取り換えながらそう瑠梨に叫ぶ。

 …………そう、この状況を打開できる手段があるとすればひとつしかない。

 というか、その時間を稼ぐために戦っているのだ。熱くなった戒斗は半ば忘れかけているようだが、しかし目的を履き違えてはいけない。今最も優先すべきことは、あくまで瑠梨を連れて脱出することであり……暁斗や八雲と決着をつけることじゃないのだ。

 それに、あのまま戦えばいずれジリ貧になる。

 敵地のド真ん中という状況の中で、ジリ貧になれば最終的にどちらが不利になるかは明らかだ。このまま戦い続ければ、結果的に戒斗が負けてしまう。そう思ったからこそ、紅音は瑠梨に向かって叫んでいた。

「待って、あともう少し!」

 それに瑠梨は必死にキーボードを叩きながら叫び返して、

「――――よし、これでラストっ!!」

 最後にタァンッと、勢いよくエンターキーを叩いた。

 すると、その瞬間――――このラボに満ちていた空気が、確実に変わった。

 最初に聞こえたのは、ガガガッという軋むような機械音。それが聞こえた瞬間、戒斗と暁斗は……遠くで刃を交えていた遥と八雲もまた、思わず戦う手を止める。

 しんとした、奇妙な静寂がラボの中を満たす。

 だが、そんな静寂もほんの数秒だけのこと。すぐにまた機械音が響き始めると……三つの影(・・・・)が、突如として動き始めた。

「この面妖(めんよう)な気配……いかん、暁斗っ!!」

 その直後、八雲もまた尋常ならざる気配を察知し、目を見開いて暁斗の名を呼ぶ。

「これは……ちょっと、マズいかも知れないな……!!」

 同時に暁斗もまた、初めて見せる焦りの表情を浮かべながら、タンっと飛び退いて戒斗の傍から離れていった。

 八雲もまた遥との交戦から離脱し、暁斗の元に合流。彼と背中合わせになるような位置に立つと、警戒したように太刀を構える。

 彼と背中を合わせる暁斗もまた、戒斗たちと戦っていた時とはまるで違う……緊張感に満ちた、シリアスな表情を見せていた。

 この二人が、これほどまでに緊張する理由――――。

 呆気に取られていた戒斗たちだったが、しかしすぐにその理由を知ることになる。

「……戒斗っ!!」

 瞬間、遥が叫ぶ。

 それと同時に、起き上がる影が三つ。

 横たわっていた手術台のような機材から、拘束具を引き千切りながら起き上がる……三体の、機械人形。

 ――――――サイバーギア。

 ゆっくりと、無機質な動きで起き上がる三つの影。人のカタチをしていて、人を元にしていながらも……しかし確実に人ならざるモノ。脳髄を埋め込んだだけの、自我を持たぬ三体のサイボーグが今……あろうことか、自らの意思で動き出していた。





(第八章『Shadow Encounter』了)

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