85 悪の組織劇場 第7幕 悪の総統は、現状に悩む
ゴクアークは、悩んでいた。
今まで部下の手前、豪快に大量に飯をかき込んでいたのだが、
最近胃もたれに悩み始めたのだ。
だが、筋肉を維持するために飯を大量に食べるのは、必須と考えていた。
効率よく食べるなんて頭にない。
厳つい顔で筋肉ムキムキのオッサンが、ちびちび食べていると
あまりにも情けなく見えると感じている見た目を気にする男なのだ。
そして、胃もたれに利く胃薬を隠れて飲むようになったのだ。
なぜ隠れて飲むのかというと恥ずかしいのもあるが、
情けないと思われたくないのだ。
彼のなけなしのプライドである。
そんなある日、食事会の後で家に戻り、彼は油断したのか台所で胃薬を嬉しそうに飲んでいた。
そこを嫁と娘に見られたのだ。
嫁さんはスルーしてくれたが、娘はそうもいかなかった。
「見え張るからだよ、どうせ食べ過ぎたんでしょ。うまく食べないとダメだよ」
と言ってきたのだ。
「何を言う、ちょっと調子が悪くなっただけだ。たまたまだ」
と強気にふるまう。
もちろん嘘である。
ただの虚勢である。
それをいぶかしげに見る娘。
「まあいいけどね、無駄に無理しすぎるの悪い癖になってるよパパ」
一言余計だとも思いながら意地を張るゴクアークである。
そこに息子たちが、追い打ちをかける。
「なあ、親父。そろそろ無理してオレ達若い衆に合わせて食べるのやめたら?
周りが気にして困るんだよ」
息子Bが口火を切る。
「そんなことはない、無理はしていない」
と意地を張る。
「もう年なんだから落ち着いて食べようよ、張り合う歳でもないだろ。
親父はどっしりと構えてくれればいいと思うけど」
息子Aが追い打ちをかけてくる。
「何を言う、落ち着くにはまだ早いわ。わはははは!」
強気を崩さない。
すでに限界なのは、本人だけでなく周囲もわかるのに。
「はいはい、もういじめないの。
お父さんは意地を張りたい時なのよ。
もう少し察しなさい。
老けたって感じたくないのよ
初老になって、老眼になって、食も細くなり始めて、実感したくないのよ。
だから、体を気にしたいのはわかるけど…今の年齢になじむまでそっとしておきなさい」
と、痛恨の一撃が妻からくる。
その言葉込められたあまりの口撃力にうなだれてしまうゴクアーク。
ゴクアーク:精神ダメージ70%
厳つい顔のオッサンが、うなだれても怖いもんは怖いのだ。
その様子を見て、さすがに堪りかねた子供たちがフォローに回る。
「母さん、とどめさしてどうすんの。
認めにくいもんだよ、老いを感じることは」
息子Aがフォローしているつもりで静かに追撃する。
ゴクアーク:精神ダメージ80%
「母さんが一番ひどいと思うよ。いくら若い時にできたことが、
今できなくなって情けなくなってきてるとはいえ…」
息子Bは母に苦言を言いながらさらに追撃する。
ゴクアーク:精神ダメージ90%
「ママ攻撃力強すぎだよ、いくらパパが無駄に自分は若いをアピールしてるのに。
パパだって老化を自覚してるんだからとどめ刺さない」
と、娘の追い打ちの一刺し。
ゴクアーク:精神ダメージ100%
子供たちの優しい気持ちがとどめとなった。
パリィンンン。
ゴクアークのガラスのオッサンハートは、妻の口撃と
子供たちの追撃により砕け散ったのだった。
モチロン音など聞こえない。
聞こえたのは、ゴクアークだけかもしれないが…
ゴクアークの「まだ若い」という年齢に対する反逆は、
家族によって見事灰塵と化したのだった。
それにより、厳つい顔でキンニクだるまのオッサンが部屋の隅で
いじけることになる。
立ち直るまでに時間がかかったのは、言うまでもない。
立ち上がれっ!
ゴクアーク!
オッサンは君の味方だ。
よる年波に負けているのは君だけじゃない!!!
〇これは悪の組織の方々の普段を描く一幕です。




