82 悪者は力を解放する
二人が悟ったように戦場を見ていると
そこに元気いっぱいの少年のような少女が息を切らして現れる。
「ワルモーン君はどこですか?トレインさん!」
自分の横に来た少女を横目に
「わかるだろ、あの人は目の前の戦場のど真ん中だ」
トレインは冷静に答えた。
「あんなところに…私行きます!」
勢いに任せて踏み出そうとする少女の頭上から手を下ろし、地面にたたき伏せる。
「落ち着きなさい、シンラーツ。とりあえずステイだ」
と、言葉とは違い、荒っぽく行動するトレインを
「容赦なわね~。もう少し優しくしたらトレイン。一応女の子よ」
と言いながら助けることもしないミツーグレディー。
「それで止まるなら苦労はしません。アクラーツ様からも言われてるんですよ。
とりあえず言葉で制すより、力技で止めてから話をしてね、と」
その言葉に
「ホント、考えるより体が先に動くのよね~。止めるのは力ずくしかないかな~」
仕方ないかと思い、やれやれと感じるミツーグレディー。
顔を地面に押さえつけられたシンラーツは、何とか振りほどこうとするが動けないでいた。
いくら彼女が強いと言っても常識の範疇で見た場合だ。
まだ彼女は組織の中では、新人もいいところだ。
中堅の位置にいるトレインには力でかなうわけもない。
「落ち着いている場合ですか!彼…ワルモーン君がピンチなんですよ!!」
シンラーツは、もがくように立ち上がろうとするが、動けもしない。
「だから落ち着きなさい、シンラーツ。あの人がピンチなわけないでしょうが。
今までだって一桁くらいしか力を使ってないのに…
それであのくらいしか追い詰めれないなら、すでに相手にもならないでしょう。
アナタだってそのくらいわかるでしょうが…とりあえず冷静になりなさい」
「で、でもいかないと…」
「言ってどうするんですか、私程度の力すら振り切れない新兵のお前が。
役に立つとでも…足を引っ張るだけだと理解しなさい」
トレインの言葉がシンラーツに突き刺さる。
「そうよ~シンラーツ。ほっておいてもすぐにケリはつくわ~。
大幹部は伊達じゃないのよ」
ミツーグレディーが追い打ちをかける。
「それにもう始まります。冷静にあれを見なさい」
諦めたシンラーツは、押さえつけられたまま戦場に視線を向ける。
膠着していた戦局が動こうとしていた。
ワルモーンはいらだち始めていた。
前には魔族、後ろにはブルー。
前にいる魔族は、魔法やら体術やらを正面から放ってくる。
これはいいのだが、ブルーがワルモーンのスキやら嫌がるとこを見事に狙い撃ちしてくる。
これが一番いらだつ所だ。
魔物どもは、魔族とワルモーンの戦いに巻き込まれ、潰されていく。
更にブルーのちょっかいに巻き込まれるため、進軍する魔物が見事に肉塊に変えられていくのだ。
潰されていくのは、魔物だけじゃない。
神殿騎士団も無常にも巻き込まれていく
もう同情するくらいにかわいそうに。
「貴様、いい加減にオレの話を聞け!
貴様を悪の組織に迎えてやろうと言っているのだ。何が気に入らん!」
ワルモーンは魔族に言葉をかける。
勧誘としてもなかなか荒っぽい。
そして、彼はブレず語っていた。
「何をわけのわからんことを言う人間風情が。この力こそ正義である魔族に力で劣る人間が従える…悪い冗談だぞ人間!」
「ええいっ、種族が違う程度で見下すなど視野の狭い奴だ。
悪に導いてやろうとしているのに何たる器の小ささだ」
呆れ気味言うワルモーンに
「それに本来正しいのは我らだ。
貴様ら正しい方向に導いてやると言っている我らに牙をむくなど愚行にも等しい。
短命で矮小な家畜たる貴様らを導いていやると言っている。
貴様ら言い分で言えば、正義は我らにあるのだ。
こざかしい人間風情が!」
魔族はいらだちながら攻撃を繰り返す。
ワルモーンは猛攻を時にはかわし、時にはいなし、
話を続けたが、先ほどの魔族の言葉に反応しなくなる。
後ろからブルーが執拗に攻撃してくるため反論できないと思われていた。
「そうか、貴様も正義を語るか…」
そう小さくつぶやくワルモーン。
「シルバー!貴様もそこの魔族とともに討伐されろ!オレの正義の
名の元にな~!!!!」
ブルーが吠える。
「うるさいわ~~~~!!!!!正義正義と喚きやがって!!
オレは、【悪】だ【悪の大幹部】だぁぁぁ!!」
そういうと、ワルモーンから黒いオーラ辺りに広がりあらゆるものを吹き飛ばす。
騎士団の人間たちは地面にたたきつけられるもの、壁にめり込むもの、魔物も同じだった。そのオーラに耐えたのは、断罪戦隊のブルーこと青の勇者と魔族のみだ。
黒いオーラが収まると今度は赤黒い光がワルモーンの前に広がる。
彼の前の空間にヒビが入る。そこから漏れ出す禍々しい光だ。
「オレの怒りに呼応しろ~!心毒兵装【瞋恚】(しんに)!」
ワルモーンが吠える。
その声に呼応するように空間のヒビが広がり、溢れ出す赤黒い光も増す。
その光を見たものは、気圧され、
その光を浴びたものは無意識化に恐怖をねじ込まれる。
見るだけでその者に自覚できない恐怖を湧き出させる。
全てをねじ伏せる赤黒い光。
ワルモーンは空間のヒビをこぶしでたたき割り中から一振りの日本刀を抜き出す。
その日本刀は、鞘に入っているにもかかわらず周囲の生き物に恐怖を植え付ける。
心毒兵装【瞋恚】(しんに)
西洋の宗教に七つの大罪があるように、東洋の宗教に三毒がある。
その三毒の一つを名に持つ武器である。
神話の魔刀。
その刀を持ち、ワルモーンは叫ぶ。
「正義を語るものども、貴様らを駆逐してやる!」
信念をその瞳に持つワルモーンの声がとどろく。
そのまま日本刀を抜き、振り下ろす。
赤黒い刀閃が魔族に向けて放たれる。
赤黒い刀閃は地面を切り裂きながら魔族を飲み込む。
周囲のいた魔物は全て消し飛び、逃げ遅れた騎士団も後を追う。
更に後方にあった山を削り、それでも勢いは収まらない。
赤黒い刀閃が消えるころには、あったはずの山は谷底に変わり地形が変わる。
土煙が収まると、もはやボロキレのような姿の魔族が両膝をついていた。
体のあちこちから血を流し、もはや息も絶え絶えである。
そのまま体を前に倒し、両手をつく。
かろうじて攻撃に耐え、意識も保っていたが、次は耐えれない。
そう魔族本人は思っていた。
そして、顔を上げ攻撃してきた相手を見る。
だが、視線の先には誰もいない。
地面に先ほどの攻撃の後である地面の裂け目があるだけである。
「みっともなく悪あがきをして逆転する。正義の十八番か」
と、言う声が聞こえる。
魔族は、動きを止める。
圧倒的な死の圧力と恐怖が、後ろにいるのがわかる。
抵抗すらできないと無意識化に刷り込まれているようだ。
自分ではどうしようもない相手であり、抵抗すらも児戯に等しい事もだ。
ワルモーンは、日本刀を左手に持つ鞘に納刀して
魔族の後ろの首元を右手でつかむとそのままボウリングの玉のように前に投げる。
「ぐ、がが、がががが…」
地面の裂け目に頭を突っ込んだまま滑るように飛ばされる魔族。
その先には、先ほどまでワルモーンの後ろから攻撃していたブルーが片膝をついて
手に持つ戦隊ガジェットの弓バージョンを杖代わりに使い俯いていた。
黒いオーラを耐えたのはいいが、
そのせいでガジェットの弓バージョンの上部は破損し、
本体ももはや使い物にならない。
ブルー自身も肩で息をしていた。
そのブルーに投げられた魔族がぶち当たる。
ブルーはボウリングのピンのように吹き飛ばされ、
その衝撃でガジェットと着ていた鎧が粉々になる。
壊れた鎧の中から戦隊スーツが現る。
やってしまいました。
ワルモーン君、現段階での最大出力です。
ですが、只今弱体化50%で、その上での出せる出力の上限が50%。
実質、本来に力の四分の一です。
これより強い、厳ついオッサンことゴクアーク。もうバケモンですな。
ハハハハハ。




