74 若者は来訪者にあう
シンラーツとセメットは、死の森に入る。
森の中は、多くの魔物が徘徊していると噂されるほどではなかった。
確かに他の森や山に比べれば、魔物とのエンカウントは多い。
だがそれだけだ、それ以外は多めだというくらいである。
この森が、【死の】を関する意味は、スライムにある。
ゲームやライトノベルなどで下位のザコ扱いされることが多いが、実際は異なる。
物理攻撃がほぼ無効、全てを溶かす。
種類によっては毒を酸をまき散らす。
このことによる森は、住まう生き物に平等の死をまき散らす場所になった。
その森でそのし死をまき散らす元凶と戦うというぶっ飛んだ特訓をさせる。
そのうかつな無理難題にシンラーツは怒ったのだ。
こんな危険な場所で特訓?バカでしょ?と思ったのだ。
だからこそ、慌ててこの森までやってきたのだ。
彼女たちは、彼・・・今回の特訓を企画した張本人ワルモーンから受け取った地図を元に
ルトランがいる野営地に向かっていた。
遭遇する魔物は、スライムだけではないのだが、それでもあからさまにスライムの遭遇率が高い。
強敵であるスライムであってもシンラーツとセメットの敵ではなかった。
シンラーツの攻撃でスライムは、跡形もなく吹き飛ばされ、セメットは魔法で攻撃したからだ。
そのまま森の奥にルトランがいる野営地を目指す。
地図の場所が近づくにつれ、ぼんやりとした光の幕が広がる場所を見つける。
その場所に着くとそこの中にルトランが大の字になって寝ていた。
その姿を見た二人は、その場に座り込み大きく息を吐く。
安心したことにより張り詰めた気が、一気に緩んだのだ。
なんせ心配していた相手が、警戒心皆無で呑気に寝ているのだから。
しかも結界らしきものの中で安全に快適に寝ている。
その姿に心配で慌てて来たことが突然馬鹿らしくなった。
一息ついて、セメットが声を張り上げる。
「ルトラン!!何呑気に寝てんのよ!!」
その声に驚き、ルトランは「ハイッ!」と寝ぼけながらも返事して飛び起きる。
そして、首を慌てて振り周囲を見回して、へたり込んでいる二人を確認する。
「何座り込んでんの、二人とも」
と、とぼけた回答をしてきた。
その答えに心配していた二人は、アホらしくなりうなだれた。
「キミがどれほどの無茶ぶりに巻き込まれたか心配して来てみれば呑気に寝てるんだもの。
呆れもするわよ」
セメットは緊張から解放され過ぎたのか、油断をしてしまった。
彼女の背後から襲い来る魔物、スライムに気づいてもいなかったのだ。
そのことに対応したのは他ならぬルトランであった。
彼は転がる剣を無造作につかみ、セメットの背後に走り剣を振り下ろす。
彼女に襲い掛かろうとしていたスライムを切り伏せた。
そのことに驚くセメットと魔物の接近に気づかなかったシンラーツは愕然とする。
本来、引率役である自分が大事なところで何もできなかったことに。
これでは何しに来たのかわからない。と自分のことを嘆いた。
ルトランは、呑気な言葉に今まで眠気を纏う瞳に鋭い何かを纏い
「呑気なのは、どっちだ。オレには時間がない、その無駄にしてきた時間に意味をくれた人がいる」
といい、一呼吸入れる。
そのタイミングでセメットは、息をのむ。
ルトランの顔つきが今までと違うものになっていた。
少年から男性の顔になっていた。
そのことに一瞬ひるむが
「何突然変なこと言いだすのよ、君が一番の無鉄砲だったじゃない。それを今や達観して自分は違いますなんて言い方が通ると思うの?今までの無鉄砲のツケが消えるとでも思うの?
何?砂糖漬け並みに甘い考えしてるの?」
と詰め寄る。
これにより立場は逆転、先ほどまでのニヒルさはどこかに消し飛ばされ、
元の少年が顔を見せる。
「いや、オレだって頑張ったし覚悟したんだよ。だからこそ、この修行なんだよ。
無理をするときは今なんだってことだよ、安全も大事だとは理解しているよ。
でも、踏み出す時は必要だろ、なっな!」
と慌てだす。
「何が無理する時よ!キチンとワルモーンさんの手の上にいるくせに。
偉そうに語ってんじゃない!そこの所キチンとしましょうか、え~!!」
と何気に迫力を増したセメットに詰め寄られる。
その姿を呆れながらも柔らかく見守るシンラーツがいた。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、なぜか修行モードに入り作者が戸惑うコメディーである。




