7 悪者、村の問題事に巻き込まれる
悪の組織の二人は、村長宅に招かれた。
もちろん、バー・ヌーシも同伴である。
部下である馬車の乗り手ジョー・ツキは、只今休暇中に入っていたのでいない。
出された食事は簡素なものだが、歓迎はしてくれている様なのだ。
村長とバー・ヌーシとシンラーツの会話はとりとめない事を話す。
その会話にワルモーンは混ざらない。
ワルモーン自身はこういう場が苦手なのだ。
なのでこういう場は、シンラーツに任せていた。
実際、彼が無骨な武人というのは、村についた時のシンラーツとの駆け引きで村には広まっていた。
なので問題はない。
無いのだが、得てして問題は、向こうからやってくる。
それも、解決出来る人に舞い降りる。
迷惑極まりないことに、それは確実にである。
そして、問題は唐突に始まる。
「さて、村長先ほど言われていたゴブリンですが、被害は大きいのですか?」
バー・ヌーシが話題を変えて来た。
「そうですな、先ほどお連れの方が退治してくださったハーケンボア(イノシシもどき)が畑を荒らして、ゴブリンどもが村に襲い掛かってきています」
「それは、難儀ですな。畑の問題は偶然とはいえ何とかなったとして、ゴブリンどもは問題ですな」
「そうなのです、奴らは最初は一匹二匹で行動していたのですが、今回は結構な集団で来られてこちらにも被害が出ています。
今夜も、村人交代で寝ずの番です」
と言うと村長は俯く。
よく見れば、顔はやつれ気味で疲れが見え隠れする。
相当苦労されているようだ。
「面倒なのですかゴブリンは・・・」
シンラーツが訊ねると、
「そうですな、ゴブリンどもは、殺戮を好む魔物です。ハーケンボア(イノシシもどき)のような獣ではなく、体に魔石を持つ人型の生き物です。奴らは人や生き物の悲鳴を楽しみます、たちが悪いのです。地方によりますが小鬼と呼ぶところもあります」
「でも撃退は出来るんでしょう?」
「できるのですが、数が多いのです。しかも狡猾に動きますので手ごわいです。襲ってくる奴らを全滅させても無駄でしょう、近くに巣穴でも作られているかもしれないので襲撃は続くのです。面倒な相手です」
「そうなのです。裏にある薬草の森に巣食ってしまったようで、冒険者の方も何人か殺されています。どうやら大きい巣穴らしく退治が困難になっているみたいで・・・更に厄介なのは増えている様なのです。もうどうしていいか・・・」
村長の顔が苦々しくゆがむ。
「でも、何とかなるよね。ワルモーン君、キミなら」
とシンラーツはあっけらかんと答えた。
通夜のような空気が一変するような一言である。
その言葉に村長とバー・ヌーシの視線がワルモーンに注がれる。
顔には、藁をもつかむ思いがにじみ出ていた。
「さあな、ゴブリンがどんなものか見てみんとわからん。どのくらいの弱さかわからんとこちらも困る。それに本部の指示も仰ぎたい、利用できるならオレも動くがな」
としれっと答えた。
「そっか。じゃあ、聞いてみる?」
シンラーツが聞いてきたのだ。
村長とバー・ヌーシは、混乱する。
本部?聞いてみる?いきなり何を言い出すのだろうと。
「そうだな、確認してくれ。それ次第でオレが確実に潰してやる」
と頼もしい言葉を言い放つ。
「できるのですか」
村長の瞳に希望の光が灯る。
どうしようもない状況でのそれを何とかできるかもしれない。
この言葉が、いかに頼もしく映った。
「じゃあ、ちょっと待っててね。聞いてみるね」
とシンラーツが言うと左手に四角い板を持ち、何やら小刻みに指を動かす。
悪の組織は、異世界に来た時にまず衛星を打ち上げていた。
極小の通信衛星だ。通信手段の確保のためである。
なので、彼女は本部と通信が可能となる。
ただ、この世界では理解できないモノなのだ。
何をしているのかわからずにいた。
だが、彼女の答え一つで村の未来が変わることは確かなので静かに見守っていた。
ワルモーンは相変わらずマイペースで食事を続けていた。
「うん、本部からOK出たよ。生け捕りにして送ってくれって。改造して使い捨て怪人にするからって言ってきたよ」
と、よくわからない言葉もあるが、いい返事のようだ。
「了解だ、村長」
「はい」
突然声をかけられ声が裏返る。
「ゴブリンは、今日も来るのか?」
「はい、奴らは必ず来ます。狩りを倒しむために必ず」
「なら、来る奴はオレが対処しよう。それから巣穴の位置も教えてくれるか?」
「正確な場所はわかりませんが、方角ならわかります。ですが今日来るゴブリンは最低でも30匹は来ますよ。いくらあなたが強いと言っても一人では・・・」
「問題ない。その程度の相手ならオレ一人で十分だ。信用できないなら、一緒にくるか?」
と頼もしい限りの言葉に村長が涙ぐむ。
「できるのですか、そんなことが・・・」
「そうでしたね。この御人は、あの大きなハーケンボア(イノシシもどき)を簡単に倒された方です。まるで羽虫を払うように、信用にたる方々です」
バー・ヌーシは嬉しそうに語る。
こうして、村の問題事に首を突っ込むことになったのだ。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。