72 悪者は責められる
「で、何でそんな無茶なことするの!相手はまだ一般人に毛が生えてた程度の人間なのよ!」
珍しく声を荒げるシンラーツ。
そして、それを慌てた様子で見るセメット。
「いいか、アイツは真剣な目で強くなりたいと言った。ならばその覚悟に答えるのが【悪】としての流儀だ、お前にとやかく言われる筋合いはない」
と机に座り飲み物を飲むワルモーン。
「それでもよ!死の森ってこの辺じゃ危険地帯だって話じゃない。そんな所に一人で修業何て異常すぎる!」
「いいか、強くなるためには覚悟と代償がいる。これはアイツにとっては必要な通過儀礼だ」
「いきなりすぎるわよ、なんでも勢いとスパルタだけで済ませれるわけじゃないの!」
「ならば場所くらいは教えてやる、お前が差し入れに行ってこい。一日に一回、武器と食料を持っていく事にしている、ほれ」
と地図を机の上に置き、席を立ち歩き出すワルモーンの手を掴むシンラーツ。
その目は真剣そのものだ。
「そういう話じゃないの、異常ななり方が問題なの。それに話は終わってない!」
「離せよ、アイツの覚悟を聞いてから話の続きを聞いてやる」
底冷えのする低い声と息苦しいほどの威圧、冷たい目がシンラーツに突き刺さる。
それにシンラーツは言葉を失い、気圧され掴んだ手を離す。
そのままワルモーンはその場を後にした。
彼がいなくなってからその場にへたり込み肩で息をして、汗が噴き出すシンラーツ。
その彼女を慌ててセメットが介抱する。
「大丈夫ですか、とにかく落ち着きましょう先生」
「ご、ごめんね、セメット。こんなことになって」
「いえ、でもワルモーンさん。コワかったですね」
「そうよね。つい、いつもの癖で彼の事忘れてた。アレでも悪の大幹部だったってこと・・・」
「でも、ルトランは単純な奴なんでワルモーンさんがその熱意に負けた可能性もありますよ」
「それでもよ、いきなり無理させるのは違うと思う」
「確認しに行きましょう。場所も教えてもらったわけですし・・・」
「そうね、まずは彼の安否確認しないといけないわね」
そういうと深呼吸して立ち上がり、机の上にある地図を掴む。
その地図は、細かく場所の位置と方向、そして森に生息している魔物の情報まで記入してあった。
「すごいですね、これ。まるで私たちが向かうことが前提のような地図ですね」
と覗き込んだセメットが驚きの声をあげる。
「そうね、心配してるのはセメットの方だものね」
「何言ってんですか先生。ワルモーンさんにかみついていた時の先生の方がルトランの事心配していたじゃないですか」
と慌ててセメットが弁明する。
「そうかもね、ワルモーン君が彼にどんな無茶ぶりしてるかわからなかったもの。
ワルモーン君の特訓は過酷そのもの。悪の組織の訓練に慣れている者でも値を上げてしまうほどに。
だから慌てたの、彼の身に何かあるかもしれないから。とにかく行きましょう、手遅れになる前に」
「無茶ぶりが前提になっているんですね」
困った顔で笑う。
「そうだよ、他の事はともかく特訓なんかは手加減しないもの。特に認めた相手には容赦ないの」
「と言うことは、ルトランは認めてもらったってことですよね」
「あ、そうなるかな。手加減が無くなるから認めてもらった方には迷惑なんだけどね」
困り顔で答えるシンラーツに
「そうでしょうか、あのバカは少なくても嬉しいと思いますよ。ワルモーンさんみたいなタイプは簡単には相手を認めてくれないでしょう。そういう人に認められたことが自信になるみたいです」
「その感覚はわからないな、人によっては迷惑なだけなんだろうけど・・・」
「ですがワルモーンさんは過剰に期待しないでしょう。出来ることとできない事の線引きが割とシビアに決めているみたいですから」
「確かにそうだね、相手の状況や状態を見て判断してるかな。今はできないだろうと思うと簡単にしてくれるし、踏み出せる実力があれば難しくして来る。割と組織内では有名な話だね」
「それならルトランは出来ると判断されたわけですね」
その言葉にシンラーツは、ハッとする。
その通りなのだ、彼はワルモーンはその辺りの線引きが見事なのだ。
任せることが出来ることは任せて、無理している時は任せない。
キチンと周囲を見ているのだが、その割に周囲を頼るのが下手な人間である。
その上、言い訳もあまりしないので誤解されやすい。
彼女がそれを一番に知っているのだ。
なのに感情に任せてひどいことを言ってしまったと後悔した。
落ち込むシンラーツを見て
「先生でも落ち込むことあるんですね。先生はもっとなんでも簡単にこなす人だと思ってました」
「私だって弱い人間だよ、失敗だってするし、組織では下っ端もいいところだし・・・」
その姿を見てセメットはクスリと笑う。
「安心しました。先生も年相応の反応があって、まあ私達が見てないだけなのかもしれないですけどね」
「もういいから、行くよ」
照れたシンラーツに促され、地図に示された場所に向かう彼女たち。
戻ってから謝らないといかないかな、と思うシンラーツであった。




