64 教団との戦い2
黄色の勇者後日編です。前回でも記述しましたが
改めて注意点が一つ。ココよりの残虐なシーンを多用しております。
話しの流れ上必要な事なのでご了承願います。
ワルモーンは騎士団の先頭にいる騎士の前で歩みを止める。
その顔は、達観していた。負けるとも勝つとも思っていない。
ただ目の前の状況を冷静に確認しているだけのように感じる。
それに対して前に立つ騎士は、卑しい笑顔を浮かべる。
「お前もかわいそうにな、完全な生贄じゃないか。
でも恨むなよ、これも運命だ。
お前が踏みにじられる配役を神より与えられただけだよ」
その言葉には、相手に対する憐れみはあるが、自分たちが目の前の若者を踏みにじること楽しみにしている様にも見える。
「そうか、そう思うのか。相手を踏みにじるなら踏みにじられることも覚悟しているのだろう?」
「そんなことは絶対にないがな、ハーッハハハハハハハハッ!!!!!」
これから自分たちが行う弱いものいじめが楽しみで仕方がない様子の騎士に
憐れみを感じたワルモーン。小さく嘆息する。
「邪魔だ、世間知らず」
と、言うと腕を振り上げ、目の前にいる騎士を纏う鎧事、振り下ろした腕で地面に叩き伏せる。
騎士は、鎧がひしゃげ地面にはへこみができ、肉塊と血だまりになる。
その様子に他の騎士たちが、呆然となる。
その中でもいち早く事態を理解した者たちからざわめきが起きる。
二人を二百人近い人間でねじ伏せる簡単な仕事のはずだ、と考えて居た。
だが目の前にいる若者は、金属の鎧を着た騎士を無造作に叩き伏せ、纏っていた金属の鎧も変形し、当人も人の形を保っていない。
突然のことに騎士たちに衝撃が走る。
しばらくして、同僚が殺されたことに気づくと
騎士団のあちこちから憤慨する声が上がり始める。
その声に「うるさい」と言うとそばでワルモーンに食って掛かる騎士を順番に先ほど血だまりに沈んだ騎士と同じようにワルモーンは叩き伏せ始める。
一人二人を轟音とともに文句を言っていた騎士が叩き伏せられると残った騎士たちは慌てて腰の剣を抜き始める。
何が起きている?起きていることに気づかずに慌てて戦闘準備に入る。
魔術団の人間も行動を始めるが、味方の騎士が目標となる人間の傍にいる為、魔法が使えずにいた。
そのため、さらに混乱が騎士団を覆う。
そんな中ワルモーンは淡々とまるで害虫を潰すように近くにいる騎士たちを潰して歩き出す。
剣で切りかかる者は、剣ごと右へ左へと吹き飛ばす。
吹き飛ばされた騎士は、隣の騎士を巻き込んで吹き飛ぶ。
なまじ相手が一人である為、仲間の陰に隠れ攻撃が見つけにくい。
人数が多いため、味方が邪魔で攻撃がかぶりお互いの行動を邪魔することになる。
そして、相手の攻撃に巻き込まれ戦闘不能になる者が続出する。
もはや、ワルモーンが無双する状況となる。
騎士たちはボウリングのピンのように吹き飛ばされ、巻き込まれていく。
剣を振り上げては近くの騎士と剣がぶつかり斬りかかれず、動きが止まった瞬間にワルモーンに吹き飛ばされ、絶命するを繰り返す。
なまじ油断があり、負けるはずがないという油断もあるため、混乱は広がる。
そんな状況など我関せずとワルモーンは、騎士を一人二人と葬っていく。
最初の思惑と違い、騎士たちは慌てる。
目の前にいる哀れな若者を獲物として狩りたてる立場だと思っていたのに始まれば立場は逆転していることに。
それは、その状況を見ていた司祭長もである。
次々と踏みにじられる騎士団、それを淡々と踏みにじる若者。
何が起きているのか、すらも理解が追い付かないでいた。
そんな中いい加減に面倒になってきたワルモーンは、剣を持つ。
突然現れた大剣に慌てる騎士たちを尻目に剣を無造作に振りかざす。
それだけで騎士たちが構えた剣ごと次々となます切りにされていく。
刻まれた騎士が地面に転がり、その血が地面を染め広げる。
先程までの惨劇が、更にむごたらしい状況に変わる。
その状況に先ほどまで優位にいたはずの騎士団内に恐怖が満ちる。
元々勝ちしかないと思っていたのだ、それがいきなり命の危機が迫る状況になり、仲間が次々と血の海に沈む。更に惨劇は止まらず、震える手で剣を構えるがその剣ごと自身も刻まれることとなる。
悲鳴と無機質なものが地面に落ちる音、そして剣を振ることで起きる風切り音が戦場に響き渡る。
先ほどまで目の前の若造をどういたぶろうか、自分たちのおもちゃとして心も体も壊れるまで叩き伏せようか、と絶対の安全の中にいた者たちはそう考えて居た。
だがその考えは、すでに一転している。
助けを求める声、自棄になり自身を鼓舞する声、現状を嘆く声、自身の立場を逆手に相手を威嚇する声。
その中でぼとぼとと何かが地面に落ちる音、水が噴き出す音、風がうなりを上げる音、金属がこすれ合う音。
そんな声と音が、正義を振りかざす騎士たちにじり寄ってくる。
彼らに降りかかる恐怖となり、死を告げる足音となり近づく。
無自覚だった彼らは、初めて気が付く。
いたぶることが、正義ではなく娯楽であったことを、
それに酔いしれ自らの選択を誤ったことに。
不幸にもそれは手遅れになって気が付くのだ。
剣より滴る血が、纏う鎧にこびりつく血を無関心なまま自然な足取りで進む若者が、
振りまき、運ぶ死が自分たちに迫ることで気づくのだ。
それは、理解した時にわかる。
自身が今までしてきたことに忘れていたことに。
戦場は崩壊した。
ワルモーンによって教会側の人間がすでに三分の二ほど惨殺され、攻撃も効かなまま無効化されること。
オレたちは、私たちは強い、無敵だという安全神話に胡坐をかいていたことを理解した瞬間に。
蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのだ。
それも泣き叫びながら、そこには大義名分もプライドも何もない。
ただ迫る恐怖から逃げたいと思う人が大勢いるだけだ。
その様子を高台から見ていた司祭長は、啞然していた。
ほんの数分前まで自分たちの勝利を疑ってもいなかったからだ。
数の差ももちろんだが、相手が若者であることも要因に含まれていた。
経験も実力もない若者が二名、数百人に立ちふさがる、どう見ても無謀でしかない。
だが、ふたを開ければその考えが誤りと気づく。
見下していた相手が、化け物で自分たちが有象無象であることに。
相手にもなっていない事に。
それ以上に自身の保身に考えが向かう。
そのこと自体が最悪手であることにも気づくことはない。
〇コメディー要素に戻りたいが、戻せなくて困っているコメディーである。
 




