54 悪者、片づけをする
ボー村に着くとあっけにとられる状況になっていた。
いや、村に近づく時点で見えてはいた。
その時にはすでに冒険者二人とバー・ヌーシ、ジョー・ツキの四名は唖然としながら村に向かっていた。
十メートルほどの高さがある小高い山があったからだ。
村を出る前にはなかったものだ。
勿論ソレが何だかは聞いていた。
ワルモーンとシンラーツの上司であり、悪の組織の親玉が簡単に倒した災害クラスの魔物グラク・アケオスと呼ばれる巨大なリクガメである。
その甲羅は固く、ミスリル、オリハルコンと言われる希少金属であっても簡単には切れないモノだ。
皮膚も同様に硬い、のだがその親玉は一撃で屠ったのだ。
もう冒険者二人とバー・ヌーシ、ジョー・ツキの四名は、自分たちの常識が崩れ去るの音を聞いていた。
まあ、その中でもバー・ヌーシはすぐに立ち直り、その死骸を好奇心片手に値踏みする余裕があった。
村の入り口にはシュトとヘフェヌ、それにボー村の村長が待っていいてくれた。
「ワルモーン様、ご足労願い申し訳ございません」
と開口一番シュトが頭をさげる。
「気にするなよ、シュト。我らは同じ【悪】を背負う同志だ、助けを乞われれば必ず駆けつけるものだ」
とワルモーンは答えた。
その言葉を聞いてシンラーツは苦笑する。
それ、ヒーローの言葉だよワルモーン君。
悪の大幹部が言うセリフじゃないよね。
と思ったが声には出せない。
なんせワルモーン本人は、それが悪の矜持だと思っているからだ。
「助かります、物はそこにあるカメです。解体していただければ後はこちらで資材として活用いたしますので」
「分かった、カンタンな問題から片付けよう。コレの近くは立ち入り禁止にしてくれ。
今から捌く、こういうことは早い方がいいだろ」
とワルモーンは真顔で言う。
「ですが、それはあまりにも申し訳ありません。ここまでの道のりでお疲れだというのに・・・」
と言うシュトに
「シュトの言葉はありがたく受け取っておく。このくらい問題にもならん。離れておいてくれ」
と言うと右手に黒くワルモーンの背丈より大きな包丁が現れる。
そして、ソレを無造作にふるうう。
すると小高い山無造作崩れ落ちる。幸い血が出ない、どうやら最初の段階で血抜きされていたようだ。
誰一人傷を入れることもかなわなかったモノが、ものの数秒で解体された。
その状況に驚く現地人たち。
悪の組織の者たちは、感心して賛辞をワルモーンに送る。
何だろうねこの状況とシンラーツは第三者から状況を見ていた。
そしてワルモーンは手にしていた包丁を消すと
「後は頼む、それからもう一つも問題・・・と言うか厄介事はどこにいる?」
と尋ねる。
「あ、はい、では私がご案内します」
と、ヘフェヌが案内を買って出る。
「ではたのむ」
言葉少なめに言うとシンラーツとともに案内される。
残りの方々は、瓦礫と化したカメの撤去である。
バー・ヌーシは品定めも兼ねて素材の振り分けを
後の残りは片付けの手伝いである。
シアンウルフの蒼月は我関せずとシンラーツの後を追う。
彼らが向かう先に待っていたのは、ワルモーンと同じくらいの背丈でがっしりとした体格でスキンヘッドの若い男性が疲れ果てた眼鏡をかけた女性とともに飲み物を飲んでいた。
「来たか、ワルモーン。自分をこれだけ待たせるとは偉くなったものだ」
ふんぞり返るスキンヘッド。
「なにいってんですか!押しかけたのはこっちですよ、アーバレル君。いくら暇だからって駄々こねればいいって思うことがおかしいんですよ。いい加減わかってください、私あなたの保護者じゃないんですよ」
ボヤくように眼鏡の女性はスキンヘッドに言う。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。




