52 メツハ村の村長の言い分
「さて、そうさね。アンタたちには世話になりっぱなしだね。申し訳ないくらいさ」
と村長は、くだけた話し方をする。
「そうでもない、こちらとしてもここで作られる薬をいただきたいし、今作っている集落での林業も必要だしな」
「そうさね、アンタ方に協力してもらえるならこの村も安泰だね」
「それは約束しよう。今いる我が組織の戦闘員たちがこの村の守護と発展を指揮してくれるはずだ」
「でもホントにいいのかね。こんなに世話になって」
と申し訳なさそうに村長が言うと
「改めて言うと我らは同志を見捨てるつもりはない」
ワルモーンが言うその言葉は、真っすぐで心地よいものだった。
「アンタはほんとに【悪】なのかい。とても思えないのだがね」
優しい顔でワルモーンを見る村長に
「何を言う。オレは【悪】だ、どおからどう見ても不気味で怪しい人間だろうが」
と何故か褒められているのに憤慨するワルモーン。
そのリアクションは、村長からすれば予想通りである。
【悪】に対して真摯に向き合い真っすぐ見据えるこの若者は、まあ言動はさておき信用に値すると村長は思った。
もちろんこの考えは、村の総意である。
村人たちは、感謝してもしきれない恩義を感じているのだ。
「そうさね、確かに【悪】だね。その姿は特に、でもさアンタは恩人でもある。まあそれ以上に非常識なのが【悪】そのものなのかもしれんね」
と付け加えると
「そうだ、常識などくそくらえだ。非常識こそオレの信念に基づくものだ。すばらしいだろ」
と何故か自慢げである。
「なんだろうか、ツッコミ入れといた方がいいのかね」
と力が抜けたように笑顔になる村長に
「ダメです。それは私の役目なので譲りません」
とシンラーツが、頬を膨らませ話に割り込む。
「とりゃせんけど、何ぞ用事があったんじゃないかね」
と改めて村長が言われ
シンラーツは、手のひらを握ったこぶしでポンッと叩くと
「そうだ、ワルモーン君。ブロックヘッドさんが呼んでたよ、今後の村の開発について相談したいんだって」
「ん?そうか。じゃ行ってくる」
と言うとワルモーンは新集落の集会所に向かう。
「えっと、確か木材集積所に来てくれって言ってたよ」
その言葉にワルモーンは、振り向かず軽く手を振る。
了解した、の簡単な答えだ。
「で、アンタたちは次はどこに行くんだい?」
「ホントはツカ村に行く予定だったんだけど、一度ボー村に戻ります。何かカメの解体を手伝ってほしいとか言ってたかな。それに大幹部がごねてるから何とかしてほしいともいわれたかな」
と顎に人差し指をつけてシンラーツは空を見る。
「なんだかね、アンタたちは騒ぎを起こさないと生きていけないのかね。【悪】の組織だったかね、あちこちで騒ぎを起こし倒しているような気がするね」
「否定はしませんよ、この辺りを旅してて騒ぎに首を突っ込むか起こしてるかのどちらかしかしてない様に思えますからね」
「自覚してるのかい、なら少しは抑えようとは思わんのかい」
「ムリですね、ワルモーン君は困っている人をほってはおけないお節介ですし、私もそれを止める気も無いです」
「なるほどね、それで騒ぎを解決して回るわけじゃな」
「そうなります、私が言うのもなんですが【悪】って自負する割に【悪】らしくないんですよね。ウチの組織」
「そのようだ、でも【悪】なんじゃろ」
「そうですよ、それは譲りませんよ」
と言うと二人はにこやかに笑い合う。
〇悪を自負する割に悪らしくない人たちが、騒ぎを治めながら旅するコメディーである。
コメディーらしくないかもしれないがコメディーである。




