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47 魔族の誤算


魔族は、焦っていた。

目の前にいる人間の放つ威圧感に。


だが彼のプライドが下等な人間に下ることを許さない。

彼は、右に黒い刃の左に赤いに刃の剣を持ち、ワルモーンを見据えながら歩みを進める。

せっかく忌々しい結界がなくなったのだ。

後は、わけのわからん事をほざく目の前の人外を潰せば済む。

人の枠を超えているのは理解できるが、所詮は下等な人族。

力の差は歴然だ。下等な人族が魔族にかなうわけがないのだ。


「かかってこないのか、魔族。それとも今更理解したのか力の差を、もう手遅れだがな」

ワルモーンはゆっくりと厚みを進める。

魔族は、言葉を失う。

と言うかしゃべることが出来ない状況になる。

まるで口に布を詰め込まれたように息苦しくなる。


でも魔族である彼のプライドが倒れることを逃げることを拒絶させる。

例え、どれほど危険な存在であっても、相手が下等な人間である限り。


さらに彼の判断は、魔族である自分が上位の所属である自分が下位の存在に負けるはずがないという意味の無い答えの元にあることも。


「ハハハ、貴様程度の下等な人間が我に意見するか。力の差を理解するのは貴様の方だ」

と言うと魔族は駆け出す。

間合いは一気に詰められ手にした二本の剣を振り下ろす。

カキンッと甲高い金属音が響く。

そこには、魔族の剣を受け止めるあまりにも巨大な、そして無骨な形状の出刃包丁があった。

大きさは三メートルほどあり、出刃包丁と言うよりも刀か柳包丁に近い。


だが、その飾り気のない無骨な形状が、異様な不気味さを醸し出している。


ワルモーンは軽くその出刃包丁を振る。

それにより魔族を吹き飛ばした。

吹き飛ばされた魔族は地面に受け身を取りながら転がり膝を突きワルモーンを見据える。

そこに映るワルモーンの姿は、不気味で異様なものだった。


黒い威圧を放つ鎧を身に纏い、巨大な出刃包丁を肩に置いて立つ人間がいた。

「元気だな、まあオマエの攻撃を受けてやってもよかったのだが・・・。それではオマエが図に乗るだけだしな、力を見せておくことにした」


「はん、口だけは立つ。それを遺言にするがいい!インフェルノ!」

と魔族は叫ぶ。


するとワルモーンの足元に赤く輝く二メートルほどの魔方陣が現れ、そこから渦を巻き竜巻のように巻き上がる炎が噴き出す。

それは赤い柱となりワルモーンをその身に飲み込む。


「ハハハッ、デカい口を叩く割にはあっけないな。炎に焼かれながら己のバカさ加減を呪うがいい」

立ち上がりながら魔族は愉悦に浸る。


彼の優位はすぐに終わる。

炎の柱は、一陣の風が吹き飛ばす。


消えた炎の中から無傷のワルモーンが現れたからだ。

ワルモーンが左手で軽く振り払うと炎がかき消されたのだ。

「なんだこれは、カイロか?それほど寒くはないのだがな」

とトンチンカンな事を言う。


「馬鹿な、全てを灰する地獄の炎だぞ、それをろうそくの火を消すみたいに簡単に」

驚嘆が魔族を襲う。

不意とは言え、必殺系の魔法だ、それを食らって無傷でしかも簡単にあしらって見せたのだ。

この人間は、完全な化け物だ。それは魔族と比較しても完全な魔王格と言っても差しさわりない。


たかが下等な人間が魔王格であると認めることが出来るほど彼は器量がでかいわけではない。


「自身と相手の力を認めることが出来ないのか、やはり見込み違いか。残念だ」

ワルモーンは嘆息する。

期待していた実力も器量もない。

ただ名目とうわべだけの中途半端な力を持つ者。

それは、ワルモーンが嫌う人種のひとつだ。


それを知ってか知らずか魔族は何度もワルモーンに斬りかかる。

その度に赤と黒の刃は、全て出刃包丁に防がれる。

魔族の持つ魔剣になんの効果があるかはわからない。

だが、それも力を発揮しない限り、ただの剣と変わらない。

ただ他の剣より切れ味がいいだけのものだ。


何度も防がれるたびに魔族の中に焦りが蓄積される。

彼は思う魔剣が当たりさえすれば、こちらが圧倒的に有利になる。

それが、当たらないために焦りが生まれる。


その焦りは苛立に変わる。

「貴様、卑怯だぞ。我の魔剣が貴様に当たりさえすれば我が勝つのに邪魔ばかりしやがって、下等な人間の分際で」

唸りながら支離滅裂の事を言い始める。

魔族は、いま自身の言葉がどれほど自分勝手なのか理解できていない。

苛立ちが大きすぎて正常な判断が出来ていないのだ。


〇これは悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。




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