46 悪者は魔族と交渉する
翌日、ワルモーンは村を歩く。
散歩である。
当初、村人たちは彼らの事を警戒していたのだが、前日の件に立ち会った人はほとんど気さくに声をかけてくれていた。
いきなりの大失敗をやらかしたワルモーンに親近感を感じたようで簡単な世間話をするほどまでになっていた。
くそ真面目の不器用君のワルモーンにとっては朝から困惑し倒しである。
その状態でもワルモーンは準備にいそしむのだ。
食料や物資の準備をして目的地である
魔族の封印された館に向かう。
メンバーはワルモーン、シンラーツ、魔法使いのセメット、剣士のルトランである。
今回は場所もそうだが相手が相手なのでバー・ヌーシは村で待機になる。
本人は、不屈のやじうま根性を発揮してついて行きたがっていたが
そこまで護衛できるわけではないので
渋々だが、村に残ることを了承した。
今回の相手は魔族である。
ついて行けば邪魔になり、足かせとなる。
それは、彼の思うところではない。
ワルモーンという御仁の英雄譚を・・・と言うと嫌がるので
悪名を見届けたいのはやまやまなのだが、
ついて行けば確実に足を引っ張ってしまうので仕方なくである。
それに彼は割と満足していた。昨日のトンネル開通工事で十分に笑わせてもらったからだ。
満足気である。
なので素直に今回は、諦めれたのだ。
こんなことを考えるバー・ヌーシも相当な厄介な人間である。
愉快な仲間たちは、二手に分かれることになる。
ワルモーンの思惑としては、凶暴化が再発した場合、村の人間だけでは
被害が出るかもしれないので、その避難場所としてトンネルをこさえたのだ。
正面だけを全力で防衛すれば何とか自分たちが、魔族との交渉なり処理なりの時間は耐えれるだろうと、思ったのだ。
悪い奴が考えることではないのだが、彼は【悪】と言い張るのだ。
彼自身は、【正義】を受け入れられない。
身勝手で、偏見に満ちた歪んだ【正義】の被害者の一人として、その理不尽に立ち向かう一人として
仲間を率いる者の一人として、である。
そして、準備が整い(冒険者二人の)村から森のはずれにある屋敷に向かうことになる。
目的地までは冒険者二人が露払いをすることになる。
これは彼らの訓練をかけている。
ワルモーンとシンラーツからすれば、大した相手ですらないのだが、
冒険者二人にとっては貴重な経験である。
苦戦するのもそれに対処するのも経験として次に役立つものだ。
なので余程、窮地になるまで手を貸さない事になっている。
それこそ簡単に手を貸せばすぐ済むのだが、それでは彼らのためにならない。
その為の行動なのだ。
その為冒険者二人は目的地に着くころには、ヘロヘロになっていた。
だが、本番はこれからである。
目的地にいる魔族と対峙することが目的なのだ。
彼らの目の前には、魔族を封印した屋敷がある。
その豪華な屋敷は、周辺に何もなくただその建物だけがあるだけだった。
その屋敷を囲むように塀が囲み、更にそれを赤紫の透明なドーム状に結界が包む。
屋敷の前に椅子とテーブルがあり、その椅子に気怠そうに座る人物が一人。
青黒い肌に黄色の瞳、纏う赤黒い光がその力の大きさを示すように辺りを威圧する。
その人物にセメットとルトランは、威圧され、手足が小刻みに震える。
ここまでの連戦による疲れもあり、気持ちが弱っていたのもあるのだろう。
恐怖が生まれる。
気持ちでは、大丈夫だと思えても体が如実に反応する。
アレは、危険だと。
寒気と汗が噴き出す。
第六感的なモノが全力で警報を鳴らしているのだ。
その二人にシンラーツは笑顔で言う。
「二人とも、この恐怖を覚えておきなよ。そして今から起きる目の前の現実から目をそらさず見ること。君たちがあこがれる人間がどれだけの高みにいるかを理解すること。これは君たちにとっての貴重な経験になるからね」
二人は、返事をしたいが声が出ない。
その代わりに力を込めてうなずく。
ワルモーンは、すでに結界の前に立ち、威圧をまき散らす当人を見ている。
その視線には、恐怖は無く、ただ好奇心が込められていた。
「さて、悪の者よ。どうだ、ここから出してやる。その代わりに我が組織に加われ、そうすれば更に高みに向かえることを約束してやろう」
そういうと右手を出す。
それを見た魔族は、
「ほう?大口をほざくな、人よ。貴様程度の下等な生き物が上位の存在である我に偉そうに言うな」
視線には、はっきりとした殺意を込めていた。
だが、その殺意も気にせずワルモーンは、言葉を紡ぐ。
「貴様は、見た目や種族、階級で相手を図るのか?器の小さいことだ。お前ら魔族は長命だと聞く。無駄に生きてきたようだ、だがこれからはその生き方を有意義にしてやる。我らが組織に入れ、魔族よ」
「ザコが、貴様には理解できんのか。我と貴様との力の差が。我より矮小な人ごときが、何様のつもりだ」
鼻を鳴らし、見下すように視線を飛ばす魔族。
「ふむ。どうやら貴様には力を見せないと理解できんようだな魔族よ。まあ、この程度の結界も壊せないヤツでは、やはり無理か。魔族としての器もしれているようだ。どれ、オレの力を見せてやろう」
ワルモーンがそういうと右手で結界に軽く触れる。
その触れたところから結界にひびが入り、それは全体に広がり砕け散る。
それは、飴細工が壊れるように簡単に。
それを見た魔族は、椅子から立ち上がり驚愕の表情を浮かべる。
声は、若い男性のようだったのだが、見せた顔は正にイケメンである。
「貴様、何をした!我でも壊すことがかなわない結界をどうやったのだ!解いたわけではないはずだ、壊した?バカな、我でさえ壊せない結界を下等な人が壊せるわけはない。そうか貴様以外に上位の存在がいるのだな、何処にいる!出てこい!」
辺りを見回しながら魔族は叫ぶ。
「ダメだな、貴様は。自身の弱さを認めることもできず、見た現実を認めることもできない。
所詮は、傲慢なバカでは理解できんようだ。言葉遊びもこれで終わりだ、貴様はここで処分する。
オレの名はワルモーン、【悪】の組織ギャクゾークの大幹部が一人、ワルモーンだ。貴様を処分する者だ」
そういうとワルモーンは、顔を兜で囲み普段は抑え込んでいる力をわずかに開放する。
それは、魔族が放つ威圧を紙屑のように吹き飛ばす。
その威圧に押される魔族。
彼は、手足に震えが手でいることに気づく。
そこで改めて彼は気づいたのだ。
この目の前にいる凶悪な力を示す人間を。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。




