42 悪者は深き森の奥の村に着く
メツハ村に到着した。
道中、野生の獣や魔物が大量に襲い掛かってきたが全てシンラーツの剣の錆びとなった。
バー・ヌーシ曰く、ここまで襲い掛かってくることはなかったとのこと。
凶暴化しているのは、封印された魔族の影響ではないか、と考えられるらしい。
因みにメツハ村の周りには魔石による結界と結界樹と呼ばれる魔物、獣よけが出来る樹木を植えているのと魔物忌避剤を置いてあると説明を受けていた。
だが、件の勇者たちが結界樹のひとつを切り倒したらしい。
そのせいで村に被害が出やすくなった。
勇者は、魔族を抑え込んだからいいじゃないか、と当人ではないので他人事を決め込んで話にならなかった。
襲い掛かるも魔物や獣を倒し、解体し、不要分は埋めるを繰り返す。
襲い掛かってくる回数が増えれば、比例して手間も増える。
その為、彼らの村到着は少し遅れたのだ。
倒した魔物や獣は、そのままほったらかしにすればいいのだが、そうすると森の中が不衛生になる。
最悪アンデット化したら、問題は更に雪だるま式に増えることになる。
なので解体などの処理の手間をハショるわけにはいかない。
必要な手間なのだ、面倒を惜しんで後で厄介なことになるくらいならキチンとこなすことにしたのだ。
どんな面倒でも必要ならばする。惜しまないようにする。
この方針はワルモーンの提案だ。
後始末する大変さが・・・後に起きる問題が大きくなることを懸念したのだ。
まずは、バー・ヌーシが村の村長と交渉を始める。
村側としては件の勇者たちに痛い目を見ているので、たとえ顔見知りが連れて来た人間であっても警戒していた。
長めの話し合いの末、ワルモーンたちは村に入ることを許された。
シンラーツを先頭に大量の魔石を持った女魔法使いのセメットと男剣士のルトラン、
毛皮を担ぐジョー・ツキ、そして、二階建ての家くらいの高さまで積み上げた荷物を肩に乗せ
悠々と歩く黒い鎧を着た若者が続く。
あまりの異常な姿に唖然とする村人たち。
山積みの荷物を平然と軽々運ぶ若者の姿は異常としか見えない。
又、彼はそれを気にした様子もなくどこに置けばいいかを確認していた。
荷物の量が量だけに村の広場に置くことになった。
流石にそのまま置くと崩れるのである程度分けておいて行く。
それも軽々と。
もう唖然とするしかない状況である。
その荷物が置き終わったくらいに村長らしき女性がワルモーンに声をかけて来た。
「なんだい、この量は。森の獣や魔物を全滅させてきたんかい」
とからかうように言ってきた。
「仕方ないだろう、襲い掛かってくる相手を倒しまくったんだ。それにそのままにしておくわけにもいかんだろう。森の中でこの量の生き物が腐れば大変なことになる。だから、解体して不要分は穴を掘り埋めて来たんだ。結構な手間がかかっているんだ、ホントは木をなぎ倒して進みたかったんだがバー・ヌーシの顔を立ててそれはやらずに来たんだ。このくらいはいいだろう」
「へえ、アンタ。バー・ヌーシの言い分を聞いてここまで来たんだ。それにちゃんと死骸を埋めて来たなんて感心だねえ。若い割にキチンと森に対する礼儀が出来てるじゃないか」
村長は、ワルモーンを値踏みするような視線で見ていた。
「礼儀かどうかはわからん。だが、せっかく獣を狩ったんだ。食えるならキチンと食いたいしもったいないだろ」
ワルモーンは相変わらず我関せずでいた。
「で、これはどうすんだい。ウチの村は物置じゃ無いよ」
「村長、この村に滞在する間の礼金だと思ってもらいたい」
バー・ヌーシは村長に言うと
「へえ、これだけのものをくれるのかい?太っ腹だね」
「もちろん、オレたちも食うぞ。だが量が多いから村で分けてくれ。
出来ればこの村で滞在する家か部屋を貸してほしい。
ついでに言えばこの肉類も調理してもらえると助かる」
ワルモーンは、注文を増やしていた。
「まあ、そのくらいはしようかね。
これだけの物をくれるんだ、そのくらいはしようかね。
で、アンタたちは何しにこんな森の奥まで来たんだい?」
「薬が欲しいんだよ、ウチの組織はケガが多いんでね。
その購入と組織との同盟を薦めに来た」
「薬の購入はいいとして・・・
組織との同盟?バー・ヌーシ、アンタなんか
怪しい所とかかわるようになったんかね。見ない間に落ちぶれたもんだね」
呆れ口調で村長は言うと
「そういわれますか。ですがね、彼らは毛色が違いますよ村長。
毒されている・・・といえばそうなりますが、
その辺りの教会や商会に比べればまともな方々ですよ」
「でも、怪しい組織の人たちなんだろうが。
その時点で変な宗教にハマってる奴らと同じだ。
大概そういう奴らのいう言葉、同じだ。
私達は間違っていない、正しいことをしている、と言いながら
大事にしないといけない己の命すら投げ捨てるようになる。
そんな奴らほど自分たちは、まともな考えで行動しているっていうよ」
「失礼だが、我々の組織は【悪】だ。その辺りに転がっている正義の味方ではない」
とワルモーンが胸を張り口をはさむ。
その言葉に
「はいっ?、正義じゃないのかね。胸張って【悪】っていうかね、普通」
と呆れ気味言い返す。
普通なら正義だ、正論だというのが一般的だ。
なのに怪しい組織の若者は、【悪】を自称する。
それも悪びれず、自信を持って答えて来た。
もうツッコミどころありすぎて、どこから話せばいいか分からなくなってきたのだ。
そんな状態で村長は、思考を巡らせる。
件の勇者とは、少し違うように感じる。
まあ、あのひねくれ者のバー・ヌーシが気に入るくらいだ、
変人なのだろうとは思っていた。
よりにもよって、【悪】を語るとは、予想の斜め上を行くどころではない。
蛇行しまくって、見失いかねない言い分である。
その見失いかけた話の筋を戻そうと村長は必死になっていた。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。




