42 悪者は深い森を進む
ボー村の事を村人たちとリノウナンバーズ、グレイ・ファクトリー、ノイ・ロゼの丸投げして
ワルモーンは、村を旅立つ。
目的地は、ボー村から西にある深い森の中にあるメツハ村。
森は、野生の獣と魔物があふれかえっている。
ワルモーンは、いつものメンバーを引き連れている。
村に向かうために深き森に入るのだが、森の中には道らしき道がない。
その為か、森の中を進むだけで野生の獣や魔物に絶えず襲われる。
その露払いは、女魔法使いのセメット、男剣士のルトランの仕事になる。
ワルモーンからすれば訓練のひとつとしている。
そんな訓練をされる方からすればたまったものではないが、彼について行く事を決めた時から
今回のようなことは指示されるだろうと思っていたようだ。
だがその二人もこの森に入ってから戦闘続きで疲労困憊である。
獣も魔物も強く、二人は苦戦しながらも戦い続けた。
現在、森の中ほどで休憩中である。
バー・ヌーシの従者であるジョー・ツキがフォローに入る。
「森の木を切り倒しながら進む方が早いのだが、ダメなのか」
やれやれという感じ話し出すワルモーン。
「ダメですね、もしそれをすればメツハ村全体を敵に回します。件の勇者のように」
バー・ヌーシは優しい口調で水筒に口をつけてから話し出した。
「ここの森はあちこちに貴重な薬草が生えています。
木が邪魔だと言って切り倒しまくれば、薬草も被害にあうためです。
木を切り倒す場合は、村の者に切っていい所を確認しながら行わないといけませんな」
「なるほどね、では件の勇者はそれをせずに切り倒したわけだ。いいね、悪みたいで」
ワルモーンは悪い顔を浮かべる。
「それをしては、困りますよ。それにこの森自体が生き物のようになっています。薬草などはなかなか戻りませんが木などは、すぐに生えそろいますよ。道を作ることはほぼ不可能ですな」
「因みに何をやらかしたんだ。その勇者は?」
「魔族の討伐ですな、といっても封じ込めたというのが正しいのかもしれませんが・・・」
「封じ込めた?倒したのではないのか?」
「相手が強すぎたらしく、森のはずれにある屋敷に結界を張り封じ込めたらしいのです。
まあ、封印が甘く魔物はあふれ出し、中の魔族もその封印を破りかけている様になっているようです」
「魔族か・・・」
とその言葉を聞いたワルモーンは思案する。
「何か良からぬことを考えてますかな?」
ワルモーンの顔色をうかがうようにバー・ヌーシが問いかける。
「いや何?魔族ということは悪なのだろう?うまく勧誘できないかと思っただけだ」
ワルモーンは、さも当然のように答えた。
それも当たり前だろうと思うように。
その答えを聞いたバー・ヌーシは頭を抱えるように項垂れる。
「魔族を仲間にですか・・・また、こちらの予想の斜め上にむかわれる方だ。
普通はそんなことを考える人は居りません。なんせ相手は種族的にも格上ですし、向こうもこちらを見下していますし、話し合いにすらなりませんな」
「まあ、大丈夫でしょう。どんな奴が喚いてもワルモーン君の相手になるとは思えないから」
とシンラーツが笑顔を浮かべてしれっ言ってきたのだ。
「その言い分は思い上がりと受け取られることが多いのですが、お二人が言うとそう思えないところが厄介ですな。今まで相手を完全に圧倒してきただけに」
とバー・ヌーシは苦笑する。
封印するしかない相手を圧倒的な力でねじ伏せて来たワルモーンがここにいる。
つまり、口だけではないのだ。
しかも、まだワルモーンは、実力の三割も出していない。
この事実が更に信憑性を帯びている。
「そうだな、村で話を聞いてからその魔族とやらをねじ伏せる。メツハ村の次の村で何やら不穏な動きがあるようだし、ここはサッサと片付けよう」
ワルモーンが微笑を浮かべる。
その言葉と姿にバー・ヌーシは言葉を失う。
なんせあながち冗談にも思えないからだ。
この非常識を絵にかいたような二人がここに居る。
しかもそれは彼らの部下に当てはめられる。
その証拠に彼らの部下たちは、僅か数日で
ボー村を別の村のように発展させてしまった。
異常である。
彼らはその異常を実現してしまうのだ。
この世界の住人の常識の外の考え方をして、行動する人間達。
その上、それを現実の物としている。
【悪】の組織は、この世界の常識を破壊する。
その意味で彼らは【悪】なのだろう。
秩序と常識の破壊者である彼らの言葉に思い上がりなどない。
冷静に緻密に答えてくる。
「そうですな、ここで議論しても状況は進みませんからな」
「シンラーツ、ここからはオマエが先頭を務めろ。そこの二人は歩くだけでいい。
ここまでよくやった、あとはこちらがやる。それでいいか?」
その言葉に二人は、言葉なくうなだれる。
疲れすぎて、言葉も出ないようだ。
「いいよ、その方が早く済みそうだし」
シンラーツが元気に答える。
「すみません、そうさせていただきます」
男剣士のルトランの肩を借りるようにして
立ち上がる女魔法使いのセメットが答えた。
二人ともフラフラである。
少し休憩したことで何とか動ける状態まで復帰したようだ。
「では、行こうか。展開が早まっているようだから、さっさと終わらせていこう」
とワルモーンは言う。
周囲の者たちもうなずき、行軍を再開させた。
〇コメディー要素が少なくなっているが一応コメディーであると言い張る。
 




