38 枢機卿の野望2
そこは、さざ波唄う港町。
喉かな場所に不釣り合いな威圧的な建物がある。
ひときわ大きく要塞のような建物には聖なる力と清らかなる心を語る教会がある。
その理念とはかけ離れた力を誇示する者たちが集まっていた。
建物につけられたエンブレムと同じものを鎧の肩やマントに刻み、立っていた。
その中でも静謐を好むはずの宗教の中で豪奢なマントをまといきらびやかな鎧をまとう者がいた。
その者は、鎧をまとう者たちの前に立ち演説をしている。
「さあ、諸君。これよりこの街にはびこる異教徒を断罪する。神は我らが慕う方のみ、それ以外の異教であり、邪教である。それ以外は神ではなく邪神であり、魔の者だ。容赦する必要はない。そして我らの成すことに異を唱える者も同じである。我らが正義であり善なのだ~!!」
と力強く声と手を振り上げる。
それに合わせて、他の者たちも時の声を上げる。
彼らが来てから一週間、正義と神の名のもとに容赦なく断罪をする。
守られる側からすれば頼もしい限りであり、断罪される側からすれば恐怖の対象でしかない。
そこは、さざ波唄う港町。
金属がこすれる音と人々の悲鳴が響く町。
彼らに意を唱えれば、体を壊され、心を壊され体から吹き出るものによって赤き色に染まる。
それは彼らにとっては敵であり、異なる者として扱われ苛烈にそして彼らの正義を満足するための贄でしかない。
彼らに異を唱える者たちだったものは、まるで汚物のように扱われ燃やされる。
そこには、神の名の元に正義を唄い、逆らう者、異を唱える者を全て異教徒と呼び、断罪する者たちが横行する神聖な町と化していた。
そんな神聖な町の教会の一室に倹約からほど遠い豪奢な衣装を身に纏い恰幅の良い男性が窓の外を満足げに眺めていた。
その部屋にフードを被った男性がやってきた。
その男性は、恰幅の良い男性が使っている机に書類の束を置き机から離れる。
何かを警戒しているのか扉からもわずかに距離を取っていた。
恰幅の良い男性は、彼が机から離れたのを確認すると机に戻り、彼が置いた書類に目を通す。
ある程度目を通し、椅子に腰かけ、大きく嘆息する。
彼は考えて居た。
現在の勇者のことだ。
ワガママにあちこちに不満をまき散らす存在。
その傲慢さゆえに村や町を救っていくのに
それ以上の要求をするために壊滅的な状況に追い込んでいく。
迷惑極まりない存在になっていく。
勇者は実力も確かなくせに人格が破壊的に下種だ。
今回召喚した勇者たちに討伐させることも考えて居たくらいだ。
だが、ある日を境にその問題児たちのうわさを聞かなくなった。
それと同時にあるうわさが立ち上る。
黒き【悪】を自称する魔人が、あちこちを救って回っているらしい。
その人物は、魔物を討伐し人々を救っていると。
最早、聖人と同じなのだが、その人物は【悪】を自称する。
そして、正義を語る者たちを問答無用で狩る。
それも容赦なく、無残にその命を刈り取るのだ。
正に勇者や聖人の行いだ。
その人物と交渉できれば、我々の立場は安泰になる。
いや、むしろ【悪】を自称するのだ。
あのワガママ勇者を倒させればいい。
そうすれば面倒がなくてい。
そしてその者をうまく扱えば我が教会は、
善と悪を使い分けこの国すらも手中に出来ると思っていたのだ。
彼の口元は卑しくゆがむ。
それは聖職者にあるまじき、卑しい考えを抱きながら。




