37 悪者は侵略した村で悪だくみする
悪の組織の武装開発部隊の副責任者ノイ・ロゼ。
彼女は化学、物理学に秀でている。
その彼女を呼び寄せて、その黒い水を確認してもらうことにしたのだ。
ワルモーンには、その染み出る黒い水が何かおよその見当はついていた。
だが、確証が欲しかったのだ。
そしてうまくいけば問題の一つが解消する可能性がある。
その為に呼び寄せることに決めたのだ。
本来ならすぐにでも次の村に向かいたいのだが、彼女が来て黒い水の正体を確認してから向かうことにしたのだ。
なんせ、黒い水が出た原因は、ワルモーンにあるので本人としても責任があるので気にしているのだ。
そこまで気にしなくてもいいのだろうが、彼の無駄に強い責任感がそれを許さないのだ。
気にしなくてもいいよ
そういいたいのだが、彼の性格を良く知るシンラーツには言えない言葉である。
言えば意固地になるのだ。
無駄に責任感が強く、無駄に頑固なので困るのだ。
そのくせ誠実で臨機応変に対応する。
彼自身本当は優しい性格の人間である。
正義を真っすぐに進むタイプなのだが、あることをきっかけに歪んだ正義を憎み忌み嫌い
悪を名乗るようになった。
正義の名のもとに真実の名のもとに相手の心と生活を踏みにじる。
それが許せないのだ。
まあ、カンタンに言えば真っすぐすぎるのだ。
シンラーツはその彼の心根にやられたのだが・・・
さて、話を戻すがノイ・ロゼが来る前にワルモーンは黒い水を回収するために行動を開始した。
その間、バー・ヌーシとジョー・ツキはあまりにも変わったボー村を探索する。
バー・ヌーシは冷静にほぅと感心しながら歩くのだが、ジョー・ツキは驚きまくっていた。
もうリアクション芸人顔負けである。
見るもの、感じるもの全てにきちんとリアクションしてくれる。
いいお客である。
村を流れる水路に驚き、その治水の見事さに驚き、薬草畑の管理や育成方法に驚き、
薬草の調合、加工技術に驚き、畜産の方法に驚き、林業と炭生産、村の防衛方法に驚き倒していた。
まだほかにもあるのだが、説明が大変なので省略する。
あちこちを見て周りリアクションし過ぎたのかジョー・ツキはぐったりとしていた。
それを苦笑して見ていたバー・ヌーシ。
驚くのも仕方ないことである。
ボー村を離れていたのはわずかな期間。
それを差し引いても、数年ほど離れていたほどに感じる変化である。
つまり、変化しすぎているのだ。
これが【悪】の力なのかと感心するほどである。
そんな事をしているとそこにワルモーンがやってきた。
ぐったりとしたジョー・ツキを心配して慌てていた。
だが、理由を聞いて安心していた。
その姿を見て更に苦笑いを浮かべるバー・ヌーシ。
この人は【悪】を名乗る割には人が良すぎると思っていた。
だからこそ、彼は信用に足ると思えてしまう自分がいることに
笑いが込み上げる。
このバカげた現実を生み出している人間には見えないのに
それをやり遂げている。
こういうお人好しで無鉄砲な人間が道を切り開く開拓者なのだろうと。
「しばらくすればウチの組織から専門家が来る。なので今問題になっている黒い水を回収しに行くのだがバー・ヌーシ殿も来られるか、それとも村を見て回るか?」
とワルモーンはたずねる。
「そうですな、私はついて行きましょう。ジョーは流石にバテているので村で待っていなさい」
と顎に手を当てて思案し、答えを出した。
「では、シンラーツと合流次第、目的地に向かおう」
とワルモーンが言う。
「そういえばシンラーツ殿はどちらに?いつもご一緒に行動されていたのに・・・」
「ああ、アイツは今ハーメ村からついてきた二人を鍛えるために森に向かったよ。
そろそろ戻ってくんじゃないかな」
そっけなく答えたワルモーンに
「ワルモーン殿が鍛えないのかな?彼らに何かしらアドバイスをしていたようだが・・・」
「いや、オレが考えた基礎トレーニングをしようとしたのだが、シンラーツに全力で止められてね。
何でもオレの基礎トレーニングプランが厳しすぎるからダメだと言ってね。
しかなくあいつが面倒見ることになった」
寂しそうに答えるワルモーンが可愛く見えてしまい
バー・ヌーシは必死に笑いをこらえていた。
しばらくして、元気なシンラーツとヘロヘロの冒険者二人が合流した。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。




