34 次なる村を目指す前に
さて、次の村なのだが問題が発生していた。
ボー村から東にあるハーメ村を攻略したのだが、次に向かう村であるツカ村を目指すことになる。
そのツカ村は、勇者たちのせいで教会騎士団に占拠された状況になっていた。
聖清教会は勇者たちの後援会的存在であり、今回の勇者召喚を行った元凶でもある。
その為、教団ともめるのはよろしくないのだ。
バー・ヌーシはそのことをシンラーツに説明する。
なぜ、シンラーツにしたのか、それは教団が常に神の名のもとに【正義】を執行すると言っているからだ。
実力行使はあまり問題にしていなかった。
ただ【正義】の名のもとに行動することが問題なのだ。
ワルモーンは、普段は冷静で思慮深いのだがある一点・・・いやある言葉に以上に忌避感を持っている。
そう【正義】である。
この言葉を言う相手に彼は手加減できない。
確実に殲滅する。その言葉を乱用する教会騎士団がいる。
そうなれば激突は必至、その上さらに国との激突する可能性が発生する。
それを案じているのでまず、シンラーツに説明・・・相談したのだ。
そのことを言うと
「大丈夫だよ、でもむしろこの事をワルモーン君に説明した方がいいよ」
「なぜです?騎士団との激突が確実なのにですか」
「そんなこと無いよ、むしろ彼は状況を知ればもっと慎重になるよ。
相手が【正義】を語る相手ならなおさらね。
なんせ彼は【正義】をご都合よく使う連中に結構な回数で追い詰められたし、彼自身【正義】の組織に潜入していたからね」
その言葉に感心するような表情を浮かべる。
村長の中では、もっと好戦的なイメージがあったからだ。
だが、自身の信念を捻じ曲げてでも仇敵たる【正義】の組織に潜入できるとは考えて居なかったのだ。
彼がそこまでできる人である。
この情報は村長から見れば目的のために信念すらねじ伏せて進むことが出来る人物と見方が変わったのだ。
いや、それこそが彼の信念そのものなのかもしれない。
彼の強さの源を垣間見たような気がしたのだ。
「わかりました、では改めてワルモーン殿に説明いたします。それで判断を仰ぐでよろしいか、シンラーツ殿」
「いいと思いますよ、私としてもその方が気が楽ですしね」
と満面の笑顔を浮かべる。
その姿は、村長の返答が誇らしくまたうれしくも感じている様だった。
その後、村長はワルモーンを交え、次の村の事を説明した。
その内容にワルモーンは顎に手を置き何かを思案するような動きを取る。
そして、
「それならば、まず情報が必要だ。相手の行動目的がわからんうちは攻め込む必要性がない。
それにその村は一時的とはいえその教会の庇護下にあるのなら緊急性は低いだろう。それよりももうひとつの村の方が深刻かもしれないな」
とワルモーンの回答が語られる。
それはバー・ヌーシが、考えて居た回答とは違っていた。
冷静に判断されていた内容だったからだ。
バー・ヌーシが思っていた彼のイメージは、人情に厚い猪突猛進する人間に見えていたのだ。
その予想が外れたことが、残念でもあり嬉しくも思っていたのだ。
自分が信頼を寄せるこの人情家が、冷静に判断していることに。
彼がこの理不尽な状況を変えてくれるのかもしれない。
変わらない水面のようなこの状況に一石を投じてくれるのかもしれない。
いや、それ以上の波紋を起こしてくれるかもしれないと期待をし始めていたのだった。
話は戻るが、彼らには問題がある。
次に向かう村を変更することで道のりが変わるのだ。
ボー村から右回りに順繰りに進んでいたのだが、次の村は完全に逆に方向にある。
その為、元来た道を戻る必要性がある。
更にもう一つの問題がある。
教会騎士団が占拠する村から騎士団が来る可能性があるのだ。
それは、ワルモーンの配下であるリノウナンバーズがいることで解決できる。
なんせ、彼らは一人一人がシンラーツより上の実力者たちだからだ。
その辺の有象無象に負けることはない。
だがそれとは別にこれからの方向性を決める必要がある。
行き当たりばったりでは、もう進まない・・・というよりも問題が沸いて出てきてしまう状況になると考えて居たのだ。
だからこそ、今ここで状況を整理し基盤を整える必要があると考えて居たのだ。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。




