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28 若者たちの戦い

血気盛な人たちの話です。

山小屋を出た冒険者たちは意気揚々と魔物たちに迫る。

若さゆえの奢りか、根拠のない強気な考えがあるだけなのだがそれも仕方ないことである。

血気盛んでとがった考え方が判断力を鈍らせていることに彼らは気づいていない。


斥候の男性が目的の魔物を確認してきたのだ。

彼は、近くにいる魔物がオークであることを告げた。


その連絡に他の冒険者たちの士気が上がる。

相手は、オーク。

戦う相手として申し分ない魔物だ。

知能はほどほどで力任せに攻撃してくる。

強敵ではあるが倒せない相手ではない。

オーク一匹がCランク扱いの魔物である。

あくまでも一匹ならだ。


複数いればそれだけ強敵のレベルが上がる。

二匹なら三倍、三匹なら六倍になる。

なので一匹だけで判断すると命取りになりやすいのだが、今の彼らにはその考えもない。

生き残りたければ冷静に状況判断をしなといけないのだが、彼らにとっては魔物という獲物と戦えるという高揚感だけしかない。


高揚感に酔っている、いや高揚感に飲まれているという表現が正しいのかもしれない。

彼らは目的の魔物を待ち伏せることにした。

十匹は、いるが所詮オークだ。不意打ちすれば簡単に蹂躙できると踏んだのだろう。

考えが甘いなんて思いもしない。


自分たちは強いと思っているからだ。

それが、思い上がりなのだろうが関係ない。


今の考えが全て正しいのだ、彼らにとっては。

経験の浅い、知識の乏しい人間には判断するための基準が弱いことを理解できない。

ただ、勝てるという根拠のない自信だけが彼らにある。


少しづつ迫る魔物を今か今かと待ちわびる冒険者たち。

だが彼らは気づいていない魔物は、ケモノでもあるのだ。

野生のケモノは音やにおいに敏感であることを。


魔物たちには隠れている冒険者たちがいることに気づいていることを、それがすでに不意打ちというアドバンテージを無くしていることに。


男弓使いがけん制し、女大楯使いが突っ込みその後ろから女武闘僧侶と男剣士が攻撃に出るという作戦だ。

血気盛んで無謀な事をすると思いきや結構堅実に行動するようにしていた。


無謀なのか堅実なのかよくわからない。


男弓使いが動く。

矢を何本か放つが、オークに簡単に防がれる。

それを皮切りに

女大楯使いが突っ込むのだが、オークの棍棒が大楯に振り下ろされる。

予定ではこの攻撃を受けきり、攻撃に転じるはずだったのだが、振り下ろされた棍棒は、大楯をへし折り女大楯使いを吹き飛ばす。

後ろから飛び出すつもりの二人はそれに巻き込まれ吹き飛ぶ。


慌てた女魔法使いが呪文の詠唱に入るのだが、タイミングが遅くオークの投げた石をよけて詠唱が止まる。

他のオークが女魔法使いの側面にまわり棍棒をふるう。

その攻撃をよけそこない、腕をへし折られる。

女魔法使いを救おうと男斥候がオークの背後にまわり首をかき切ろうとするのだが、ナイフの刃が通らない。

オークは豚の魔物なのだが、豚は体がほぼ筋肉なのだ。脂肪ではない。

その為、その強靭な筋肉に刃が阻まれ皮膚の皮一枚を切り裂く程度だった。

そのことに男斥候は驚き慌てる。

その隙にさらに別のオークが迫る男斥候の脇腹にこん棒が突き刺さる。

肋骨が折れる鈍い音が響く。


立ち上がった男剣士と女武闘僧侶がオークに襲い掛かる。

男剣士が袈裟切りを女武闘僧侶がオークのみぞうちに拳を叩き込む。


が、男剣士では切り裂けず刃は皮膚すらも通らない。

女武闘僧侶は打ち込んだ拳がくだける。


攻撃を仕掛けた方がダメージを食らう結果となる。

だが、男剣士は何度も剣をふるうのだがそれでも通らない。


オークは左腕を軽くふり、吹き飛ばされる。

二人は近くの岩に体を叩きつけられる。


先程まで絶対的に優位だと思っていた冒険者たちは、もう虫の息になっていた。

初手から魔物たちの優位は変わらず、カンタンな攻防すらないまま劣勢に追い込まれていた。

防衛がやっとなのだが、それも怪しくなっていた。


それを木の上から眺めていたシンラーツは、軽く嘆息し彼らの救援に向かう。

木を飛び移りながらオークの真上に陣取り、相手の位置を確認する。


その間も冒険者たちは、必死に防戦するが力の差は歴然だ。

相手を過少評価した彼らの甘さが露呈した、という感じである。

最初のころの自信はすでになく半べその半死半生になっていた。


それぞれの冒険者に迫るオークたち。

既に勝敗は決したのだが、相手は魔物。

戦えない相手を見逃してくれるほどやさしい存在ではない。


彼らに魔物からの攻撃を防ぐ手立てはない。

そこに彼らと魔物の間を駆け抜ける影が走る。

黒い影は、一瞬で消え、その後魔物が体を細切れになり、血をまき散らす。

刻まれた魔物は四匹が肉塊と血だまりと化していた。


「まったく、アレだけ大口をたたいておいて無様ね」

と彼らの背後に立つカジュアルな服装で剣を片手に持ち凛々しく立つ女性がいた。

半泣きの彼らが見た女性は、山小屋で見下していたシンラーツという名の女の子だったのだ。


「何言いやがる、その剣があるからオークどもを切り裂けただけだろうが、オレだってその剣を使えば勝てるわ」

と強気に言い返す男剣士。

彼は、まだ自身の無力さを理解できていない。


その声を聴き、彼を見据えるシンラーツは、手に持つ剣を彼の前の地面に突き刺し代わりに彼が落とした剣を拾う。


「なら、その剣を使いなよ。私はアンタの剣を使うよ、君の自信の源である実力を見せてよ。ま、どうせ無理だろうけどね」

と、吐き捨てるように言う。


彼女の剣を握り、立ち上がる男剣士。

「武器の差で倒せているだけの癖に粋がるなよ、この剣ならオレだって戦える」


「そ、じゃあ頑張ってね」

と冷たく言い放つ。

その声には、「どうせ無理だろうけど」と言葉が続くように聞こえた。


男剣士は手に持った剣を一度見ると嬉しそうな笑みを浮かべ、魔物に視線を移し立ち向かうため駆け出す。


それを呆れ気味に見送るシンラーツ。

彼女は、彼が勝てないことを理解できていた。さらに窮地に追い込まれることも。

なので、彼が窮地になるまで動かず、観察するように見据えていた。

他の魔物は、警戒してすぐにはこちらに行動を移さないでいる。野生のカンなのか、強者がいることを警戒しているのかどちらかだろう。


そんなことは、今の彼には関係ない。

目の前の魔物を倒せる武器が手にある。

それだけで十分だ。


自分たちが蹂躙されたのだ、次は自分たちの番だと思い、その高揚感が彼を満たしていた。

それだけの力が、武器が彼の手の中にある。それだけで十分だった。のだが、その武器を使っても目の前にいるオークには届かない。

何度も何度も切りかかってもはじかれる。切り裂けない。

自分よりも弱そうな女が出来て、なぜ自分に出来ない。

その疑問だけが彼の思考をかき乱す。


ナマクラを渡したのか、と考えがよぎるがそれにしては剣の質が良すぎる。

ならなんだ、何なんだ。彼の疑問は一番簡単で分かりやすく、彼自身が認めることが難しい回答からは目を背けていた。


それは、彼自身が未熟であること。

それは、現実のものとなる。


シンラーツは彼の剣を振り、オークを切り裂いて回る。

その姿がすでに答えを導き出している。

でも、彼には認められるものではない。


自分よりも弱そうな女の子が、自分より実力が上だと彼の若き経験少なき誇りが認めることを拒否している。

だが、そんな小さな誇りを虚栄心を打ち砕くように彼女はオークを切り裂く。


そして、彼が苦戦している・・・いや相手にもされない魔物が、細切れになる。

それをしたのは、彼がオークにかなわなかった剣を使いオークを殲滅した女の子であるシンラーツだった。


彼が認める認めないの関わらず、冷たく揺るがない現実が逃げることを許さず突き付けるように広がる。


「どう、理解できた?自分が弱いこと」

彼女の言葉が彼に一番弱い所に突き刺さる。


認めたくない彼の最後の自尊心は、見せつけられた現実と言葉の刃によって砕かれた。


男剣士は、剣を落とし崩れるように膝が折れる。

それを見てシンラーツはつまらなそうにフンッと鼻を鳴らす。


〇これは悪を気取ったいい人たちが、新人たちに上から目線をしているつもり出来ていない状況のコメディーである。


若いころは何でもできると思いがちです。

小さな失敗を沢山して、大きな失敗をしないそれが経験だと思います。


オッサンの言い分でした。

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