27 悪者は、若者たちの主張を聞く
山小屋に着いてから護衛の冒険者たちがぼやき始める。
何でオレたちが待つんだ、オレたちなら鉱山の魔物なんか瞬殺だ。
と大口をたたき始めたのだ。
血気盛んな若者には良くありがちな光景だ。
有り余る若気が出来ないこともできると思えてしまう。
それがどんなに無謀な事であってもだ。
それは経験がないため、どんな相手も軽視しがちになる。
つまり経験という痛い目に会わないと理解できないのだ。
根拠のない自信があふれかえっているのだ。
こればかりはどうしようもない。
冒険者たちはランクがCが一人、残りはEだ。
冒険者としては駆け出しもいい所なのだが、若さゆえの根拠のない自信が彼らを思い上がらせている。
余りにも横柄な言い分に村人たちが反論し始める。
道案内の村人は、ワルモーンの力をじかに見ている者たちなのだ。
つまり、ワルモーンの実力を知っている。この人ならば鉱山の魔物を何とかしてくれるという確信があるのだ。
それと比べれば駆け出し冒険者たちなど子供にしか見えていないのだ。
そんな考えの両者の考えが交わるわけはない。
言い争いの始まりだ。
ワルモーンとシンラーツは、どうでもいいのだがこのままだと何も進まない。
なのでワルモーンが「ならば彼らに今この山小屋に向かってきている魔物を討伐してもらおう」と言い始める。
さらに「そいつらを軽く片付けてくれるのなら鉱山の魔物討伐も彼らに譲る」という。
村人たちに不満が出る。
「こんな世間知らずに任せるなんて」「口だけでしょう、やめましょう」やら言い始めるが、
「まず、この山小屋に迫る魔物を討伐出来たらという条件を付けています。彼らが自信があるのならそれを見せてもらいましょう。
ここまで大きく出るのだから出来るでしょう。まず結果を見せてもらいたいと思います」
とワルモーンが冷ややかな言い方で言うと
村人たちには、渋々その提案に乗る。
もちろん冒険者たちは意気揚々だ。
実力を見せてやるという始末である。
ワルモーンは彼ら冒険者たちに近づく魔物の討伐を任せる。
彼らは、強気のままに山小屋を出て魔物たちの迎撃に向かう。
その姿を見送った後、ワルモーンはシンラーツに
「あいつらのフォローを頼む。打ち取れればそれでいいが、失敗すると後が面倒になるからな」
と静かに言う。
「その言い方だとまるで信用してないね」
「あの勇者たちより弱い連中を信用できるかよ、意味もなく強気なガキどもは痛い目に会わんと理解できんからな。
その後始末がさらに面倒になるのを防がんといかん」
「了解だよ、痛い目に会って凹んでくれるまで放置でいいのかな?」
「それでいい、その後はオマエに一任するよ。まあ、魔物は片付けてくれよ」
「はーい、まかせて」
というと彼女は冒険者たちを追うように山小屋を出る。
「いいのですか、彼らに任せて」
不安そうな顔で村人が聞いてきた。
「かまわんよ、うまく倒せればよし。倒せなくても痛い目を見れば静かにはなる。それにお目付け役としてシンラーツがついている。
彼女がいればあの冒険者たちは死ぬことはないし、魔物を討ち漏らすこともない。問題ないだろう、彼らが戻ってくるまでしばし休養としておこう。鉱山から魔物が出てきてもオレが確実に潰すから心配はないだろう」
「そうですね、ワルモーンさんなら問題ないですね。なんせ魔物を圧倒してましたから安心です」
という。
ワルモーンは、村人たちから信用されまくっていた。
訪れた村の意識侵略が進んでいることにワルモーンは、内心うれしくて仕方がなかった。
ただ単にくそ真面目で不器用なワルモーンが、信用されているだけなのだが・・・。
解釈がずれているのは、やはり天然なのだろうか。
冒険者たちの事など眼中にないのが良くわかるのだが、勝手にワルモーンのことをライバル視している彼らがかわいそうになる。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。
無鉄砲なのは若さゆえと言われますが、違うと思います。
経験がないからだと思います。先を予想できないからですね。
行動に対する結果がどうなるか、考えられないからだと思います。
要は、精神的に幼稚なんです。自分がその立場になることを予想できないからですね。




