25 悪者の鉱山蹂躙計画
「では、これでオレの力はご理解いただけたと思います。
鉱山はオレが解放しましょう、その為の情報をいただけませんか?
鉱山内部の状況や魔物の数、それに魔物の発生原因など必要と思われるもの全て教えていただきたい」
村の中央広場でワルモーンが集まった村人たちにたずねていた。
村に迫る魔物の群れを一蹴した後のワルモーンは村長に提案したのだ。
鉱山の情報が欲しいので村人達を集めてほしいと。
どんなわずかな情報でもいいから手に入れたいと村長に願ったのだ。
その為に今広場に集まっている状態だ。
ワルモーンは、その場に集まる村人たちから情報を集めていた。
ホンの些細なことでさえ耳を傾けていた。
たわごとでさえも彼には重要な情報なのだと思えた。
言葉使いは丁寧なのだが態度や行動は不器用そのものだ。
そのアンバランスな行動が、村人たちには親近感を持たせた。
冷たい感じのするワルモーンを受け入れやすくしていたのだ。
「なるほど、勇者たちが魔物を駆逐した後、鉱山に潜りいろいろなものを奪っていったと・・・」
ワルモーンが話を聞いていたのは、小さな子供たちだ。
子供たちの目線に合わせ、かがんで話に耳を貸していた。
小さな子供たちは、鉱山の中を遊び場にして探検ごっこをしていたそうだ。
勇者が駆逐したはずの魔物が現れた。
これの意味するところは何か、それをワルモーンは知りたがっていた。
その答えが、今、話を聞いている小さな子供たちにあると踏んでいるのだ。
「でね、勇者たちが立ち去った後に石壁に埋め込まれていた十字架がなくなってたの。
で、次の日にそこにひびが入っていて、更に次の日に見ない魔物が現れたの」
と必死にたどたどしく話していた。
見ない魔物は、角が二つに目が一つ二メートル近い大きさで筋肉質で肌が青いという話だ。
村の人たちは子供のたわごとと一蹴したが、ワルモーンは真剣に聞いていた。
「なぜ、子供のたわごとに耳を貸しなさるのですか、ワルモーン殿」
村長は、話が終わったワルモーンの話しかける。
「たわごとか・・・あんたたちにはそう聞こえるのかもしれないが、そのたわごとに真実が隠れている場合がある。
だからこそオレはどんな些細な情報でさえも欲しいのだ。人は、とても小さな石にでもつまづくことがある。
それは、単に見落としているのではなく見逃しているか、見る必要性がないと考えているからだ。見る必要性がないことが本質であることが多いのにな・・・だからこそそれに目を向ける」
ワルモーンは立ち上がりながら子供たちに手振る。
「ですが、子供たちが言うことが真実であるとは思えませんが・・・」
村長は、その姿に村を襲撃した魔物をねじ伏せた人物とは思えないと思うようになっていた。
圧倒的な力で魔物たちをねじ伏せた冷たい男、そう思っていたのだが子供に真摯に対応する姿は、近所の優しいお兄さんである。
自分たちは、あの強力な力と姿に惑わされ見間違えているのではないか。
だからこそ、勇者という肩書に振り回され、余計な問題を起こす羽目になったのではないか、と。
「大人は、見逃しやす事が多い。面倒事や嫌な事、割り切ることで身を守り生活を守ろうとする。
いけない事だとは思わないが、それでは何もできない。でも子供たちは、それがない。大人が見逃し、見ないふりをするものでさえ見つけ探し出す。オレにはソレが必要なのだ。最短の答えにたどり着くかもしれんからな」
「おやさしいのですな、ワルモーン殿は。確かにあの用心深いバー・ヌーシ殿が信用されるわけです。
アナタは、良き人なのですね」
と柔らかな物腰と視線をワルモーンに向けると
「オレは良き人ではない。【悪】者だ、【悪】なのだ。そこを勘違いしないでくれ」
と言い放つ。
その言葉に困り気味に笑う。
この御仁は悪い人ではない。
でも、【悪】で居ようとしている。
これは、用心深いバー・ヌーシ殿に最初に説明を受けていた。
理由も聞いている。
【歪んだ正義】を語る者たちにひどい目に会い、その【歪んだ正義】を否定するためにあえて【悪】を名乗っているのだ、と。
「失礼しました、【悪】の方。アナタがもし鉱山の問題を解決していただけたのなら私は、いえ私たちはあなた方に従いましょう。
あなた方は、信用に値すると私は思いますので・・・」
「そうか、ならばオレは手早く鉱山にいる魔物どもを蹂躙するとしよう。【悪】の組織の我々に歯向かうバカな魔物など早めに始末するに限る」
といいながら鉱山に視線を向ける。
「でも、加減はしてねワルモーン君。それからゴブリンは生かしておいてね、手加減するようにね」
と後ろからシンラーツが話しかけた。
その声に反応し振り向くとそこには狼と猟師を引き連れたシンラーツが笑顔で立っていた。
「加減はしている。村に来た魔物に対しても一割程度で済ましている。
だが手加減は、手間だな。ここにいる魔物がもう少し強ければ楽なんだがな」
「加減?手加減。そんな事をされているのですか?ワルモーン殿は」
と村長は驚きを隠せない。
オークどもを炭に変えたあの圧倒的な力が、あの状態でも加減していることにである。
「そうね、ワルモーン君が力を抑えないで戦えば、鉱山なんて山ごと吹き飛んでるわ。あの辺更地になってるもの、それに彼はまだ武器すら使ってない。まあ、使う必要もないから仕方がないけど・・・」
とシンラーツは笑顔で怖いことを口走る。
「それは、どうでもいいとして。シンラーツ、その犬どもはなんだ?どこで拾ってきた?」
とトンチンカンな事を言ってきたのだ。
村長は、村人には、この二人の今の状況が不自然に見える。
シアンウルフは、凶暴な獣だ。けして人に従う生き物ではない、ないのだがシンラーツのそばにいるシアンウルフは彼女の足に頭をこすりつけ媚びを売っている。
正確には、なついている?いや、服従しているが正しいのかもしれない。
その狼たちをシンラーツは、
「かわいいでしょ、この村の番犬にいいかななんて思ったの。いいと思わないワルモーン君」
と笑顔を崩さない。
「そうだな、オレたちに従うならそれもいいな。この犬どもも【悪】の同志だ、それでオレには十分な回答だ」
と狼たちを犬扱いしていた。
もうその的外れな会話に唖然としている村人たち。
彼らは、思う。
狼を犬扱い、懐がでかいのか。それとも我々が器が小さいのか。
それとも、考え方が根本的に違い過ぎるのだろうか。
悩みどころになっていた。
問題はそこではないのだが、すでにこの村の住人達も【悪】に考え方を侵食され始めていた。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、常識外れな行動と考え方で周囲を困らせておきながら感謝されるコメディーである。




