16 悪者はともに歩む村と起つ
「では、答えを聞こうか」
ワルモーンは、村人たちと向き合う。
その視線に迷いはなく、向けられる視線に迷いはない。
それには覚悟が宿り、村人たちには決意が見える。
「我らは、あなたがたにつきます。このままではあの勇者たちに村は骨までしゃぶられ、投げ捨てられることは他の村で起きたことを考えれば明白です。滅びるなら・・・・どうせ滅ぼされるのなら家族が笑っている状態で居たい。これが村の総意です」
村長の目に迷いはない。
「了解だ。ならば、明日の朝いちばんに勇者たちを処分する。巻き込まれない様に家にいるようにしてくれ」
ワルモーンは真剣な目でそれに答える。
「私も参加していいんだよね、ワルモーン君」
シンラーツが言葉をつなぐように話す。
瞳には決意が宿る。
彼女も彼ら勇者たちの行動に怒りを持っていたようだ。
「当然だ。多分オレは勇者と戦士の相手をしないといけないだろう。残りを相手してくれ」
「まあ、いいわ。残り物で我慢してあげる、でも加減しなくていいんだよね?」
「する必要があると思うか?」
ワルモーンがシンラーツを見る。
「無いわね、する気も無いけどね」
シンラーツがニカッと笑う。
「後のことは、終わってから考えましょうか。今この瞬間からこの村の方々は我々悪の組織【ギャクゾーク】の同志となる。
同じ志を持つものとして扱わしていただく」
ワルモーンのその言葉に村人たちがうなずいた。
「あなた方は、なぜ悪と名乗るのですか?むしろ正義の味方に見えますが」
村長の質問に
「正義などただの偏見だ。そして軽い言い分だ」
「軽いですか・・・」
「そうだ、人は誰しも正しいことをしたがる。気分がいいからな、それではダメな時もある。
勝手な言い分、歪んだ言い分、理解せず相手を傷つける言い分、これらを全て正しい事であると思えばそれは正義になる。そのせいで誰かが傷ついてもだ。ならば我らはその正義に反逆する。
その正義に対して悪として挑むことにしている。正しいことを正しいというのには勇気がいる。逆もしかりだ。勇気とは、どんな逆風であろうとも踏み出せる信念だと思う。その信念は周囲を理解し、考え感じることで意味を成すものだと思う。貴殿らはその勇気をもって挑むことを決めたのだろう」
「そうなりますな」
「ならば、十分だ。オレはその覚悟を悪として答えよう」
悪の道を進む者たちの夜が静かに更けていく。
決意の朝、村長は勇者たちの前に立ち「昨日の要求はお答えできない。早々に村を出てほしい」と言った。
その言葉に勇者は「その答えの意味が分かっているのか、国に認められたオレたちに逆らうことは反逆を意味するんだぞ」
とドスの利いた言葉を吐く。
とても正義の味方が言うセリフではない。
ごろつきのセリフだ。
「それでもです。あなた方は勇者であるはずなのに、すでに村を三つ潰している。ここも同じことになるわけにはいかない」
村長は視線をそらさず、勇者たちを見据えている。
ただ、手や足は小刻みに震えていた。
彼の意志を支えるように悪の組織の二人は後ろに控えていた。
二人とも素顔をさらしている。
その顔色に変化はない。
無表情である。
怯えや怒りなどもない、能面のような顔がある。
だが瞳に宿る信念は、わかるのだ。
視線にこもる信念が見えない刃のように勇者たちに突き刺さる。
この村に手を出せば、ただでは済まないと語っている。
その視線に勇者一行は身構える。
殺気でもない怒りでもない、突き刺さる強い思いが彼らを警戒させる。
ワルモーンは、ゆっくりと自然な歩みで村長の前に立つ。
そのワルモーンに女戦士が飛び上がり、上から右手のバスターソードで斬りかかる。
その斬撃を左腕で受ける。キンッ!と金属がぶつかる音がする。
それを確認し、女戦士がにやりと笑う。
更に左腕のストライクシールド(打突盾)をすでに構えており、ワルモーンの胸の斜め上から叩きつける。
ストライクシールド(打突盾)は、刃物としてではなくハンマーや棍棒のような質量武器と同じだ。
その重量と固さで相手の肉と骨を砕きえぐるための武器だ。
ガンッ!と金属が重くぶつかる音がする。ストライクシールド(打突盾)ワルモーンに突き刺さったのだ。
普通なら吹き飛ばされるほどの威力だ。
だが、ストライクシールド(打突盾)が当たっても動かない。
それはまるで巨石のように動かない。
いや、違う。たとえ巨石であっても、欠けるなりヒビが入るなりする。
だがそれは、何も起こらない。ただ動かず壊れずにそこにある。
彼女は、そのまま両足が地面に着地する。
額に汗が流れる、背中に冷たいものが走る。
これは、彼女の必勝パターンだった。今までこの奇襲で仕留められなかった魔物も人間もいなかった。
手ごたえもある、なのに寒気が止まらない。
彼女に目の前に先ほどから表情を返す見据えてくるワルモーンがいるからだ。
「この程度か、期待外れだ」
ワルモーンはつぶやき右腕で軽く内側から外側に虫を振り払うように動かすと
ボキッ!と固いものが折れる音がする。
ワルモーンに襲い掛かっていた女戦士が吹き飛ばされていたのだ。
彼女の両腕はあらぬ方向に曲がり、血が噴き出す。
バスターソードは、主の手を離れワルモーンの足元に突き刺さり、ストライクシールド(打突盾)は遠くに吹き飛ぶ。
地面に倒れこんだ彼女の顔には先ほどまでの自信はなく、悲壮感と涙があふれ、声にならない悲鳴が漏れる。
使えない両腕が彼女に痛みを伝える。
その痛みは、激痛をつたえ意識を失うことを許さない。
彼女の仲間は、驚愕を浮かべ動きが止まる。
そこにもう一人の悪が動く。
魔法使いと僧侶を蹴り飛ばす。
ワルモーンのはゆっくりと歩みを始める。
倒れている女戦士に向かっている。
女戦士は、恐怖が宿る。
逃げろと言う言葉が頭の中で痛みとともに鳴り響いている。
だが、恐怖がそれを許さない。いや、動けなくしているのだ。
得体のしれない、今まで感じたことのないものが体を支配し、彼女の逃げろという命令を奪う。
ワルモーンは彼女の元まで来ると足を上げ、下にある女戦士の足を踏み潰す。
先程と同じ折れる音が響き、彼女は声にならない悲鳴がでる。
余りの痛みにあげたくても悲鳴が声にならない。
息をするだけで精一杯なのだ。目に涙を浮かべ、助けを求める子犬のような顔に変わる。
「弱いな、勇者はまだましなのか?」
と言うとさらに踏み下ろす足に力を込める。
彼女は、声を上げることが出来ない。
声のない息を吐き続けるだけだ。
しばらくして彼女は意識を無くす。
絶え間ない激痛と恐怖が彼女の傲慢な心の力奪うことになったのだ。
そして、ワルモーンは次の獲物を見据えていた。
そう勇者に視線を移していた。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、割とえぐいことをしながらも周囲に感謝されるコメディーである。
 




