14 悪者、勇者に絡まれる
勇者が村に来てからしばらくしてワルモーンは川を眺めていた。
自身のいらだちを抑えるためだ。
本人は余計な事を考えたと思っていた。
村に気を使ったのだ。
手を出せば村に迷惑が掛かることは明白だ。
ならば村ごと悪の組織に組み込めばいい、のだが強引に事を進めるには触れあい過ぎたのだ。
僅かだが情も感じ始めていた。
組み込むにしろ、見捨てるにしろ。せめて村人たちに選択させたいと思ってしまったのだ。
そんなことを考えて居るとそこに一人の若者が近寄ってきた。
「おい、貴様。ワルモーンとか言ったな」
若者は高圧的な物言いで話しかける。
「なんだ、若造。オレは今、黄昏てるんだ。その大事な時間に何用なんだよ」
ワルモーンは振り向きもせず言葉を返す。
誰が近づいてきたのかは、わからない。だが気配には覚えがあった。
先程やってきた勇者だ。
「こっちを向けよ、無礼だな。オレはこの国の勇者だぞ、お前ら愚民どもを守るために戦うものだ。もっと敬意を向けろよ」
「そうかよ、オレには関係ない。この国のモノでもないしな、横柄なガキに敬意もくそもない」
「強気だな、さすがはゴブリンクィーンを仕留めただけはある。でもあの程度オレでも簡単に倒せる、思い上がるなよ」
その言葉にどうやら自身のちっぽけなプライドを満足させるために来たんだなと気づく。
仕方なくワルモーンは、やれやれという感じで立ち上がり振り返る。
そこには威圧的ににらむ年若い勇者がいた。
世間の酸いも甘いも嚙み分けた、と言うには若すぎる生意気盛りの少年がいた。
「なんだ、小僧。それを言いに来たのか」
振り向いたその姿を見てわずかに驚くも相変わらず強気に構える勇者。
「仮面を脱いだらどうだ、相手に失礼だと思わないもか」
「思わないね、こちらに敬意を払わない相手には特にだ。自身の言い分を押し付けるだけなら何とでもなる。
それで相手を思い通りに動かそうとしている人間を相手にするほど暇じゃないんでね」
「へえ、強気だねアンタ。でもオレの方が強い、力でねじ伏せてやろうか?」
口元がゆがみ、腰の剣に手がかかる。
ワルモーンはそれを見ても動かない。動じてもいない様子だった。
「それがガキだという。なんでも力でねじ伏せればいい、その安直な考えで誰も言うことを聞くとは思わんことだ」
「はっ!この状況でまだ強気にくるねぇ。じゃあ、死ねよ!」
剣が抜かれる寸前に
「何やってんの!アンタ!またもめごと起こすつもり!いい加減考えなしに動くのはやめな!」
女性の声が響く。
先程勇者とともにいた女性戦士である。
年齢は勇者よりも上でお姉ちゃんという感じである。
だが、まだ生意気盛りに感じられる。
「だがよう、こいつが生意気なんだよ。ここでシメとかないといけないだろうよ」
と先ほどまで生意気な姿はなく少年に変わる。
姉に叱られる弟に見えた。
「その考えをいい加減止めな。そんな事してるから【ゴロツキ勇者】なんて呼ばれるんだ。」
そういうと勇者を静かにさせ、ワルモーンはを見据える。
「まあ、アンタじゃないけど、挑みたくはなるね」
「もう話はいいのか?」
「ああ、すまいないねえ。気を悪くしなでおくれよ、この子手柄がなくて焦ってんのさ。ガキの言葉だと思って忘れておくれ」
「そうだな、そうする。じゃあな」
と言うとワルモーンはその場から離れた。
「何で止めるんだ、あんな奴くらい・・・」
「やり方を考えろって言ってんだ。正面からいってどうすんの、それやって前の村でも大変だったろ。寝込みを襲うだの考えな、真向勝負だけが戦い方じゃない」
「そんなことしなくてもオレは勝てる」
「はいはい、そうだね。でもアレは違うよ、強い。それに周りを味方につけてる、あのままアンタがケンカを売ったら間違いなくこの村にはいられなくなる。この村を潰すのはまずいんだよ、薬草の産地だからね。せめて村人をこっちに引き入れてからじゃないと面倒なんだよ」
と言う。
この女性もあまりものを考えて居ないようだ。
世間体を気にするだけまだ少年勇者より大人のようにも感じるが、考え方は短絡的だ。
「じゃあ、アイツの横にいた女をいただく。それであいつに立場の差を理解させてやる」
と何とか自分が上だと思わせたがる勇者。
「まあ、その程度ならいいじゃないの」
「吠えずら欠かしてやる」
と息巻く勇者。
それをため息をつきながらも優しく見守る女戦士。
それを木の陰から気配を消して聞いているシンラーツ。
こいつらバカだ、と思っていた。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。
 




