表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/167

138 悪者は極悪顔と対峙する



二人は細かな状況を聞いた。


現在、鍛冶師の街とミゾレ町に教会騎士団を派遣するために

準備中だという事。


その為に街の住人を徴兵して、さらにいくつかある孤児院からも徴兵している事。

それを主導しているのが、本部から来ている司祭連中と聖勇者と飛ばれるピンクであること。


それにヘイト枢機卿とその部下、ハマカの三人が主導で抵抗している事。


などなどである。


「状況はなかなかひどいですね」

シンラーツはため息交じりに法杖をついて呆れていた。


「仕方ないのですよ。この街は大陸での教会拠点です。

その街を堅実に管理していたヘイト枢機卿は本部の司祭たちから敵視されています」

部下の司祭が答えた。


「なら問題あるまい、堅実に領主をしている。それは本部にとってはいいことではないか?」

ワルモーンがさも当然の事だろうというと


「そうです。問題ないのですが…

本部司祭たちにとってこの大陸は、金の生る木なのです。

野心の強い司祭たちは、この大陸での教会が覇権握ることができ、

出世できる場所という感が強いのです。

なのですぐにちょっかいを出しに来ます。

そして、失敗が続きました。

ハトタハト王国の村を三つ、さらに拠点となりうるミゾレ町を失いました。

しかも王国勇者を失い、さらには召喚勇者を三人も失いました。

彼らにとっては大損害なのです。

なのでこの街で起死回生を狙ってきています」

部下のその説明にヘイト枢機卿とハマカはうんうんと頷きながら聞いていた。



「それってただの自業自得では?

気にする必要が無いように感じますけど…」

シンラーツは、思ったことを分析して口にする。


確かのそうなのだ。

野心にかられた宗教家どもの勇み足で自爆しただけ。

その自爆の代償を取り戻そうと躍起になっているだけだ。


「そうだ、その通りなのだが・・・

その自業自得に巻き込まれたこちらはたまったものではない」

ヘイト枢機卿はやれやれという感じで口を開く。


「なるほどな、足らない・・・というか失った戦力をここで補充しているわけか」

ワルモーンは理解できた状況を語る。


「そうだ、失態を取り戻そうと本部の連中はやりたい放題だ。

それこそ孤児院の子供たちを招へいしようとするくらいにな。

ただでさえ領民を勝手に招へいして問題になっているのにそれだけでは飽き足らず

数合わせにこの街の孤児院から都合のいい理屈で集めまくっている。

更に税金まで上げる始末。もうやりたい放題だ」

嘆息しながらヘイト枢機卿がぼやく。


「そこまでするのなら放逐すればいい。迷惑なだけだろう?」


「ここは教会の大陸拠点。いわば最後の砦なのだ、奴らからすれば自分たちに協力するのが当然だと思っている。その上本部勤めなのでそれをカサにこちらの不満を抑え込んでくるのだ。さすがにどうにもできん。領民からの陳情書は山積みになり、それを奴らに言っても聞く耳を持たん。それはそちらでどうにかしろとな。まったく…」


そのボヤキを聞いたワルモーンはあきれていた。


失敗を棚上げし、面倒ごとは全部相手に押し付け、

都合よく使う。

よくある話である。


だが、それは当人たちからすれば迷惑でしかない。

「つまり、本部組を排除しないとどうにもならんわけか」


「そうなる。

私は反対だったのだ、宗教の名の元もとに人を支配しようなどと…

宗教は弱い者たちに逃げ込み場所であって支配するための道具ではない。

悩みを聞き、癒し次につなげる為の宿り木程度でいいのだ。

それ以上を求めてはならぬ。なのに本部の連中はなぜそれが分からん!!」

ヘイト枢機卿は怒りをにじませる。


怖い顔がさらに怖く迫力を増す。



「そうか、じゃあアンタたちはどうしたい?」

ワルモーンは話を進めようとしてきた。


その言葉に三人は黙る。

黙るのだが、一人真剣な顔つきで口を開く。


「正直に言おう。

私からすれば、領民に迷惑がかかるのなら教会からの離脱も考えている」

その衝撃発言に


「ヘイト様!

それはあまりにも…」

部下が慌てる。


しかし、


「いいか、私は先ほども言ったはずだ。

宗教は弱い者たちに逃げ込み場所であって支配するための道具ではない。

悩みを聞き、癒し次につなげる為の宿り木程度でいいのだ、と。

それができないのであれば害悪でしかない。

ならば必要も感じない。

これは私自身の価値観だが宗教の押し売りなど必要とは思えん!!」

ヘイト枢機卿は力強く語る。


それは教会幹部としていかがなものか…

と、考えるが言っていることは理解できていた。


「ならあなたたちは、教会に反旗を翻す覚悟があると認識していいのだな」

ワルモーンは静かな口調で言うと


「そうなるな、私は政教分離が正しいと思っている。

宗教の価値観は、貴族社会の権力や地位などと同じだ。

だが、神の名の元になにをしてもいいと思っている。

それは、ただの独裁主義だ。

それではただの圧力政治だ。国や街が滅ぶ思想だ。

意味などない、滅びる為の害悪でしかない」

ヘイト枢機卿は独自の理論を語る。


だが実際そうなのだ。

独裁主義に陥り、イエスマンのみで周囲を囲み

間違いを正す人もいないまま滅亡に突き進む。

守るべき人を殺すだけの戦争を引き起こすことになる。

それが理解できない人は多い。


自身は間違ってはいない。

相手が間違っているのだ。

この思考に囚われるとその指導者はもう終わりだ。


自分失敗を認め、それを次に生かすために思考できなければだめになる。

ヘイト枢機卿はそれが出来る数少ない人間だと思われる。


厳つい顔で邪悪な笑いを浮かべる人ではあるが、常識人ではなる。

指導者としても良識がある部類である。


その決意…覚悟をワルモーンは感じ取ったようだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ