135 悪の弟子は少年を鍛える
ルトランは、少年に話しかける。
「さて、どうする?
魔物は一応倒したことになるけど」
少年はその言葉に頭を横に振る。
「だめだ、オレは黒の兄ちゃんの条件を満たしてない。
オレが倒さないと胸張ってお願いできない気がする」
と、割と真面目に答えた。
その答えに
『なるほど、さすがは師匠。
キチンと人を見ている。
こいつだから師匠はこの条件を出したわけか。
納得だ』
ルトランはワルモーンの事を改めて感心したのだった。
そこに息切れしたセメットがやって来た。
「走らないでよるトラン。
アンタ最近、脳筋化進んでない?」
ぼやいた。
「そうか?」
本人は、意識すらしていない。
「ホントにワルモーンさんに染まって来たね、あんた」
呆れ気味にルトランを見ると
「本当か!なんか嬉しいな師匠に似てきたか」
と、喜んでいる。
『こいつ、大丈夫か。
これ以上非常識になっていくと不安しかないんだけど…』
と、将来を悲観し始めた?
と、いうかセメットは呆れ始めた。
しばらくして
浮かれているルトランが、少年を指南し始めた。
これは少年から提案してきた。
命知らずというか、世間知らずというか。
自分の力で魔物を倒したいので剣術を教えてくれというものだ。
その提案にルトランは即決で了承した。
でも、この提案を少年は後悔することになる。
少年の名は、ノータといい、自身の孤児院を救いたいそうだ。
自分たちに優しくしてくれる怖い顔のヘイトというオッサンと優しいハマカというおばさんの力になりたいそうだ。
その話に二人は感動し、ワルモーンに染まりつつあるルトランが特にやる気になった。
で、ノータは、指南という名のスパルタ訓練が始まる。
先ほど相手にしていた猫の魔物の前に武器なしで放り出され、逃げる訓練。
命懸けである。
ノータはもう必死の形相で逃げる。
その横の木の上でその様子を見る二人。
一人は満足そうに、もう一人は心配そうに。
「ねえ、ルトラン。あれやりすぎじゃないの」
「いや、あれでいい。
言葉だけの覚悟に意味なんかない。
体と心で経験してそれでも踏み出せる気持ちがないといけない。
時間も無いしな、だからどれだけ荒っぽくても耐えて進むことができるか
試さないといけない」
「だからってあんな無茶させることなんて…」
「まだ優しい方だ。
足腰を鍛えるには走るのが最適なんだよ。
殺されないために必死に逃げれば気配を感じれるようになり、足腰も鍛えられる。
一石二鳥じゃないか。
それに師匠はアイツの覚悟を試してるんだよ
その覚悟が本物かどうか、それも確認しないといけないからな」
「それはわかるけど…それも無茶な事だから
私たちにフォローさせようとしていることも…それでもアンタのやり方はやりすぎだと思う」
「そうだろうな」
「…なら!」
「でもな、あいつはこれからいろんな選択と試練を受けることになる。
もちろんオレ達もだ。そんな中でどれだけの理不尽があるのかわからない。
だから、その理不尽を目の前にしても踏み出す一歩が必要になる」
「それが今やってることとどんなかかわりがあるのよ」
「ないよ、でも理不尽が当たり前に傍にあることは理解できる。
突然理不尽の中に放りこまれて絶望するより、
常に理不尽は傍にあることを知れば対処は簡単になる。
ただそれを体感させるためだよ」
その言葉にセメットは思案した。
「そのために必要な事?」
「そうだ、必要だ。
自分だけは大丈夫とか、自分のすることに間違いはないとか、
自分本位な考えは、周囲を不幸にしていくだけだよ。
捉え方、考え方でいくらでも手段や方法は見つけられる。
だからこそ経験する必要がある」
「でも…」
と、言っていると
少年は、疲れ果て倒れ込む。
その少年に魔物が襲い掛かる。
「安全な所で知識だけを与えてもダメだ。
恐怖を知らないからな。
だから危険な事もさせるさ、
でも命まではなくさないようにするために
オレたちがいるんだよ」
少年が転び、そこに魔物が襲い掛かる。
それを見たルトランは木を降り、襲い掛かる魔物を切り伏せ、
少年を救う。
ルトランは、倒れ込み、気を失った少年を抱えて、
「今日はここまでにしよう。
次は戦ってもらうことにする」
と、いうとその足で街に向かう。
セメットは、納得できないという顔で木を降り、後を追う。
『納得できないけど…理解はできるよ。
やり方が荒っぽいけど…』
危険を知ると、危険を体感するでは、天と地ほど差がある。
そのことを理解はしながらも納得できないセメットであった。




