129 悪者はずれた戦いをする
ワルモーンの一撃により弾き飛ばされるシルバムス。
弾き飛ばされたことにより膝をつきシルバムスは、ワルモーンを睨みつけ
「貴様は一体何なのだ!」
と、叫ぶ。
「さっき、言ったではないか。悪の大幹部で正義を駆逐するものだと。
どうした?耳でも遠くなったか?
正義を語るものは、老けるのが速いのか?
それとも白昼夢を見るのが好きなのか?」
と、煽ってくる。
苦虫を噛み潰した顔で悔しがるシルバムス。
自身は疲れが見え始めているのに、相手にはそれがない。
その上、聖剣はその能力だけでなく切れ味もすさまじい。
にもかかわらず、普通の剣で互角に立ち回られていることに憤りを感じていた。
本人自身も押されていることに気づいてはいた。
切り結ぶたびにその差は開く一方である。
「なぜ聖剣と互角なのだ、普通の剣なのだろう」
「そうだ、普通の剣だ。ただし、職人が魂を込めて作り上げた剣だ。
力を打ち消すだけの古い剣と互角なのが気に入らんがな」
「古い剣と何だ、由緒正しい剣と言え。
悪の先兵め!そもそも貴様はなにをしに来たのだ」
「そうだな、忘れていたぞ正義の者よ。精霊石を持つオレを探していたのだろう。
裏で余計な事をしていたようなので面倒だから直接オレが出向いたのだ。
悪の者として正面からな」
ワルモーンは、胸を張る。
何故にそこまで堂々としているのだろう、そう思う身内たち。
悪者のくせに妙に堂々と正面突破する人である。
本当に悪者なのですか、と問いただしたくなりそうである。
「ええいっ、貴様と話していると混乱するわ!
貴様が精霊石を手に入れた冒険者か。ならば話は早い、貴様をここで屈服させれば済むという事か」
「そうだ、正義の者よ。余計な事をする商人はオレの軍門に下った。
後は、さらに後ろで糸を引く貴様を下せばこの街での問題はなくなる。
だからこそオレ自ら来てやったのだ、ありがたく思え」
「もういい、貴様と話しているとわけがわからなくなる。
いいか、オレは正義の使者だ。オレの行動と言動は全て正しいのだ。
それを証明してやる」
シルバムスは立ち上がり、剣を構える。
「そうだ、それでこそ正義の者だ。オレを楽しませろ」
どうもかみ合わない会話が続く。
本来、余計な事をしているのは、領主であり聖剣の剣士たるシルバムスである。
ワルモーンは問題を起して回るシルバムスを取り押さえる為にカチコんだのだ。
だが、今まで悪を語れず、悪者を気取れなかったワルモーン。
せっかく出会えた正義の者の前で今までのうっぷんを晴らすがごとく
悪者を演じているのだ。
本来ならかみ合うはずの話をかみ合わない状況にしているのはワルモーンなのだ。
ワルモーンの身内は理解はできていた(新入り以外は)。
シンラーツに至っては頭を抱える始末。
彼女は、ツッコミ役なのだがもう止めることもできないくらい呆れている。
「貴様を下し、正義は必ず勝つことを教えてやる」
シルバムスは、ワルモーンに斬りかかる。
ワルモーンは、それを剣で受け
「お前の正義は、強い方が正義のようだ。
強ければ正義、弱ければ悪か。
勝者の理屈かよ、つまらん正義だ。
信念すら感じん貴様に興味が失せた」
横に流す。
突然、受け流されふらつきながらも改正を立て直す。
「戯言を。正義であるオレは正しいから勝つんだよ」
「御託だな。それならオレが勝てばオレが正義なわけだ。
虫図の走る理屈だ」
そういうと斬りかかるシルバムスの剣をはじき
剣の峰で打ち、意識を刈り取る。
「それに終わりだ。貴様は所詮まがい物だ、悪の軍門に下り出直してこい」
そう吐き捨てるように言うとワルモーンは剣を鞘に納め、その場を後にする。
「お疲れ様です、後は我々にお任せください。前回と今回で人手はかなり手に入りました」
トレインは、ワルモーンに頭を下げ、出迎えた。
「待たせたな、トレイン。次は確実にお前たちの宿敵だ。そして手練れでもある」
「理解しております。アレが相手となるとワルモーン様も手加減状態では分が悪い事も…」
「気苦労をかける」
「いえ、ここまでこれたのも大幹部様方のおかげでもあります。
お気に召されるな」
すれ違いざまの会話である。
それを知らない他の連中には、
どう対応すればいいか、わからないままの戦いは終わったのであった。




