127 悪者はカチコミをかける
ワルモーンは勢いに任せて、領主の館前まで来る。
勿論、エチアトに案内させて。
ワルモーンは、ノリノリで正門に立ち、館に入ろうとするがもちろん門番に止められる。
当然、門番に
「何用か、ここは領主様の館だぞ」
と、威嚇される。
その威嚇をものともせず、
「精霊石を欲しがっているから出向いてやった。通してもらう」
と、進もうとするが、さらに門番が二人ほど増えて止められる。
「そういう話ではない。面会の約束を取り付けているのか、と聞いている」
「そんなものはない!私は悪の大幹部だ。そんなもの必要ないだろう」
と、言い分がおかしなことになっている。
ワルモーンの後ろにいた付き添い連中は、げんなりしていた。
「先生、なんかワルモーンさん。心なしか機嫌が良くないですか?」
「師匠が、あんな変な言い分するの初めて見ました」
「ワルモーン様は、いったいどうしたんですか?」
と、三人はシンラーツのそばまで来て心配そうにたずねる。
それを困った感じでシンラーツは、考える。
そして、
「えっとね、ワルモーン君さ。この頃【悪】だって言ってないのよね。
久々の【悪】を語れるチャンスだから気持ちが上がってるみたい」
と、シンラーツは、分かりやすくワルモーンの状況を説明した。
「簡単に言えば、ノリノリで悪を演じているわけですか。ワルモーン殿は」
レベリットは、理解して簡潔に答える。
「そうゆ事。だから止めるのは至難の業だよ。まあ、今迄みたいに無茶はしないと思うよ。本部からこっちの世界の人を集めるように言われているし…」
「そういう問題?なんか問題点がずれてるような…」
「ずれてるよ、間違いなく。でもさ無駄に被害が出るよりましだよ」
「ずれ過ぎてむしろ清々しいくらいですよ先生。しかもそれで師匠のガス抜きも出来るならいいと思います」
「いいんですか?それでいくら何でもワルモーン様を野放しにしすぎでは?」
「「じゃあ、止めれます?」」
ルトランとセメットがジト目でリーレを見る。
「できませんけど…いいんですかこれで?」
「良いと思うよ。街は問題事を解決できて、ウチの組織は人手不足解決。いいことづくめだよ」
「そうですね、いい方に考えます」
リーレは諦めるようにうなだれた。
と、言う話があったのだがワルモーンは知らずに門番ともめていた。
そして、強行突破をかます。
目の前の門番二人を投げ飛ばし、再起不能した。
残りの一人が、領主の騎士団を呼び、今度は一気に百人単位の武器を持った人が集まる。
集まった騎士団にワルモーンの悪乗りが加速する。
今度は、帯剣していた二本の魔剣を抜く。
例の風と雷の魔剣である。
ワルモーンの普段使い用の魔剣。
まあ、魔剣を普段使いするのもいかがなものか、と思うが、なぜかワルモーンは、
この二本の魔剣をうまく使う。
風の魔剣で風を起こし壁や地面に騎士たちを叩きつけ意識を刈り取り、
雷の魔剣で電撃を起し、気絶させたり、麻痺させて行動不能に陥れる。
見事なまでに捕縛?していく。
まあ、不法侵入して暴れているのは、ワルモーンなので
悪いのはワルモーンとなる。
ただ、領主は金に目がくらんで違法な事をしているのだから
どっちが悪者かわからなくなる。
片や正義の名の元に、片や悪の名の元に。
やってることは、ほぼ同じことなのでホントに困る。
で、目の前で悪者が、騎士団をどんどん行動不能にしていく。
騎士を倒すたびに
「悪の力を思い知ったか」やら
「どうだ、正義の者どもよ、貴様らの力はその程度か」とか
「正義ごときが、悪にかなうと思うなよ」など
まあ、気分良く語っているワルモーンがいた。
悪の鏡のような大幹部である。
そう見て置こう、お供の方々は、そう納得することにした。
悪を語り出すとなぜか熱くなるワルモーンを
説得しようとか説き伏せようとか考えない。
基本は放置である。
なので、げんなりしながらも放置している。
その姿を初めて見たレベリットとエチアトは引き気味で見ていた。
それをさらに離れてみていたシンラーツは、
『こうしてウチの組織に染まっていくんだね』
と、身もふたもない客観論を考えていた。




