123 悪者は交渉する
鍛冶師の弟子と悪の組織の新人たちが、いやがらせに対して
奔走している時、ワルモーンの所にある人物がたずねてきた。
その人物は、今回の騒動の本命ともいえる人物、商人である。
ここは、ギルドの応接室。
ワルモーンを呼び出し交渉の場を設けたのだ。
ワルモーン自身はただ暇つぶしである。
新人たちに全て任せて暇なのだ。
あまりにも暇なので精霊狩りでもしようかと思うほどに…
それもシンラーツに釘を刺されている。
「狩りつくさないように」と。
手加減が苦手なワルモーンの行動をよく読んでいた。
流石は、副官候補である。
その為、やることがない。
そこに商人の使いが現れて、今に至るわけだ。
個室に現れたワルモーンに対してうやうやしく頭を下げる商人。
態度とは裏腹に表情は、貼り付けたような笑顔である。
「面会ありがとうございます、ワルモーン殿。私はエチアト、この街で手広く商売をあきなっております」
出迎えた商人はエチアトと名乗り、ワルモーンに座るように促す。
エチアトは、後ろに護衛が二人ほどいる。
警戒しているのは、まるわかりだがそれを悟らせないようにしていた。
ワルモーンは気にも留めていないが…
「で、オレに何の用だ。お前の相手をするほど暇じゃないのだがな」
と、仏頂面で答えるワルモーン。
勿論、ウソだが駆け引きとしては必要なのでワルモーンなりに答える。
「それは申し訳ございません。ですが私としてもあなた様にお話しをしたくご足労名が居ました。まあ、単刀直入に言わせていただきます。
私共にあなた様が手に入れた精霊石を卸していただけませんか?」
その申し出に、ワルモーンは思案した。
「何故、オレに?他にもいるだろう?」
「理由は、簡単です。嵐の山にお供の方と挑まれたことは知っておりますが、
初日には皆さんで行動されていましたが、
その後は単独で嵐の山に向かわれておりました。
それの無傷で。その後も単独で精霊の住処に挑まれております。
あの中ではあなた様が一番の手練れであることは理解できますし、
あなた様の風貌がミゾレ町で魔族を討伐した黒の騎士と合致いたします。
剣閃で魔族もろとも山すら切り裂いたと、もしあなた様がその騎士様なら
単独で精霊を倒せても問題ないと思われまして」
よく見ているな、とワルモーンは思う。
下調べもきちんとしたうえで自分に接触してきたわけだ。
感心もしていた。
「だから、オレが大量に精霊石を持っていると踏んだわけか」
「そうなりますな」
両手でもみながら笑顔を振りまく。
「だが、今手元には一つしかない。それに条件も付けようか」
「条件ですか?」
手もみしながら鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするエチアト。
「そうだ、貴様がオレと取引する資格があるかだ」
と、言うと机に精霊石を置いた。
それを見て目を輝かせるエチアトに
「その精霊石を加工してくれ。そしてその石の力を七割引き出せるアクセサリか武器を作ってもらう。できなければこの話は無しだ」
その言葉に少し感心した顔をする。
「ほう、試されるわけですか。確かに条件として申し分ありませんな。初対面の相手の力量を確認したいわけですな」
「そうなる、最低でも石の七割くらいは使えんと話にもならん」
「そうですな、ではその石を使って証明すればいいわけですな」
「そうだ、さらに条件がある」
「さらにですか?」
「オレが懇意にしている鍛冶屋の力を借りる事は禁止だ。
その上でその石を加工することだ」
「私共の力だけで行え、と言われるわけですな」
「弟子の引き抜きや依頼をかけて加工させることなどもってのほかだ。
その条件を守り、加工できれば話に乗ろう。どうだ?」
少し思案し、エチアトは
「わかりました。むしろ、提示された条件をクリアすればいいだけですから。
私共としてもわかりやすくてありがたいです」
「交渉成立だな」
と、いい立ち上がるワルモーン。
部屋を後にする前に
「そうだな、もう一つ付け加えようか」
「何か、まだあるのですか?」
「失敗したら、エチアト。お前たちはウチの組織の傘下に入ること。
そのくらいの緊張感はあった方がいいだろう」
「そうですな、そのくらいのペナルティがあった方が信用度は増しますな」
と、にやりとするエチアト。
失敗する気などないという、自信があふれていた。
「交渉成立だ」
ワルモーンはそういうと部屋を後にした。
まるで時代劇の悪だくみのような交渉を済ました部屋を。




