122 悪者以外は忙しい
如何せんワルモーンである。
悪の組織の大幹部で脳筋類に分類される人間だ。
その人間が、問題解決の手段として取るのは、割と限られる。
からめ手が苦手なので要は、正面突破。
力技である。
勿論、ワルモーンはそれを提案するが、一斉に却下された。
リーレからの提案は無難な方法で、まず鍛冶屋と協力して
嫌がらせをしてきている連中を調べ、証拠を集め追及するというモノ。
丁寧に行動をしないといけないし、手間もかかる。
でも確実だ。
ワルモーンも異存はないのだが、シンラーツから待ったがかかる。
鍛冶屋を救うのは、賛成だが時間がかかりすぎるのが問題だそうだ。
なので、絡まれたタイミングで容疑者を確保していくモグラたたきを提案した。
ただ、地主と商人に関して関係者を泳がしながらモグラたたきを行うというモノ。
あとは、撒き餌をまいて相手を誘導しよう、というもの。
これならば早期に解決できるという事で採用となった。
ワルモーンとしては、相手が分かっているなら容赦なく叩き潰すべきだという。
だが、その案は全力で却下された。
理由は、簡単。
ワルモーンが行動すれば街が灰燼と化してしまうから。
「手加減が異常に苦手なワルモーン君が動くと被害が尋常じゃなくなるのよ」
「師匠は強すぎます。手に入れた魔剣すら使う必要性がないくらい…」
「ワルモーンさんが動くと地形が変わるんですよ。
街中で動いたらと思うとぞっとしますよ」
「ワルモーン様お願い致します。必要なタイミングまで動かないでください。
せめて今回手に入れた魔剣を使いこなすまで。そうしないと街が滅びます」
「がうっがうがう」
と、仲間たちに全力で説得される。
狼の蒼月にまで手加減の具合を信用されていない。
流石のワルモーンもおとなしくすることに決めた。
勿論、風と雷の魔剣を使いこなすためには行動するつもりである。
それ以外は、みんなに任せることにした。
で、鍛冶屋にて…
頑固親父的な師匠とその弟子が二人。
悪の組織からの対策が伝達されていた。
ただ、弟子の二人は了承したが、頑固親父的な師匠は渋っていた。
いや、正確には困っていた。
絡まれたタイミングで困った演技をしなければいけない。
頑固親父的な師匠は、そこまで器用ではない。
それでも店の主なのでやらなければいけない。
その状況に唸っている頑固親父的な師匠。
「師匠は座っていればいいですよ、置物みたいに。後は私とタシフが請け負いますから」
と、姉弟子であるトイムが胸を張って言う。
「トイムよ、置物はないだろう。ワシだってな…」
「すいませんって。
でも来る客、来る客睨みつけてばかりいるんですから置物と言うか、
魔除けみたいじゃないですか。
鍛冶の腕は一級なのにその無駄に怖い顔と迫力のせいで
どれだけの客に逃げられたことか」
「それは、すまないと思っている。
だがな、今回の問題はその客がらみだろう」
「そうですけど、精霊石なんて掘り出し物を加工できるなんて凄い事でしょう?」
「確かに、そうなんだけどな。それで余計な厄介事ができたわけだしな」
「でも、嬉しいでしょ?」
「確かにな、否定せん」
「で、そんな中で常連になってくれそうな奇特な客が、
問題事解決に手を貸してくれるって言ってるんですから置物くらいなりましょうよ、師匠」
「わかったよ、やるわい。あ奴らが持ち込んでくるモノやネタは面白いしな。
ただし、ワシは動かんぞ。置物に徹するからな」
「それでいいですよ、タシフもそれでいいよね?」
若い男弟子はやれやれといった感じで答えた。
「姉さんは、言い出したら聞きませんからね。いいですよそれで」
「おっけー、じゃあがんばろ!」
姉弟子トイムは拳を突き上げた。




