107 悪者はごねる
一行は、精霊の森にやって来た。
シンラーツは悩んでいた。
ホントならワルモーンが帰ってくる前に森での修行も終らせるつもりだったのだが、
時間が足りなかった。
何故、悩んでいたか。
答えは簡単である。
自称、精霊の守護者、上位種と他種族を見下す馬鹿どもと
精霊の名の元に正義を行うとかいったら偉い事になる
ワルモーンは、相手を見下し、正義を振りかざす輩を極端に嫌う傾向がある。
彼女自身それがなぜかは理解できている。
彼の傍で悩み苦しみ、そして立ち上がる姿を見てきたから。
弱い彼、情けない彼、カッコ悪い姿という姿を全て見て、
その上で立ち上がり、踏み出す彼も見ている。
だからこそ、彼の拗らせ方もなかなかなものだ。
なので、彼の琴線に触れるような連中とかかわるのは避けてきた。
でも今回は、それも難しい。
ので、どう穏便に済ませるかを
残りの三人と相談中である。
この内容の相談を持ち掛けると
生徒であるルトラン、セメットは、遠い目をして諦め顔になり
リーレに至って「ワルモーン様の行動に間違いはない」と悪の組織の思想にどっぷりとつかっている。
もう話にもならない状態である。
生徒たちは、理解はできるが止めれるかはわからないと答え、シンラーツ自身もそれに同意した。
もう出たとこ勝負感全開である。
彼女は祈るように願った。
『どうかあの森人達がアホな事言わないように』と。
その願いは、果たして届くのでしょうか。
一行は、森に踏み入る。
もし、彼らが、精霊や森の守護者を語るなら
侵入者としての彼らを看過することはない。
必ず接触してくるだろう。
彼らについては、ワルモーンにも伝えてある。
予備知識なしだと殲滅対象になる危険性がある為で予備知識を与えることで
多少なりとブレーキが掛けやすくなっていると思いたい。
森を進む一行
その一行を阻むように矢が地面に突き刺さる。
「ここは精霊の森だ。部外者の侵入はそこまでしてもらおう」
木の上から弓を構える数人がいた。
「何しに来た、侵入者!」
「愚問だな、自称守護者ども!こんな辺境にわざわざ来るのだ。
目的は精霊を狩ること!精霊石が目的だ!」
ワルモーンはド直球級で答えた。
しかも内容が見事に守護者を逆なでする言葉である。
「そんな事を言うものをこの場で排除しないと思うか?」
「排除するだろうな、確実に。だがそれも早いか遅いかだ。
我々は下位精霊を狩るだけだ、それ以上でも以下でもない!
たとえ上位種であろうとも下位精霊の猛獣には手を焼いているはずだ!
その間引きをしてやろうというのだ。悪い話ではないだろう」
「何をほざく!狂暴であろうとなかろうと精霊は精霊だ。
我らは、守護者として守るだけだ」
「ほう、精霊愛護団体というところか。
でもな下位精霊に家族を教われた者たちにとってその言い分が通用するか?
なんでも保護すればいいなんて貴様らの傲慢でしかない!
共存するなら間引きもしないといけない。
要はバランスだ、精霊と貴様ら守り人の!
そのバランスを考えず一方的に保護だ愛護だと叫べば、
いずれ奴らの矛先は自分たちに向くのだ!
そんな単純な事にも目を向けず、自己陶酔に浸るだけでは貴様らは滅びるだけだ!」
と、ワルモーンが吠える。
「貴様らの言い分は侵略者の言い分だ。精霊は必ず我らに応えてくれる。
例え、我らの誰かが襲われてもだ。彼らを守ることが我らの使命だ」
「馬鹿か貴様らは!精霊や自然は貴様らに守られるほどやわじゃない。
さっきも言った。要はバランスだ、やりすぎなければいい。
自然の摂理だ、食物連鎖と言ってもいい。
その加減をすればいいだけだ。
一方的に守ってやるなんぞ、
なんて貴様らの見下し傲慢志向に
向こうが 『ありがとう!精霊保護団体!』なんて答えると思っているのか?
完全ご都合主義の甘ちゃん考えだ」
ワルモーンの口上が止まらない。
勝手な正義感に対して彼は手加減しない。
驕り、傲慢な考えに対して容赦することを知らない。
「貴様!それでは我々が精霊を家畜扱いしているみたいではないか!!」
「その通りではないか!
貴様らは、守護者という大義名分を掲げ、
自分たちの行動に酔いしれているだけだ!
自身の見えるところだけに目を向け、全体が見えていない。
だから、貴様らはアホなのだ!それを認めるのが怖いか?
それができないから精霊から見放されつつあるのではないか?
精霊と対等に立つ気の無い貴様らに精霊が呆れ始めているのはないか?」
「ぐっ!!」
ワルモーンの指摘に口ごもる守護者殿。
実際そうなっているようだ。
精霊の守護が失われつつあるようだ。
所詮、保護愛護を言いながら相手を家畜同然に見下していることに
気が付かない人間の典型だ。保護愛護だけを先走らせ、悦に入る。
宗教となんら変わりない。そのことにも気づいていないだけなのだ。
「ぐぐぐっ!!」
反論しようにも思い当たる節があるのだろう。
言葉にできないでいた。
舌戦はワルモーンに軍配が上がったようだが、これからどうする?
みたいにワルモーン以外は頭を抱え悩むのであった。
ごねる…というか語るの方がよかったかな
なんて思いましたが、もう勢いです。
気にしないでください。




