10 悪者、巣穴を襲撃する
ゴブリンの巣穴を見つけた御一行?は只今、絶賛襲撃中である。
と言っても一名だけなのだが・・・。
ワルモーンは、ゴブリンの巣穴につくと見張りなどお構いなしに進む。
見張りゴブリン20匹は、突然現れた黒い鎧の男に下卑た笑みを浮かべる。
数では、一対二十。
相手が強いだろうとは思っているが、数の優位が見張りゴブリンの判断を鈍らせる。
見張りゴブリンたちは、一斉にワルモーンに襲い掛かるのだがそれが彼らの最後となる。
ワルモーンは両手を広げ、一言「スタン!」と言う。
すると、高電圧の光が見張りゴブリンたちに降り注ぐ。
その光に飲み込まれた見張りゴブリンたちは、悲鳴を上げ絶命する。
見張りゴブリンだったものは、地面に落ちると黒い瓦礫なり砕ける。
「もう、黒炭じゃない。これじゃあ使い物にならないよ、ちょっとは手加減しなよワルモーン君」
と、後ろからシンラーツがひょっこと現れる。
「手加減したぞ、出力20%だ。それでも炭になったか、昨日よりさらに弱くしたんだが・・・意外と脆いな」
と、地面に落ちた黒炭を一瞥した。
「もう強すぎだよ、スタンの出力は1%にすること。加減しないとまた黒炭になっちゃう、こいつら捕まえて使い捨て兵にするんでしょ」
と、シンラーツは指をさしてワルモーンに説教する。
言っていることは正論だが、物騒な言葉もまざっている。
「わかったよ、オマエの言う通りにしてみる。それにまだ、穴の中にたくさんいるからな」
「そいつらは殺さないでよ、探すの大変になるから。生命反応があれば探しやすいから、そのくらいわかるよね、わかってるよね。本当にくれぐれも手加減してよ」
と力の限り念を押すシンラーツに
「わかっている。なんでオレがやりすぎること前提なんだ」
若干苛立ちながら言い返すワルモーン。
「実際やりすぎてるでしょ、キミは。手加減が苦手なくせに文句言わない。何度も言わないとすぐに全力で攻撃するからね、キミは」
とさらぶ念を押すシンラーツ。
「信用ないな、ホントに」
「信用してるよ。でもさキミは仲間を守るために全力で相手を倒すことばかり考えるから、手加減して戦うことに慣れてない。
だからこそ念のために言ってんの!」
「すまん、不器用で」
「いいよ、全部仲間の為なんだものね。不器用だからこそみんな君の事信頼してるんだよ、それに無茶ばかりするから心配もしてる」
「本当に仲のよろしいことで、お二人は恋仲なのですかな」
村長が突然余計なことを口走る。
その言葉に
「え~、そう見えます~」
と体をくねくねさせながらまんざらでもないシンラーツと
「こいつは、妹みたいなものだ。変な勘ぐりはやめてくれ」
と取りつく島もなく言い切るワルモーン。
だが、現地人御一行から見れば仲のいい二人のいちゃつきを見せられているようで緊張感もへったくれもない。
命がすぐに消えるような状況なのにそれを感じさせないほどに安心感がある。
もちろん、それをしているのはこの厳つく怪しい黒い鎧の男性・・・ワルモーンがいるからだ。
見た目からは想像できないほど誠実で真面目な人物である。
口調もどこかおかしなところもあるが誠実なのは間違いない。
村にいる時も手伝いを申し出てくれるし、子供たちのあいてもしてくれる。
村人たちの共通の認識は、とても良いひとである。
ただ、とても不器用な、が後に続く。
なので今のワルモーンの言い分も照れ隠しくらいにしか認知されていない。
要は、もうこの二人は夫婦漫才をしている程度に扱われているのだ。
「しかし、すさまじいですな。これで手加減しておられるのですか」
と感心するように周囲を見回すバー・ヌーシ、彼らを信頼する人間の一人である。
「でも、手加減がうまくできてない。たとえ害獣扱いの魔物でも本部が必要としてるんだからきちんとしないとね」
と胸を張りながら言うシンラーツに
「わかっている。とっつかまえて本部に送らないといけないからな」
「あの、その本部で捕まえたゴブリンをどうするのです?」
村長がわけもわからない状況を問いただす。
「それは決まっている。我ら悪の組織の先兵として使うのだ。無駄に増える魔物を有効活用するのだ」
と言うワルモーン。
それも現地人御一行にピンとこない。
「まあ気にしないで、害獣たちを私達にとって都合の良い家畜に変えるのよ。ウチの本部・・・うんわかりにくいか。
実家ね、実家。ソレが出来るのよ、だから生け捕りにして送るの。
だって数が多くて迷惑かけるだけの魔物が、逆に言うこと聞いて私たちの利益なる存在になればいいことじゃない?」
「そうですか、よくわかりませんが今の状況が良くなると思います。なんせあなた方はとてもいいひとですから」
と村長が言うと
「違うぞ村長。オレはいい人ではない。悪の人間だ、悪い人間なのだ」
と熱く語りだすワルモーン。
それに苦笑いを浮かべる現地人御一行。
一応話は聞いていた。
昨日の夜、シンラーツから説明を受けていた。
彼女の実家である悪の組織は、昔、正義やいい人のふりをした人たちにひどい目に会っていると。
そして、その反動で正義やいい人をキライになり、その逆になる【悪】を語るようになったということ。
でも、基本根がいい人たちの集まりなので行動は、周囲の人の為になるようなことしかしない。
でも、建前上【悪】であることを望んでいる。
なので出来るだけ口裏を合わせてほしい、と言われていた。
良いことをする人に【悪】と言うのは抵抗があるし、正しいのに【悪】と言うのは頭が混乱してくる状況なのだが、
適当に合わせてくれればいい、と言われているのでそうはふるまっているのだが、たまに常識が上回ってしまうのだ。
まあ、これが当たり前の状況なのだが・・・。
「まあ、いい。とにかく残りを片付けよう。シンラーツ、彼らを守ってくれよ。オレがきちんとこの巣穴の害獣を始末してくる」
と言うと巣穴の入り口に歩みを進める。
「きちんと手加減してね、黒炭にしたらダメだよ。手加減してね」
その言葉聞くバー・ヌーシと村長は乾いた笑いが浮かぶ。
本来なら、村壊滅の危機であるはずなのだが彼らの会話を聞くと悲壮感を持っている自分たちは何だろうと考えてしまう。
でも、それが許されるほど彼らは強いのだ。
そして、捻くれてはいるがとてもいい人なのだ。
それが、ここに居る現地人御一行に安心感を与えている。
「わかっている」
と言いながら振り向きもせず手を振るワルモーン。
普通なら死地に向かうはずが、そう思わないのは彼の勝利に疑問を持たないからだろう。
ワルモーンが巣穴の暗闇に飲み込まれていった。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。




