95 悪の組織劇場 第8幕 悪の副官は、疲れている
ツカ村は、港町である。
その海洋資源は、魅力的であり、それ以上に海洋運輸のかなめでもある。
そのため、交易も盛んでいろいろな交易品が手に入る。
教会はそれに目を付け関税やらいろいろ金を搾り取っていた。
神の名の元に、便利な言葉である。
その為、村は景気がいいのに貧困にあえぐといういびつな状況に陥っていた。
更に教会からの宗教に強制。
その為の反発が大きかった。
ワルモーンたちが教会を追い払ったおかげで重石の乗せられていたものがなくなり、
かつての賑わいを取り戻しつつある。
村人たちが、壊した教会の跡地。
そこに大量の材木が運び込まれる。
それを、やたらと元気な戦闘員たちが、手際よく動き始める。
何かを建てているのが分かるのだが、何だろう?
と村人たちも足を止める。
村長からは、何かを建てるとは聞いていたが、何が立つのかわからない。
村の恩人で同志と言ってきている【悪】の組織の人たちが行っているのもわかっていた。
村人たちも最初は【悪】だという人たちを警戒していた。
なんせ、自己申告で【悪】と言ってくる人たち警戒するなと言う方が無理がある。
なのだが、彼らと接しているウチに簡単になじんでいった。
辛い思いをしてきたことある組織の人たち。
気さくすぎて逆に何で警戒していたんだろう、と思うくらいになっていたのだ。
そこにエグーミが現れる。
見た目は敏腕女性秘書である。
その彼女が、戦闘員たちと打ち合せしてから村長のいる公民館に向かう。
因みにこの公民館も彼らの提案。
村長が変わるたびに会合場所が変わるのが面倒だろうという事で、
公民館を作ることを提案したのだ。
村での会合にも使え、村の業務を一貫して行える場所を作る。
以外にも簡単に取り入れられた。
分かりやすいし、目的地が固定されることが、意外と好評だった。
その中にある村長室にエグーミがやってきた。
中では村長がゲンナリしながら残務処理にてんてこ舞いしていた。
「村長お元気ですか?」
「いや、大変ですよ。
まあ、教会がいなくなってよかったんですが、後始末が大変で…」
「そうですか、我々も協力しますからもう少し踏ん張ってください」
と、微笑を浮かべるエグーミに
「いや、実際助かってます。教会がめちゃくちゃにした交易や村の秩序。
それに建物とかもそちらが何とかしてくれましたし、何よりも活気が戻ってくれて一安心です」
「そんな所申し訳ないですが、見てほしい書類です。目を通してくださいませんか?」
と、エグーミから渡される書類を受け取る村長。
書類をペラペラとめくり、眉間にしわを寄せる村長。
「これは何かの宗教ですか?もう宗教はこりごりなんですが…」
と渋い顔をする村長に
「宗教なのは、間違いないですね。ですがたいしたものじゃないです。
皆さんもやるでしょう、海の神様に無事に仕事ができますようにって」
エグーミは可愛く人差し指を立てる。
「確かにありますな。まあ、それも教会が、邪教だと壊されましたが…」
「それの復活です。というか、まとめてしまおうという計画です」
「ほう、それでは昔からの風習を戻せるのですな」
「そうです、それにいろんな神様がいると思うんですが、
それをひとまとめにしてお参りできる所作ろうというものです。
元の教会みたいなものだと村人たちの嫌悪感が出ると思いまして
私たちの母国と同じような物にしてみました。
もちろん神様がどれだけいるか知らないのでそのあたりを調べてもいいかの許可取りも兼ねての書類です」
「良いですが、アナタたちの国の宗教でなくて、我々の神様にして」
「ああ、いいですよ。宗教の押し売りは嫌がるんですよ、ウチの組織。
面倒なんで、あるものを利用するのが簡単で混乱が無いからという方針なんです」
「そうですか、それはありがたいところです。勿論許可しますよ」
「助かります、後ですねウチのバカ知りませんか?」
エグーミが言うと
「ああ、アーバレルさんですか。今は確か漁に出てると思いますよ、何にかの戦闘員さんたちと」
その言葉に頭を抱え、ため息を付く。
「もう何やってんでしょうね。仕事もしないで…、すぐ肉体労働に走るというか逃げる癖を抑えてほしいんですが・・・」
エグーミもため息を吐く。
「大変そうです、そちらも…」
「ええ、ウチは脳筋が多いので事務方は特に大変ですね」
「心中お察しします」
「ありがとうございます」
二人は、ガッチリと握手する。
お互いの苦労と健闘をわかちあうように。




