9 悪者、森を進撃する
夜の迎撃戦より一夜明けた朝。
村長とバー・ヌーシがワルモーンとシンラーツの四人と村人二人が森の中を歩いている。
ただ少し違うのは、彼らの歩く先は木々がうっそうと生えているにもかかわらず、
彼らの歩いた後には、明るく歩きやすい道が出来ていることだ。
前に立ちはだかる木々をシンラーツがなぎ倒し、倒れた木々や切り株をワルモーンが片付けていた。
倒れた木々は道の端にまるでゴミクズを投げるが如く軽く投げ飛ばし、切り株は道端の小石を拾うがごとく引き抜いて
これも道の端に投げる。その様子を啞然として眺める現地人御一行。
簡単に言えば悪の組織の二人が道なき道を歩きやすい道に開拓しながら進んでいる状況だ。
現地の方からすれば異常な状況なのだが、それも今更なのだ。
悪の組織の二人からすれば歩くのに邪魔だからの理由なのだが、彼らからすればその行動が理由が理解できないでいる。
まあ、考え方の違いなのだ。それにこれから向かう先にゴブリンの巣穴がある。
つまり確実な戦闘があるのだ。なのに、進みながら疲れるような事をするのは明らかにオカシイ行動に見えていた。
本番である巣穴攻略の最中で力尽きる可能性があるのだ。
にも拘わらず悪の組織の二人は疲れる様子もなく軽々とこなしていく。
まさに規格外である。
その姿を見る現地人御一行は改めて思う。
昨夜の迎撃戦の事である。
僅かな時間でゴブリンたちを討伐したと言われても納得できていなかったのだが、実際あの後、襲撃はなかったのだ。
それでも信じられない村人の中から代表者が今回の進軍に同行している。
更に悪の組織の二人の力を一度は目の当たりにしているバー・ヌーシでさえ驚きの表情を隠せないでいる。
それほどまでに悪の組織の二人の行動は非常識なのだ。
道を切り開き、整地しながら進む。現代でも非常識なのだが、悪の組織の二人はそれを苦も無くやってのけている。
まるで散歩ついでにゴミを拾う感覚で・・・まさに異常である。
それも楽しそうにしている。
現地人御一行からは、理解できない事だろう。
現代人から見ても異常な行動なのだ。無理もない。
常識外れであることを未だに理解できていない悪の組織の二人は無自覚に現地人御一行の考え方を侵略していくのであった。
だが、これは序の口である。
さらに非常識な状況が繰り広げられることとなる。
数時間かかる道のりを一時間ほどで目的地であるゴブリンの巣穴近くまで来たのだ。
近くまで来ると流石に悪の組織の二人も行動を慎みだした。
相手に警戒されたくないのだが、今更である。
散々でかい音を響かせておいて、いきなり音が消えれば相手も流石に警戒はする。
それを満足げに茂みの中から見つめる悪の組織の二人と唖然と見ている現地人御一行。
現地人御一行は、思う。
これがこの人たちの常識なのか、と無理やり納得しかない状況である。
そんなこともつゆ知らず、ゴブリンの巣穴を確認する悪の組織の二人。
意外と抜けている?悪の組織の二人である。
〇これは悪を気取ったいい人たちが、悪いことしているつもりで周囲に感謝されるコメディーである。




