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枯れない植物

作者: ウォーカー
掲載日:2023/06/26

 明かりが消され静まり返った夜、丑三つ時。

真っ黒な夜空に、煌めく一筋の軌跡。

軌跡は一直線に地平線に向かい、そして消えた。

後の夜空には輝く粒子の欠片。

その余韻を吹き飛ばすように、大きな爆発音が鳴り響いた。



 何故、植物は枯れてしまうのだろう。

枯れない植物があればいいのに。

そうすれば、木々は無限の果実をもたらし、

花々は永遠の安寧をもたらしてくれることだろう。

枯れない植物。そんな夢の植物が、唐突に発見されることになった。

世界樹。

その植物は後にそう呼ばれることになる。


 それは、地球の外からやってきたらしい。

ある夜、草原に、大きな爆発音と共に隕石が落下した。

翌朝、その草原に散歩に訪れた老爺が、

しゃがみ込んで地面を覗き込んで首を傾げていた。

「何じゃあ、こりゃあ?」

そこには、淡く輝く、小さな幼木が生えていた。

その草原には生えていなかったはずの植物で、

早速、地元の専門家によって調査が行われた。

しかし、いくら調べてもその幼木の正体はわからなかった。

今までに発見された植物のどれとも一致しない植物の幼木。

それはきっと、地球外からやってきたに違いない。

隕石に種が付着していて、落下したのであろう。

そういう結論になった。

それから、地球上に無い植物の貴重な試料サンプルとして、

その幼木は保護されることになった。

安全に採取できるまで、草原は立入禁止とされた。

しかし、それは全くの無駄だったことが、後に明らかになる。

翌日、専門家が様子を見てみると、その草原は幼木で溢れかえっていた。

どうやら、隕石に付着していた種は一つではなかったらしい。

隕石から多数の種がばら撒かれて幼木が芽生えたのだろう。

というのが、専門家たちの見解だった。

そうであれば、いくつかの試料を採取しても問題ないはず。

いくつかの幼木が根ごと採取されることになって、さらに翌日。

草原はさらに多くの幼木で埋め尽くされていた。

どうやら、その植物は種から育つだけではなく、

根を自ら切断し、そこから発芽して数を殖やしているらしい、

ということが明らかになって、

その繁殖能力の高さは人々を驚かせた。


 その植物が優れていたのは、繁殖能力だけではなかった。

葉は万病に効く薬になり、あらゆる栄養が摂れ、単純に食べても美味。

樹液は固まると金属のように硬く、それでいて軽い。

若い枝もまた薬になり、食料にもなる。

幹は丈夫で、滅多なことでは傷ついたり病気になるようなこともない。

殖やすことが容易で、どんな環境でも生育することができる。

隕石からもたらされたその植物は、人間にとって有益な、

まるで人間のために存在するようなものだとわかった。

簡単に殖やすことができる食料や薬として、

貧しい地域から都市部の道路脇にまで、その植物は世界中に分け与えられ、

月日を経て地球上に広く繁殖していった。

食料として薬として人々を支える存在。

その植物はやがて人々から、世界樹、と呼ばれるようになった。


 隕石に乗って地球にやってきた植物、世界樹。

食べれば美味で薬にもなる世界樹は、人々の生活を一変させた。

世界樹の幼木は、水と土さえあれば自ら数を殖やしていくので、

人間は畑を耕したり漁をする必要が無くなった。

今では、世界樹以外の食べ物は珍味扱いで、

一部の人たちのためだけに用意されるものになった。

世界樹の葉は、万病に効く薬にもなるので、

人間にとっての脅威はもっぱら怪我だけになった。

世界樹の樹液は、固まれば金属のように硬く丈夫になるので、

素材や建材として幅広く利用されるようになり、

人間は丈夫な道具や家を簡単に手に入れることができるようになった。

そうして世界樹は人間を守る天からの恵み物として、

人々から崇拝すらされるようになっていった。


 世界樹は、食料として薬として素材として、人間の生活を豊かにした。

しかしやがて、人々は問題に直面することになった。

水と土さえあれば勝手に殖える世界樹。

しかし、その水と土が問題。

無尽蔵に殖え続ける世界樹は、水と土を無尽蔵に食い荒らしていく。

最初に幼木が発見された草原のように、

今や世界中の土は、生い茂った世界樹によって覆い尽くされていた。

そして、世界樹が繁殖する影で、多くの植物が住処を奪われて消えていった。

その中には、かつては食料や薬として、

人間を支えてくれた植物も多数含まれていた。

さらには、世界樹は人間には有用な存在だが、土を豊かにする効果は乏しい。

世界樹が生い茂る土地は痩せていき、他の植物は朽ちていって、

荒れ地に立派な世界樹だけが残されることが世界中で相次いだ。

また、世界樹の樹液は有用な素材だが、樹液から水分は採取できない。

生い茂る世界樹は水を飲み干し、人々は飲み水に苦労するようになった。

病気にならず食べ物が豊富でも、水がなければ人間は生きていけない。

食べ物と水とを満遍なく採取するために、

人々は仕方がなく、世界樹を減らすことにしたのだった。


 世界樹を減らすとは言っても、それは容易なことではない。

なにせ、世界樹の樹液は、乾くと金属のように固くなるのだから、

世界樹の木を切り倒そうとノコギリの歯を入れても、

滲み出る樹液がみるみる固まって、逆にノコギリの歯が欠けてしまう。

問題は道具だけではない。

そういうことだから、世界樹の木を切るには、特別な道具が必要になる。

しかし、世界樹によって食べ物や薬が簡単に手に入るようになって、

人々は労働の多くから解放され、専門家の数も減ってしまっていた。

特別な素材を作ったり、重機で作業をしたり、そういった専門家の多くは、

職を放棄して食べるだけの人になっていた。

そんな人々が勘を取り戻すには、少なくない時間と修練が必要になる。

世界の中には、その手間を惜しんで、

世界樹の排除に強力な兵器が使用された地域もあった。

しかし、そうした後に残ったのは、

燃え残った世界樹の木屑や落ち葉と、

世界樹すら生えないような荒れ地以下の土だけだった。

土を残して世界樹を排除するには、人の手で行う他無いとわかるまで、

いくらかの時間が必要だった。

そんなことをしている間にも、土や水は世界樹によって奪われ、

人々は満腹の腹を抱え、しかし飲み水が無く倒れていく。

さらには、世界樹という名前までもが、人々の前に立ちはだかった。

世界樹は人間を救う天からの恵み物。

そんな世界樹を切り倒すなんてとんでもない。

世界樹がある生活に適応できない人間の方を排除するべき。

そんな言説が一部の人々に蔓延していき、

世界樹を排除しようとする人々と、守ろうとする人々と、

人間同士が分かれて、やがて大きな争いに発展していった。


 長く激しい人間同士の争いは、多くの犠牲と引き換えに終わった。

世界樹を守ろうとする人々が、その世界樹によって、

土と水を根こそぎ奪われた末のことだった。

争いは終わり、人々はやっと世界樹の無い世界を取り戻すことができた。

しかし、生き残った人々の胸中には、喜びや達成感は無い。

残された結果が重くのしかかる。

世界中の土は世界樹によって食い荒らされ、

多くの有用な植物は記録の中だけに残る存在となった。

さらには、世界樹はその繁殖能力の高さから、

一部だけを残すことができず、全て排除されることになった。

その結果、人々は飲み水に困る生活から、さらに食べ物にも困る生活へと戻った。

それなのに、世界樹が本当に地球上から無くなったのか、

成果を確認することはできない。

確認できるのは、失ったものだけ。

どこかで誰かが世界樹の種や欠片を隠し持っているかもしれない。

そんな疑惑が晴れることはない。

世界中に蔓延した世界樹は、手に入れるのが容易で、

ある種の人々にとってそれは武器となる。

一度ひとたび土を見つければ、世界樹は瞬く間にまた世界中に蔓延るだろう。

かつては天からの恵み物とされた世界樹の影に、人々はいつまでも怯えていた。


 世界から世界樹が消えて、しばらくの後。

かつては草原だった荒れ地を、子供たちが駆けている。

「早くー、こっちこっち!」

「待ってよー。痛っ!」

追いかけっこをしていた子供の一人が転んでしまった。

わらわらとその周りに他の子供たちが駆け寄って集まる。

「ねえ、大丈夫?」

「石にでもけつまずいたのかな。怪我はない?」

「うん、大丈夫。

 ちょっと転んだだけ。

 何だか、足が上手く動かなくて。

 ・・・これ、何だろ?」

転んだ子供が擦りむいた膝小僧を見せると、

そこには、皮膚を突き破って、

淡く輝く植物が芽生えていたのだった。



終わり。


 枯れない植物があったら、という場合を考えて話にしてみました。


枯れない植物は、その神々しさから世界樹と呼ばれるようになり、

しかし無尽蔵に土や水を貪り、結果として人間の害になるものでした。

木や花には気の毒ですが、限りがある方が人間には有益なように思えます。


植物は食料や薬にと有用で、

まるで人間のために存在するように思えるものもあります。

そうであれば、もしかすると逆のものも存在するかもしれません。


お読み頂きありがとうございました。


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